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エルヴァンとバルドゥ、そしてセンジンさんを連れて竜人族の人達が待っている場所へ向かっていると、
「ヴァルダ、わざわざ森の方へ案内をしたのか?」
後ろを歩いているセンジンさんが俺にそう聞いてくる。
彼の言葉を聞いた俺は、
「アンリのお陰で、剣聖の配下の騎士達を操る事は出来るんですが、それでも剣聖だけはまだ操る事が出来ていないんですよ。竜人族の移動を見られると色々と厄介ですからね」
皆を連れてきた場所に向かいつつそう説明をすると、ふと俺達の前に人影が現れる。
一瞬だけ警戒はしたが、それも警戒する人物ではない事を察する。
いや、俺からしたら警戒した方が良いのだろうか?
反対に、俺が警戒されているのだが…。
俺がそう思っていると、
「センジン、少し良いか?」
俺の事を視線に入れつつも、無視をする様に俺の後ろにいるセンジンさんに声を掛ける。
「アラト…。今は少し忙しい、少し待ってくれないか?」
アラトの言葉にそう返事をしたセンジンさんの言葉が気に入らなかったのか、アラトは表情を僅かに不機嫌そうに歪めるが、それでもセンジンさんの言葉に従って道を譲ってくれる。
俺は軽く頭を下げてから彼の横を通り過ぎ、センジンさんやエルヴァン達も俺に続いて彼の横を通り過ぎる。
そうして僅かにだが緊張する状況を脱して、俺達はシルと竜人族の人達がいる場所へと戻って来た。
「お待たせしました。こちらが、亜人族の国ジーグのリーダー、センジン・ムソウさんです。センジンさん、こちらが竜人族の族長であるハイシェーラさんです。…今少し体を痛めてしまっていて、この様な姿になってしまっていますが…」
「センジン・ムソウだ。リーダーと紹介されたが、別に特別な事をしている訳では無いけどな」
「竜人族族長ハイシェーラだ。この様な格好で申し訳ない。私の方こそ、族長は名ばかりだ。ただの年老いた老竜さ」
俺が仲を取り持つと、センジンさんとハイシェーラさんが互いに自己紹介をして挨拶をする。
そして、
「竜人族の皆、ようこそジーグへ。あまり派手な歓迎は出来ないが、それでも俺は貴方達の事を歓迎している」
ハイシェーラさんとの挨拶を一度終えたセンジンさんが、少しだけ警戒している竜人族の人達に向かって笑い掛けながらそう伝える。
その言葉に、警戒は少しだけしつつも竜人族の人達も無言で頭を軽く下げて挨拶をする。
そんな竜人族の皆を見たセンジンさんは、
「…俺達とはまた違う体だな。触っても良いか?」
ゆっくりと、彼らに警戒されない様に歩み寄るとそんな質問をする。
彼の言葉を聞いた、竜人族の男性は少し呆然とした表情をしつつ、
「あ、あぁ」
そう返事をすると、センジンさんは男性の腕を掴んで握る様に触り、
「おぉ、硬いな。ジーグにいる亜人族は、獣人が多いからこんな感じで体毛が覆ってるんだが、竜人族は鱗みたいな甲殻みたいな硬いのが覆ってるんだな」
センジンさんは自身を腕を見せながらそう言う。
竜人族に見せる様に突き出した腕を竜人族の男性に触ってみろと言わんばかりに近づけ、男性は少し困惑した様子でセンジンさんの腕に触れる。
そうして、センジンさんなりの距離の詰め方で少しだけ和やかになった空間に声を出すのは少し勇気が必要だったが、
「挨拶はこの辺で構いませんか?センジンさん、竜人族の人達を一度休ませてあげたいのですが、どこか良い所はありませんかね?」
俺はそう話を切り出す。
俺の言葉を聞いたセンジンさんは、少し考える素振りを見せた後、
「なら、普段は使ってない集会場に行くか。少し狭いかもしれないが、これだけの人数を匿うとなると場所は限られてくるしな。集会場は普段は誰も使ってねぇし、何の集まりも無いのにわざわざ中に入る奴なんて誰もいない。もしこの段階で集会場へ立ち入ろうとする奴がいるなら、そいつは絶対に怪しいって判断も出来るしな」
思いついた事を俺とハイシェーラさんに向かってそう説明をしてくる。
その言葉に、
「こんな大渋滞で来訪したのだ、文句を言うつもりは無い。しかしここまでの人数だと移動するにも結局目立ってしまうのではないか?」
ハイシェーラさんがセンジンさんにそう返す。
その言葉に、
「「…あっ」」
俺とセンジンさんの声が重なった。
「…センジン殿はまぁ仕方が無いとは思うが、君は少しは考えていると思っていたのだが?」
俺とセンジンさんの声を聞いたハイシェーラさんが、半目を俺に向けながらそう言ってくる。
彼女の言葉に俺は、
「いや、霊峰から海までの事しか考えて無かったです。申し訳無い」
素直に謝罪をすると、
「彼らを剣聖に見られる状況がマズいと言うのなら、私に考えがあるのですが構いませんかヴァルダ様?」
今まで俺達の会話を黙って聞いていたエルヴァンが、俺にそう言ってくる。
彼の言葉を聞いて、
「聞かせてくれ」
俺が頷いてそう答えると、
「今私達が行っている鍛練、それに参加している人達に紛れ込ませるのはどうでしょうか?服装は少し変えて貰うしかありませんが、剣聖は鍛練に参加している人数を全て把握はしていないと思います」
エルヴァンが俺の言葉に従ってそう説明をしてくれる。
エルヴァンの言葉に、
「なるほどな。確かに大人数での行動は目立つが、大人数の中に数人を紛れ込ませちまえば分からねぇか」
「全て我ら竜人族では、格好的に目立ってしまう。しかし服装を少し変えた程度の数人が何人もの者達に紛れているのなら、目には止まってもそれ以上は気にしないという事か」
センジンさんとハイシェーラさんが納得した様子の声を出す。
確かにエルヴァンの意見はとても良いモノだ。
「集会場へは、道案内を数人頼もう。剣聖がジーグでどれ程の情報を握っているかは分からないが、集会場へ行く期間や頻度を知っているとは思えない」
センジンさんがそう言い、
「では、その方法でお願いするとするか」
ハイシェーラさんは納得した声を出す。
まるで、これで解決した様な雰囲気に申し出るのが申し訳なるのだが…。
「あの、ハイシェーラさんはどうしますか?」
俺が気になった事を聞くと、
「「…あっ…」」
さっきと同じ様な、センジンさんとハイシェーラさんの声が聞こえてしまった…。
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