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俺が作戦を伝えた後、アレンカ・ジェネフ・ダフネは移動を開始して竜人族の皆はいつでも飛び立てる様に準備をしている。
といっても、準備らしい準備も無く普通に翼を広げているだけだ。
「ではシル、ハイシェーラさんを含めて竜人族の避難のタイミングは任せる。俺もアレンカ・ジェネフ・ダフネの陰に隠れる形で動く。任せたぞ」
俺はシルにそう言うと、
「は~い、お任せを~」
間延びしている返事が返ってきて、緊張感というものが無いのは仕方が無いのだろうか?
俺はそう思いながら、遺跡の屋上から飛び降りてやや下にある遺跡の屋上へと飛び移り、更にそこから霊峰の岩肌へと降りてアレンカ・ジェネフ・ダフネの後を追いかける。
すると、
「ッ!?な、なんだッッ!?」
「ドラゴンッ!?いや、三つ首のドラゴンなんか知らないぞッ!」
「こんなのがいるなんて聞いてねぇ!」
どうやら偵察隊がアレンカ・ジェネフ・ダフネの姿を確認した様子だ。
移籍へ来る前に聞いた笑い声とは反対の、恐怖で上ずっている様な焦っている様な声が何度も聞こえてくる。
すると、
「…えっと…。私の住処に土足で侵入した貴様達を今すぐ、死を乞いたくなる様な苦痛に晒してあげますわ!」
「どんな魔法で引き裂かれたいですか?それとも体に穴を開けてあげましょうか?貴方達をどうすれば良いか、悩んでしまいますねぇ」
「死にたい?死にたくない?でも、死なせてあげる」
お、俺の説明をしっかりと理解していたのか不安になる単語をいくつも発するアレンカ・ジェネフ・ダフネ。
それとも、単純に偵察隊を脅す為の過剰な発言なのだろうか?
俺がそう思っていると、
「ふ、ふざけんなッ!危険が無いって言うからこの依頼を受けたって言うのに、こんな訳が分からないモンスターが出やがるなんてッ!」
「ッ!遺跡の調査は一度諦める!それぞれ散開して逃げるんだッ!」
「待てッ!遺跡の調査が出来ずにのこのこと帝都に戻ったりしたら、俺達の出世がどうなると思っているッ!」
「騎士共の出世なんか俺達には関係ねぇッ!命あってこそだろうがッ!」
「恥晒しの冒険者には俺達の苦労が分からないだろうなッ!」
「んだとテメェッ!」
どうやら相当パニックになっている様子で、騎士数名と冒険者達側で意見が分かれている様だ。
冒険者達は流石、実際に同じ様な場面に出くわしているのかは分からないが、慌てつつも冷静に撤退する事を選んでいる。
しかし反対に、騎士達はこの状況でも逃げるという選択は自分達の出世に響くと考えて、撤退する事を躊躇している様だ。
散開して逃げるという判断も、冒険者側の指示だろうしより多くの仲間の命を助けるという面では、良い判断をしたとは思う。
しかし、
「アレンカ・ジェネフ・ダフネ、アースウォールを発動」
バラバラに逃げられたら面倒なので、まだある程度集まっている内に捕まえてしまおう。
俺はそう思ってアレンカ・ジェネフ・ダフネにそう指示を出すと、
「「「アースウォール」」」
俺が霊峰の足場を悪くするために発動していたアースウォールとは比べ物にならない程、巨大な土の壁が地面から隆起して偵察隊を囲う様にいくつもの壁が出現する。
その様子に更にパニックになった偵察隊は、持っていた荷物もその場に放置して逃げ出そうとするのだが、既に遅かった。
城壁ではないかと思う程高く、霊峰の地面を変化させてしまう程の幅があった土の壁から逃げ出す事は出来ずに、彼らは咆哮と言っても良い程の大声を出しつつ土の壁に囲まれてしまった。
よし、一応気配察知スキルを発動。
………周りに隠れている人もいない、全員壁の中に捕まえる事が出来た。
俺はそう思うと、アレンカ・ジェネフ・ダフネの背中に飛び移って、そこから見える遺跡の屋上で待機していたシル達に手を大きく振って合図を送る。
それと同時に、シルがハイシェーラさんと共に空へと浮かび上がると、彼女達の後に続いて竜人族の人達も一斉に空へと飛び立つ。
人数は多い訳でも無いが、それでもある程度の時間は掛かってしまう。
俺はそう思いながら飛んで行く竜人族の人達を見ていると、
「じゅる…。ほら私の毒液よ。触れると体が溶けてしまいますけど、誰から触りますか?早くしないとこの壁の中では溶けて充満していく毒に苦痛で全員が耐えられなくなるわよ」
「私的には、先程揉めていた貴方と貴方のどちらかが良いと思うのですよ。悩んで、選んでくださいね。見事に腕一本位溶かせる事が出来たら、解放してあげますよ」
「皆死ぬ姿を見たい気持ちも、ある」
後ろでは、僅かに開けておいた土の壁の上からアレンカ・ジェネフ・ダフネが黄色い毒液を土の壁の中へ垂らしている姿が見える。
「ふざけんなッ!腕一本も溶かしちまったら、結局そこから毒が回って死んじまうだろうが!」
「お前ら冒険者がやれッ!この隊を任された俺からの命令だッ!」
「騎士だからって何でも俺達に命令して良いとは言ってねぇんだよッ!今この場でお前の腕を斬り落として毒液に突っ込んでも良いんだぞッ!
「上等だ!冒険者風情が俺達騎士に剣の腕で勝てると思っているのかッ!」
そして、土の壁の中では偵察隊の状況がどんどん悪化している様子で、そんな生贄の押し付け合いが始まっていた。
「ふふ、愉快ですわ。こんなにも毒で苦痛に歪む顔が見れただけでも、良しとしましょう」
「ふふ、たくさんの人が苦悩している姿は、哀れで愉悦。もっと見ていたいです」
「死ぬまでの光景を観察するのも、また死への一興」
土の壁の中を覗き込みながら、争いを見ているアレンカ・ジェネフ・ダフネは楽しそうにそんな事を囁いている。
さて、土の壁の中の人達の争いが終わるか、それとも竜人族の人達が飛び去るのが早いか、どちらだろうか…。
俺は土の壁の中から聞こえる怒号と、激しく金属同士が衝突する音を聞きつつ、最後の竜人族の青年達が飛び去って行くのを確認し、辺りに残っている者がいないかを確認する。
「苦痛に蝕まれ」
「苦悩をし続け」
「…死んでね?」
偵察隊の争い事を見て、楽しそうにしているアレンカ・ジェネフ・ダフネを見て、俺は少しでも気が晴れたのなら良かったと思いつつ、次の行動をする為の準備に入った。
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