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俺の発言を聞いたハイシェーラさんが、
「待て、この大人数で空に飛び立つのはあまりにも危険ではないか?すでに外には人族の偵察者達がいるのだろう?」
横たわった状態のまま、俺にそう言ってくる。
彼女の言葉を聞いた俺は、
「えぇ、でも俺もそれについては色々と考えてはいます。方法としては、偵察隊を気絶させるとかして意識を手放している隙に移動するのが良いとは思っているんですけど、どうやって彼らを気絶させたら良いかを考えています。殺してしまっては、偵察隊の報告は帝都に伝わらずに向こうを混乱させる事が出来ないですから。それについては、今考え中ってところです。後は、動けないハイシェーラさんをどうやって運ぶかですが、流石に複数人いても動けない人を運ぶというのは簡単では無いと思います。それは、少しだけですがこちらに考えがあるので大丈夫です」
そう細かく説明をし、
「まずはハイシェーラさんを運ぶ為に、柔らかいモノ…毛皮や藁でも良いのでそれを彼女を包む様にして貰えませんか?」
近くにいた人達にそうお願いをすると、毛皮や藁の残りが置いてあるかの相談を始める。
「ハイシェーラさん、貴女は安静にしていてください。これ以上無理に動いて、更にその腰を痛める様な事は避けて下さい」
俺は近くにいた人達の相談を見て、ハイシェーラさんにそう釘を刺すと、
「わ、分かった」
素直に俺の忠告を受け入れてくれる。
彼女のその言葉を聞いてから、俺は大広間にいる人達に少しの間待ってくれる様にお願いをしてから広間の外に出て、見張りに戻っていた人達の1人に少しの間待つ様に指示を出し、もう1人に道案内をお願いをして一緒に遺跡の外に来てくれる様にお願いをする。
そうして見張りの人と共に遺跡の出入り口までやって来ると、
「すみませんが、ここで待っていて貰えますか?少し偵察隊がどこまで来ているのか調べてきます」
俺は付いて来てくれた見張りの男性にそう伝えると、彼は分かりましたと言い遺跡の柱の物陰に潜む様に移動して、
「こちらにいますので、戻ったら声を掛けて下さい」
そう言ってくる。
もし俺が離れている時に、偵察隊がこの遺跡の近くに来ても姿が見えない様に配慮をしている。
流石だな、ハイシェーラさんの統率力が分かる。
俺はそう思いつつ、アンジェの指輪を装備する準備をしながら出発して道中でアンジェの指輪を装備する。
流石に、見張りの彼の前でいきなり消えるのは混乱させてしまうと思い、少し離れてから装備した。
アンジェの指輪を装備してから歩みを少し速めながら気配察知スキルを発動し、俺は偵察隊が未だにのんびりとしている様子に少しだけ面倒な位置にいるなと察する。
連中がいる位置は、俺が遺跡に来る前よりも進んでしまっており、遺跡の位置が比較的見えやすい中腹の辺りを目指して進んでいる様子だ。
話をしている間に、結構近づかれてしまっているな。
さっき、俺が遺跡を来る前の偵察隊を通り過ぎた時の場所から移動していなければ、もっと簡単に竜人族の皆と移動できると思っていたが…。
曲がりなりにも、彼らも冒険者や騎士の端くれ。
体力には自信があるのだろう。
となると、問題は彼らの目を掻い潜る事が出来るかどうか…。
………いや待てよ、偵察隊に誤った情報を帝都に報告させたいと思っていたがそれがどの様な内容だったら俺達に有利になるのかと考えよう。
幸い、まだ遺跡が見える位置からは少しだけ離れている。
あまりゆっくりとはしていられないが、それでも考えるだけの時間はある。
まず第一前提として、竜人族の人達が生きていると知られない為に姿を見せる訳にはいかない。
その条件をクリアしつつ、偵察隊に嘘の情報を掴ませて帝都に誤った情報を報告して貰い、少しだけでも混乱を誘えれば十分だろう。
この霊峰に静かに暮らしていた竜人族は、帝都騎士団新団長エルヴァンの手によって全滅した。
これは覆らない程度に守りつつ、帝都の目を遺跡側に向けさせる方法。
そうか、竜人族でなければ…。
そして、意思の疎通が出来ない者がここにいるとするなら、帝都の連中は僅かでも警戒するはずだ。
…意思の疎通が出来ないと言っても、話せないタイプではなくて自身の考えを一方的に話すタイプの方が良いだろう。
そして、その一方的な言葉が帝都に危害を加える危険な存在だとしたのなら、帝都も黙ってはいられないだろう。
アンリの情報操作で、いつ進軍をしてくるか分からない亜人族の国ジーグ。
霊峰には、帝都を存続を脅かす程の脅威的な存在。
良いのではないだろうか、あまりにも帝都からしたら攻めてくる存在が不確定であり、時期も不明という曖昧でありながらも無視は出来ない架空の脅威者。
それにうってつけの家族と言えば…。
俺は1人でありながら3人の彼女達?の事が頭に残り、彼女達ならば存在が姿からしても強者であると分かると思う。
よし、考えは纏まった。
竜人族の人達の準備は済んでいる故に、いつでも飛び出せる様に遺跡の屋外へと移動してもらうとしよう。
偵察隊にはあまりこれ以上進行しない様に、少しだけ足止めをしておくか。
俺はそう思うと、クラスチェンジを使って魔法使いに変化すると、
「アースウォール」
大小それぞれの土の壁を出現させて、ただでさえ歪で足場が悪い霊峰の地面を更に凸凹させる。
霊峰の土を荒らしていると言われると、悪い事をしている様に感じる所もあるが、この世界の神程度を奉っていた山ならば、別に構わないだろう。
俺はそう思いつつ、更に足場を悪くさせ続ける。
更に敢えて大きく作り上げた土の壁を、壊れやすい様に工作しておく。
と言っても、あまり大きな音を立てないで物理攻撃を仕掛けただけなのだが、それでも土の壁には亀裂が入り、その亀裂が自身の壁の重さによって、更に自然に発生している風の影響で少しずつではあるが広がっている。
よし、とりあえずこれくらいで十分だろう。
俺は偵察隊の足止めの工作を終えた後、クラスチェンジをして召喚士に戻してすぐに待たせている見張りの元へと戻り、皆の集まっている遺跡の大広間へと向かった。
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