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偵察隊が逃げた事を確認した俺は、ひとまずシルと竜人族の人達と一緒に動く為にアレンカ・ジェネフ・ダフネを塔に戻した後、カルラを召喚して空へと飛び立った。
シルには近くを飛んでいる様にお願いしたから、どこかにいるとは思うのだが…。
俺がそう思っていると、
「ピィィ~」
俺を背中に乗せているカルラが、高く少し伸ばした鳴き声を上げる。
その声に俺が彼女の向いている方向に視線を移すと、そこにはシルやハイシェーラさん、竜人族の人達が俺を待っている様に上空にいた。
シルとハイシェーラさんは風に乗って浮かんでいる様子で、他の竜人族の人達は自分達の翼を羽ばたかせている。
そんな彼らの元までカルラと共に飛んで行き、
「お待たせしました。それでは、ジーグへ案内させていただきますね」
俺がハイシェーラさんや竜人族の皆にそう声を掛けると、
「よろしく頼む」
ハイシェーラさんが俺の言葉にそう言ってくる。
それから俺達は霊峰を後にしてジーグへと向かう。
その際に、俺の後を追いかけて飛んでいた竜人族の人達は霊峰から見える景色以外を目にした事が無いのだろう。
物珍しそうな顔で、草原やそこにいるモンスターを興味深そうに見ている。
子供達などはつい見た事が無いモノを見ると、どうやら気になってしまう様で俺達から離れてしまいそうになって、親に怒られたりしている。
可哀想ではあるが、それでも今はなるべく急いだ方が良いだろうと思って今は子供達には我慢してもらおう。
俺はそう思いながら、辺りに危険などが無いかを気配察知スキルを発動しつつ移動を続けた。
いくら他の亜人族の人達に比べて、竜人族の種族としてのステータスが高くてもカルラの速度を維持しつつ飛び続ける事は不可能であり、休憩を取り入れつつの移動であったが故に2日はどうしても掛かってしまった。
野外泊は竜人族の人達も初めてだった様で、周りを警戒しながらの就寝に体力を削られてしまったのだろう。
俺からでも分かるくらい、体力を消耗していた。
俺は港町が近づくにつれて、今体力を消耗している彼らに海を渡るのは厳しいだろうと思い、一度思いっきり休んで貰おうと考えて、少しだけ進路をずらしてくれる様にカルラにお願いした。
そうして港町を避けてつつ、今は海岸にある崖下に身を潜める様にして竜人族の人達の回復を待つ。
さて、後は海を横断してジーグに行くだけか。
それからはジーグで竜人族の皆さんが暮らせる場所を探すか、もしくは気に入る場所が無かったら更に移動を進めるか、塔に来てくれるかお願いをしてみるとするか。
俺がそう思っていると、ふと大きな気配がスキルに反応して俺は少しだけ警戒をする。
しかしその大きな気配は特に大した動きはせずに俺達の近くを素通りしていくのを感じ取ると、俺は僅かに警戒していた気を緩めて、
「もう少ししたら、出発しましょう」
竜人族の人達にそう声を掛けた。
竜人族の皆の様子が落ち着いた頃、俺達は再度空へと飛び立ってジーグへ向かう為に海上を飛ぶ。
俺はカルラに乗っているし、俺自身が飛んでいる訳では無いのだが…。
それと、ハイシェーラさんも自由では無いし、むしろ一番大変な状況ではあるのだが…。
しかし、俺は海上では人族に見られる心配はほとんど無い事だと思い、俺は竜人族の皆に少しだけ自由に飛んで良いと伝えて、彼らは俺に付いて来ながらも初めて見る海の様子に興味深そうに観察しながら付いて来る。
人目を気にしないで、楽しそうに自由に飛んでいる人達もいる。
そうして、竜人族の人達の体力的がギリギリになりつつも、何とかジーグに辿り着く事が出来た。
と言っても、まだ正確にジーグにいる訳では無いのだが…。
俺はそう思いながら、ジーグから少し離れた森で気配察知スキルを発動する。
ゲームでもこの世界でも、気配察知スキルは万能である…。
必要ない戦闘も回避出来るし、先に先制を仕掛ける事も隠れて逃げる事すら出来る。
改めて、「UFO」時代から習得しておいて良かったと思える。
俺はそんな事を考えつつ、まずは辺りに怪しい気配が無いかを探る。
今警戒するのは、剣聖だけではある。
しかしその剣聖の正体が掴めていない以上、警戒しておく事は無駄では無いだろう。
よし、辺りに気配は感じない。
「一応ここがジーグから離れた森なんですけど…。話、聞いて…ないですね…」
俺が気配察知スキルに意識を逸らして竜人族の人達に話しかけたのだが、竜人族の皆は森に生えている草木に意識が向いてしまっている様で、俺の発言は耳にも入っていない様だ…。
「こらお前達…、しっかりと彼の話を聞くのだ…」
流石にハイシェーラさんも、いくらシルの風に乗っていたとしても疲れたのだろう。
腰も痛めているのもあるだろうが、竜人族の皆を注意する声に覇気が無い。
俺はそう思いながら、
「まぁ、霊峰にはあまり植物は生えていなかったですし、景色としては見慣れていてもこうやって間近で見るのとは違いますからね…。仕方が無いとは思いますけど…」
ハイシェーラさんに、あまり怒らないであげて欲しいと伝え、
「シル、ハイシェーラさんをよろしく頼む。俺はエルヴァン達を連れてくる。それまでここで待機してくれ」
「は~い」
俺はシルにこの場を任せると、エルヴァン達がいる場所に向かう。
エルヴァン達が鍛練をしている場所へと向かうと、エルヴァンが数人の亜人族と対峙し、バルドゥは1人1人に丁寧に指示などを出している。
センジンさんも1人の亜人族と対峙して、敵がこう動いたらどう動いて対応するかを聞いたりしている。
より動きを正確に、より素早く動かせる様に反射的に体に覚えさせようとしているのだろう。
鍛練らしい鍛練をしっかりとしているな。
俺はエルヴァン達が行っている鍛練の様子を見てそう感想を抱いていると、
「…ヴァルダ様、お帰りなさいませ」
「っ!お帰りなさいませ、ヴァルダ様」
「おぉッ!意外と早く帰って来たな!」
帰って来た俺にエルヴァンが気づき、彼の言葉にバルドゥとセンジンさんが反応して俺にそう声を掛けてくる。
俺はエルヴァンとバルドゥ、そしてセンジンさんを呼び出すと、
「すまないが、少しだけ時間を貰えないだろうか?竜人族の方達を連れて来る事が出来た。挨拶も含めて、話し合いが必要だと思っている」
俺がそう話を切り出すと、センジンさんは少し楽しそうだった表情からキリッとした真面目な表情に変化させ、
「分かった。案内をしてくれ」
そう言ってくる。
センジンさんの号令で、周りの亜人族の人達は休憩になり、俺達は先程の竜人族がいる場所に向かった。
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