405頁
俺が剣を躱している姿を見て、センジンさんはアラトと呼ばれている青年に何回か止めろと声を掛けていた。
しかしそれを全て無視して俺に斬りかかって来た結果、センジンさんまでが剣を抜いてしまう事態に陥ってしまっている。
そんな様子に、
「センジンさん、俺は大丈夫ですから剣を納めて下さい」
俺はこれ以上事態が悪い方に向かわない様にセンジンさんに声を掛ける。
しかし、
「いくら身内でも、剣を抜いている野郎を目の前に自分から納めるなんて出来ねぇよ」
センジンさんは俺の言葉にそう返して、姿勢を少しだけ整えて剣を構え直す。
今の状況では、せめてセンジンさんが話を聞いてくれないと収まり様が無いのだが…。
アラトと呼ばれている青年は、俺に対して敵意を持っている。
俺の言う事を聞く訳も無いし、センジンさんが剣を納めて冷静に話を聞いてくれれば良かったのだが…。
俺はそう思いつつ、
「貴方が何故俺にそこまで敵意を持っているのか分かりませんが、俺は友好的な国の人を傷つけたくはありません。剣では無く、話し合いで決着を付ける事は出来ないのですか?」
センジンさんの背中越しに俺がそう声を掛けると、青年は俺の言葉に更に腹を立てたのか怒りの形相を向けてくる。
これは、話し合いでは無理そうだな。
俺はそう思うと、
「…分かりました。ではこうしましょう。貴方の希望通り、戦いに応じます。まぁ、応じて欲しい訳では無いと思いますけど…。流石に、無抵抗に攻撃を受け続けるなんて出来ませんしね…」
ややため息を混ぜつつそう言い、
「センジンさんには審判を任せたいです。どちらかが剣を手放したり、戦いを続ける事が出来ない様だと判断をしたら止めて下さい」
続けて、センジンさんにそうお願いをする。
俺の言葉を聞いたセンジンさんは、背後にいる俺の事を肩越しで見て来ると、
「…すまねぇ、俺が情けないばかりに、こんな事に巻き込んじまって…」
俺にそう謝罪をして抜いていた剣を鞘に戻す。
アラトと呼ばれている青年は俺の言葉に了承しているのか分からないが、一応今襲ってくる訳では無い事を確認すると、
「少し、装備を変えてきても良いですか?」
俺はそう質問をする。
その言葉に、
「構わねぇよ。今ヴァルダの装備を見て、その恰好のまま戦えっていう奴は正々堂々の闘いなんて求めてる奴じゃ無いんだろうしな」
センジンさんは、少し責める言葉遣いでアラトと呼ばれている青年を見ながら俺の言葉にそう返してくれる。
俺はセンジンさんにお礼を言って、アラトと呼ばれている青年には見えない様に木の影に隠れると、
「クラスチェンジ・騎士」
クラスを変更して装備を変える。
しかし今着けている装備は、エルヴァンの真似をする為に用意した装備だった事を忘れており、俺は慌てて重装備からいつも通りの身動きが取り易い軽装備に変更していく。
全ての装備をいつもの自分の装備の変更させると、俺は木の影から出て既に剣を抜いているアラトと呼ばれている青年の前まで歩く。
そして、俺の様子を見たセンジンさんは一歩二歩と後退すると、
「っ!」
すぐに俺に斬りかかって来る青年。
しかし不意打ちで無ければ、攻撃を見切る事は難しい事では無い。
俺は振り下ろされる剣をギリギリで躱すと、自分の腰に下げている片手剣を抜き軽く青年に向かって振り払ってみる。
しかし流石に手を抜いた故に、俺の攻撃も簡単に避けられてしまう。
元々、彼を傷つけるために攻撃した訳では無いし避けられるとは思っていたが…。
俺はそう思いながら、少しだけ感じた違和感に連続して攻撃を繰り出す訳にもいかずに一度手を止める。
何かが変に感じる、だがその何かが分からない…。
俺は困惑しながら、次に来る攻撃を握っている片手剣で受け止める。
その瞬間、アラトと呼ばれている青年はイラついた表情をして何度も斬りかかってくる。
彼のその全ての攻撃が軽く、手に伝わってくる衝撃があまり無い事に気が付くと、俺はそれがもしかしたら握っている武器の所為では無いかと考え始める。
慣れていない装備、ルミルフルが最初の頃に動き難そうに鍛練をしていた光景を思い出し、俺は目の前の彼が同じ様に動き難そうと言うか、握っている武器に合っていないのでは無いかと考える。
でなければ、ここまで攻撃の衝撃が変に伝わってくる訳が無い。
俺はそう思うと、
「その武器、合っていないんじゃ無いか?」
何度も振り下ろされる攻撃を受け止めて、俺は最も青年が近づいた時にそう声を掛ける。
その瞬間、青年の表情が少し変わって今までの敵意ある表情からまるで獲物を見つけたモンスターの様な、獰猛な笑みを俺に向けてきた。
初めて敵意以外の視線を向けられたが、あまり嬉しい反応では無いな。
俺はそう思っていると、
「お前の事、少し見くびっていたな…」
青年はそう言って今までで一番鋭く力強い一撃を振り、俺はそれを受け止めると、剣同士の激しい耳に刺す様な金属の衝突音が響き渡って、アラトと呼ばれている青年の握っている剣が折れてしまっていた。
その瞬間、
「アラトの武器が壊れた。戦いは引き分けで良いだろ?」
センジンさんが俺と青年にそう声を掛ける。
その言葉に俺は良いと伝え、アラトと呼ばれている青年の事を見ると、
「お前、どうして俺の剣が使い慣れてないヤツだって分かった?」
俺にそう質問をしてくる青年。
彼の問いに俺は、
「手に伝わる感触に違和感を覚えたので、おそらく先程まで握っていた剣は扱い辛いのだろうなと思っただけです」
素直に戦っている最中に感じた事を伝えると、彼は少しだけ笑みを浮かべて、
「…ただの口先だけの奴じゃ無かったな」
俺にそう言ってくると、彼は折れた剣の刀身を丁寧に拾い上げて踵を返してジーグの方向へ帰って行く。
そんな彼の後ろ姿を見ながら、
「…どういう事なんですかね?」
俺が近づいてきたセンジンさんにそう質問をすると、
「さぁな。だが、少しだけ態度が改まったんじゃないか?」
センジンさんも彼の様子の変化には心当たりはないらしく、しかし先程に比べればマシになった態度に対してそう言ってくる。
彼のその言葉に、俺は変に斬りかかって来なければ俺はそれで良いですよ。
そう答えた後、俺とセンジンさんは彼の去って行った方に向かって歩みを進め始める。
その際に、
「だが、あいつが剣を変えているなんてな。俺は気が付かなかったぜ」
センジンさんが感心した様な声でそう言ってきた。
その言葉に俺は、
「違和感を感じましたからね」
変に感じた理由を伝えながら、森の抜けて港の方へと向かうのだった。
読んでくださった皆様、ありがとうございます!
ブックマークしてくださった方、ありがとうございます!
評価や感想、ブックマークをしてくださると嬉しいです。
誤字脱字がありましたら、感想などで報告してくださると嬉しいです。
よろしくお願いします。




