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俺の疑問の言葉の後、ハイシェーラさんはセンジンさんの屋敷で安静にする事で話が決まり、竜人族の人達は俺とセンジンさん、それにエルヴァンとバルドゥで警護する事になって話し合いは終了し、行動を開始した。
「それじゃあユキ、彼女の事は任せたぞ」
「分かりました。後の事はお任せください」
センジンさんの屋敷に、ハイシェーラさんを何とか運び込む事に成功した俺とセンジンさん。
センジンさんの言葉に、ユキさんは頭を下げてハイシェーラさんの体を預かってくれた。
俺とセンジンさんがハイシェーラさんの事をユキさんに任せている間に、エルヴァンとバルドゥが竜人族の人達を帰る亜人族に的確に混ぜる事をして、少しずつ集会場へと送っていく。
そうしてやるべき事はあと2つ、集会場へ向かった竜人族の事とセンジンさんに用があった様子のアラトの事だ。
センジンさんは少し悩んでいる様な、考え込んでいる様子でアラトが待っているであろう森の道を進む。
すると、
「……………」
先程アラトと話した場所に、アラトは木に背を預けた状態で待っていた。
ずっと、立って待っていたのだろうか?
結構な時間、彼を待たせてしまった気がするのだが…。
それとも、俺達の気配がしたから立ったのだろうか?
俺がそう思っていると、
「…アラト、それで話とは何だ?」
センジンさんがアラトに声を掛けると、アラトは預けていた木から背中を離してセンジンさんに向き直ると、
「センジン、俺は他の奴らの手なんか…ましてやそんな未だに怪しい奴と協力するのは反対だ」
アラトは俺の事を嫌そうな眼を向けつつそう言ってくる。
アラトの言葉を聞いたセンジンさんは、
「…アラト、ヴァルダは俺の爺さんの知り合いだ。信用は出来る、それにヴァルダは俺達の為に協力して頑張ってくれている。これ以上の、彼の働きに何の文句があるんだ?」
少し億劫そうに、センジンさんはアラトの言葉にそう反論をする。
その言葉を聞いたアラトは、
「………もういい」
少しの沈黙の後、彼はこれ以上話す事は無いと言った様子で俺達に背を向けて去って行ってしまった。
そんな彼の様子に、少し胸騒ぎがすると感じた俺は、
「センジンさん、もう少し彼と話しをしても良いんじゃないですか?彼1人でジーグが内部分裂を起こす可能性は高くはありませんが、それでも多少の亀裂が入ってしまうと思うんです」
センジンさんにそう言ってみると、
「…あいつの疑心感も、あいつの生い立ちを理解しているから否定はしたくはない。だが、爺さんが信用出来ると言ったヴァルダ、あんたを疑う様な事を言うアラトは俺は間違っていると思う。それに、あんたはしっかりと俺達に信用して貰える様に頑張ってる。それを無視する事を俺はしたくねぇし、アラトにもその気持ちを持って欲しいと思っている」
センジンさんは頭をガシガシと乱雑に掻きながらそう言うと、アラトが去って行った方向を一度見つめた後歩みを進めた。
センジンさんも、アラトの境遇を知っている故に強くは言えないし、俺を信用する様に強制するのも違うと思っているのだろう。
アラトには、時分の眼で信じられる者かどうかを見極める力を養って貰いたいと、センジンさんは考えているのかもしれない。
俺はそう思いながら、先を歩くセンジンさんの後を追いかけた。
そうしてセンジンさんと共に集会場と呼ばれる場所に辿り着いたのだが、これがまたただの住居とは少し違った建物の様子に俺は少しだけ観察してしまう。
森の奥の方にある敷地にやや広い拓けた土地があり、手前側は草が所々に生えている程度に均された場所があり、奥には少しだけ神聖な空気を感じさせる建物が見える。
どうして神聖な空気を感じるのだろう、そして何故か懐かしさを感じるのだろうか?
俺はそんな事を考えながら建物を眺めていると、この建物の形、神社の様な造形をしているのかと察する事が出来た。
どこか日本の古き良き建物を思わせる建物を見ながら、
「この建物、もしかして戦鬼さんが考えたモノですか?」
センジンさんにそう質問をすると、彼は建物を俺と同じ様に眺めながら、
「あぁ、爺さんがこういう建物があると良いと言ってな。意味は分からないが、それでもこの建物は眺めているとなんだか落ち着いてくる。それに爺さんが、俺よりも周りの皆に指示を出して一緒に建材を運んだりしていた光景が、おぼろげにだが思い出される。俺はあの時の爺さんみたいに、皆を纏めていきたいと思っている」
俺にそう言ってくる。
すると、
「ヴァルダ様」
俺達の後ろから、エルヴァンが声を掛けてきた。
どうやら、鍛練の方も終わった様だ。
「お疲れ様、エルヴァンにバルドゥ。竜人族の人達は皆もうここに?」
俺がそう質問をすると、
「はい、少し強引ではありましたが何とか全員を移動させる事が出来ました」
「その際に、ジーグの皆さんが新しい同胞の歓迎して、食料を分けてくださいました。あそこにあるのが、皆様が下さった物です」
エルヴァンとバルドゥが俺にそう伝えてくる。
バルドゥの言葉を聞いた俺は、拓けた手前側の土地の端の方を見ると、そこには結構な量の作物や海鮮が入っているであろう箱が積まれている。
「…これじゃあ剣聖の目を誤魔化すのも無理が無いか?」
センジンさんの言葉に、
「「「………」」」
俺とエルヴァンとバルドゥは、何も言う事が出来ずに黙ってしまう。
しかし、もうこうなってしまっては仕方が無いという結論になってしまい、それにジーグの人達が竜人族の人達を歓迎してくれている事を喜んだ方が良いという事になり、俺達はひとまず運ばれてきた食料を移動させる事にして、竜人族の人達がいる集会場へと食料を運んでいく。
基本的に俺達は建物の奥には入らずに、竜人族の男性陣が俺達が運んだ食料を更に建物の奥へと運んで行ってくれたお陰で、予想以上に早く全ての食料を運び入れる事が出来た。
そうして全ての食料を運び入れる事が出来た後、ようやくゆっくりと俺は懐かしさを感じる集会場へと入る事が出来た。
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