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「アレンカ・ジェネフ・ダフネ。突然の呼び出しすまないな。それと前回約束した物も、まだ準備が出来ていない。すまない」
俺はまず、突然呼び出した事と前回の約束を未だに果たせていない事を謝罪する。
その際にしっかりと頭を下げると、
「…ふんっ、ヴァルダ様も放置される幼気な私の苦痛を知るべきですわ」
「許したい気持ちもありますけど、それでも何もしないまま許すのも嫌ですね。悩みますわぁ」
「許してあげるから、死の?」
そんな声を掛けられてしまう。
すると、
「そんなにヴァルダ様の事怒っちゃ可哀想だよ~」
シルが俺の隣までふよふよと浮きながらやって来ると、アレンカ・ジェネフ・ダフネにそう言う。
シルの言葉を聞いたアレンカ・ジェネフ・ダフネは、
「…そ、そこまでヴァルダ様を責めている訳ではありませんわ!少しだけ、私の感じた苦痛をヴァルダ様も感じると良いと言っただけですわ!」
「でも、簡単に許してしまったらそれはそれでわだかまりが残りますよね?私が気にしなくても、ヴァルダ様が気にしてしまうのではないのですか?それは私も本意では無いのですよ。………悩みますね~」
「一緒に死んでくれたら、何でも許すよ?」
シルの言葉にそう返す。
その言葉の様子に俺は、
「本当に申し訳無い。アレンカ・ジェネフ・ダフネに対していい加減な事をしていた。挽回のチャンスをくれないだろうか?」
頭を下げた状態のまま、俺はアレンカ・ジェネフ・ダフネにそう質問をする。
すると俺の言葉を聞いたシルが、
「ほら、ヴァルダ様がこう言っているんだし~、この手に乗っかった方が良いと思うよ~」
俺の話しに乗った方が良いと、助け舟を出してくれる。
俺とシルの言葉を聞いたアレンカ・ジェネフ・ダフネは、
「…分かったわ、これが最後なんだから覚悟して私を楽しませるのよ!私をほったらかしにした苦痛を味あわせてあげるんだから!」
「たくさん悩んで、悩んで悩んで悩んで悩んで下さいね」
「…それが終わったら、一緒に死の?」
そう答えてくれて、俺は下げていた頭を上げてアレンカ・ジェネフ・ダフネの事を見る。
そこには三つの首を何度も行き来させて、自らの首同士が絡み合っているアレンカ・ジェネフ・ダフネの姿が見える。
少しだけ、機嫌を直してくれた様だと安心しつつ、
「それですまないが、アレンカ・ジェネフ・ダフネを呼び出したのにはお願いがあるのだ。聞いてくれないだろうか?」
そう聞くと、本題を切り出す。
俺の言葉を聞いたアレンカ・ジェネフ・ダフネは、首を絡ませた状態のまま、
「良いでしょう良いでしょう!ヴァルダ様にはどの様な苦痛も味わえるスペシャルなコースを用意してあげましょう!」
「私の願いを聞いてから、悩みましたけど先に聞いてあげますよ」
「願い聞いて、叶えてあげて叶えてくれたら一緒に死ぬ?」
俺にそう聞いてくる。
と、とりあえず説明をすれば良いのだろうか?
俺はそう思いつつ、少し気になって後ろで待ってくれている竜人族の方達に視線を向けると、皆が自分達よりも遥かに大きいアジ・ダハーカの存在に畏怖の視線を向けている。
しかし、そんな視線を意に介していないアレンカ・ジェネフ・ダフネは俺の言葉を待っている様だ。
俺は、ハイシェーラさんを含めて竜人族の人達がアレンカ・ジェネフ・ダフネに何か声を掛けると思っていたのだが、ハイシェーラさんもシルの風に揺られているだけであり、今は話せる余裕が無いのだろうと考えて、アレンカ・ジェネフ・ダフネに少しだけ状況の説明とこれからの事について説明を始めた。
そうして俺が全ての説明を終えて、頼みたい事を伝えた結果。
「ヴァルダ様の頼みとあれば、私はその者達を苦痛で返り討ちにしてあげますわ!」
「どの様に追い払うか迷いますね~。1人か2人くらい、引き裂いてはダメなのですか?」
「死がどれだけ身近なモノか、教えてあげたい」
言っている事は物騒ではあるが、それでも頼もしい返答が返ってくる。
アレンカ・ジェネフ・ダフネの言葉を聞いた俺は、
「ひ、引き裂くのは腕とかくらいなら許すが、首とか命に関わる事は駄目だぞ」
流石に殺してしまう事で、あえて帝都の意識をジーグと霊峰に割くという作戦がダメになり、霊峰にもっと大部隊の討伐隊が割かれてしまったら、遺跡までに到達した討伐隊が竜人族の死体なども無い事を変に疑われると、エルヴァンと偽って騎士団の団長になっているあの男の存在も審議されるかもしれない。
ドフルトがどうなっても良いとは思っているが、出来るだけ帝都の戦力を弱体した状態を維持していたいのも本意だ。
やはり、今はアレンカ・ジェネフ・ダフネには殺すような過激な動きは危険だろう。
俺はそう思っていると、
「ヴァルダ様が、そこまで悩まし気な表情をしているという事は、本当にして欲しくないのでしょう?この暴れたい気持ちを我慢する事は苦痛ですが、ヴァルダ様の為に抑えましょう!」
「ヴァルダ様の為に、悩みましたけど死なない程度に脅す程度にしておきますね」
「死ぬ手前まで、痛めつける」
アレンカ・ジェネフ・ダフネが俺の事を気遣ってそう言ってくれる。
俺はそんな彼女の言葉を聞き、目の前にいるアレンカ・ジェネフ・ダフネと背後にいる竜人族の皆に聞こえる様に、
「ありがとう。では作戦を伝える。アレンカ・ジェネフ・ダフネはこれから荒れた霊峰の岩場まで移動し待機。向かい側から偵察隊が現れた瞬間、咆哮を放って存在と威圧感を確認させてくれ。おそらくその瞬間、偵察隊の視線はアレンカ・ジェネフ・ダフネに集中するだろう。その隙に、シルとハイシェーラさんが先導して竜人族の皆さんを霊峰の岩肌を沿う様に低空飛行で移動し、見つからない様にかつ迅速に移動をしてもらいます。アレンカ・ジェネフ・ダフネは竜人族の人達が移動している間、偵察隊の視線が自分に集まる様に言葉を発したり、魔法を使って牽制して欲しい」
そう作戦を伝えると、
「…ヴァルダ様は~、その間何をしているんですか~?」
シルが眠そうになりながらそんな質問をしてくる。
彼女の言葉に俺は、
「俺は偵察隊の意識が他に向かない様にしつつ、先に飛んでいくシル達のサポートをする」
自分も姿を見られないようにしながら、皆のサポートに付く事を伝えた。
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