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大広間へと戻って来ると、竜人族の方達がハイシェーラさんの事を毛皮で包み込んでおり、
「…暖かいのは嬉しいが、これは私自身がお荷物状態では無いのか?」
そんな自分の事を客観的に見た時の印象を、少し落ち込んだ様子で言ってくるハイシェーラさん。
彼女の言葉に、
「婆様、実際にこんな大事な時に腰を痛めて動けなくなっているそのお姿は…」
彼女の近くにいた青年が、毛皮に包まれているハイシェーラさんの事を見て笑いを我慢した様子で少し声を震わせながらそう言葉を掛ける。
完全に、お荷物扱いになってしまっているなハイシェーラさん…。
俺がそう思っていると、
「………普段なら馬鹿にするなと一喝している所ではあるが、今はぐうの音も出ない程言う通りだ。こんな大事な時期に、まさか皆に迷惑を掛けるなど…」
ハイシェーラさんが頭まですっぽりと毛皮で覆われて、まるで拗ねている様に見えて俺も笑いそうになってしまう。
そんなハイシェーラさんを毛皮で包み終えると、
「これで良いのだろうか?」
青年が俺にそう聞いてくる。
彼の問いに俺はハイシェーラさんの事を見ながら、
「はい、大丈夫です。では、彼女は俺が請け負いますので皆さんはすぐに飛び立てる様に屋外へと移動を始めて下さい」
青年を含めて、大広間に集まっている皆にそう指示を出すと、俺の言葉を聞いた皆が落ち着いて移動を開始し始める。
俺はそんな様子を見ながら、
「では、ハイシェーラさんも移動しましょうか」
俺は毛皮に包まれているハイシェーラさんに声を掛けると、
「…よろしく頼む」
毛皮に包まれている故に、顔が見えないハイシェーラさんのそんな言葉が返ってくる。
彼女の言葉を聞いて、
「一応俺個人としては一番この方法がハイシェーラさんのお体の負担にはならないと思っているので、それでも何か伝えたい事などがあれば言って下さいね」
俺はハイシェーラさんにそう先に注意というか、この方法が嫌だったら申し出て下さいと暗に伝える。
俺の言葉に少しだけ疑問そうに思って表情に出しているハイシェーラさんではあるが、俺はそんな彼女を脇目に、
「召喚、シル」
本の中の世界を開いて、風の精霊であるシルを呼び出す。
俺に呼び出されたシルは、いつも通り風にふわりふわりと乗りながらも寝る体勢という器用な姿勢をしながら、
「ふわぁ~、お呼びですかヴァルダ様~?」
俺にそう挨拶をしてくるシル…。
姿勢を正せとまでは言わないが、一応状況と初めましての人がいるこの状況で今のシルの格好はマズいだろうと考え、
「シル、こちらは竜人族の族長であるハイシェーラさんだ。今は俺と協力関係にある、もう少ししっかりとした挨拶を彼女にしなさい」
俺がシルにそう伝えると、彼女は俺の言葉を聞いてゆっくりと体を起こし、
「初めまして~、私はシルと言います~」
簡潔な自己紹介をした後、彼女は少しだけ頭を下げる。
まぁ、彼女からしたらしっかりと挨拶出来た方だろう。
俺はそう思うと、
「ハイシェーラさん、シルはこんな感じではありますがちゃんとしているので、どうか信用して下さい。ハイシェーラさんを運ぶのに、シルが最適だと俺は思っているので」
ハイシェーラさんに苦笑しながらそう伝えると、
「ヴァルダ様~、こんな感じってどういう意味ですかぁ~?」
少し不満そうな声で、俺にそう抗議をしてくるシル。
そんな彼女に、俺は謝りつつ、
「シル、ハイシェーラさんは腰を痛めてしまってあまり身動きを取る事が出来ない。シルには、彼女を風で運んで欲しい。出来るか?」
シルにそう聞くと、彼女は不満そうな表情をしつつ、
「出来ますよ~。前にヴァルダ様とその他のモノも浮かせられたじゃないですか~」
俺が不帰の森で捕まえた者達を運んだ時の事を言ってくるシル。
彼女のその言葉に、
「確かに、そうだったな。じゃあ、お願いできるか?」
俺がそう返すと、シルはもぅっ…と言いたげな様子を見せつつ緩やかに感じつつも力を感じさせる風を起こして、横たわっているハイシェーラさんを覆うと、
「おぉ…。変な感じがするぞ」
徐々に浮き上がったハイシェーラさんが、少し緊張した声でそう言ってくる。
そんなハイシェーラさんに、
「急に動いたりしないでね~。落としちゃうかもしれないから、動く時は事前に言ってね~」
シルはそう注意をする。
と言っても、今のハイシェーラさんは自身で身動きをあまり取れないのだが…。
だからこそ、今シルに運んでもらっているのだが…。
俺はそう思いつつ、
「では、俺達も屋外へと移動しよう」
そう言ってシルとハイシェーラさんと共に続々と移動を始めている竜人族の方達の後を追いかけ、大広間を後にして遺跡の屋根が崩れている場所へと移動し、そこから更に遺跡の屋上へと移動する。
屋上から見える景色は眺めも良く、俺が仕掛けた足場が悪い霊峰の岩肌もよく見える。
さて、更にここから移動するには偵察隊の奴らに見られない様にしなければいけない。
では、始めるか。
「召喚、アレンカ・ジェネフ・ダフネ」
単純な体格の大きさによる視覚的な威圧感、人の言葉を話すという高位のモンスターであるという印象、そして敵意しか感じさせない言葉。
帝都に危険だと判断させるのには、十分な逸材だと俺は思っている。
俺がそう思っていると、普段ならあまり見る事が出来ない巨大な黒い靄が出現し、そこから三つの頭、首、そして巨大な体の順々に姿を現すアレンカ・ジェネフ・ダフネ。
一歩歩くごとに地響きを発生させ、流石にこの振動では偵察隊にも異常な事がバレたであろうと考え、俺はすぐに行動を開始した方が良いなと察する。
俺がそう思ってアレンカ・ジェネフ・ダフネに話しかけようとした瞬間、
「随分と放置されていた気がしたのですが、その間の私の悩みをヴァルダ様はどうお考えでしょうか?」
「私の苦痛と同じ分、ヴァルダ様にも苦痛を感じて欲しいですわ…つーんっ!」
「死の?一緒に死のう?」
アレンカ・ジェネフ・ダフネの機嫌が悪いのが、一瞬で分かる発言が浴びせられた。
そう言えば、アレンカ・ジェネフ・ダフネに次に会うための土産を用意するのを忘れてしまっていた…。
俺は少し不安に思いながら、アレンカ・ジェネフ・ダフネの事を見ながら口を開いた。
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