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俺とレオノーラが木陰で話し続け、陽が傾いてきた頃に、
「だあァァッ!もう腕が上がらねぇ!」
「…ヴァルダ様、お帰りになっていましたか。申し訳ありません、出迎えもせずに…」
エルヴァンとセンジンさんの闘いは、センジンさんの悔しそうな辛そうな声で幕を閉じた。
そしてその瞬間、俺に気がついたエルヴァンが謝罪をして俺の元までやって来る。
「いや、それ程戦いに集中していたという事だろう、謝る事では無い。だが、流石にセンジンさんとの戦いに熱が入り過ぎているとは思うな。もう少し、周りの人達の様子も見てあげて欲しい。何もしない俺が頼む事では無いのだが、どうかよろしく頼む」
俺がそうお願いを言葉を口にして頭を下げようとすると、
「申し訳ありません、私の力不足でヴァルダ様にその様な心配を掛けてしまうとは…」
エルヴァンも俺に向かって謝罪を言葉を伝えてくる。
そうして2人で謝罪をし合っている間に、何とか腕を普通に動かせるまで回復し始めたセンジンさんが横たわっている人達に声を掛け始めて、死屍累々たる有様であった広場の様子が少しだけまともになってくる。
それでも、まだ起き上がっている人達は疲れている様子で地面に座っている状態だ。
俺はそんな彼らの様子に、回復薬を配った方が良いのではないかと考えていると、
「今日はここまでだな、皆ゆっくりと休んでくれ。解散だ」
センジンさんがそう皆に聞こえる様に大きな声を出し、ジーグの人達は重い腰を上げて帰って行ってしまう。
気付くのが、少し遅かったか…。
明日からは、先に渡しておくのが良いかもしれないな。
俺はそう反省していると、ふとある事に気がついた。
「レオノーラ、バルドゥの姿が見えないのだがどこへ行ったか分かるか?」
エルヴァンとセンジンさんの戦いに意識を持って行かれてしまった故に、バルドゥの事が今の今まで忘れてしまっていた…。
俺がそう隣にいるレオノーラに質問をすると、
「彼なら、少し練習をした後に少し時間が欲しいと言ってジーグに向かったはずだぞ。帰って来てはいないのか?」
俺の問いにそう答えてくれる。
バルドゥが、ジーグにわざわざ出向く理由が分からない。
だが、鍛練の時間を割いてまで行ったという事は、彼の中で結構重要な事なのだろうと考えると、とりあえず安否だけ確認しておくかと考えて、本の中の世界を開いてバルドゥの様子を確認する。
ダメージなど、状態異常になっている訳でも無い様子から俺はひとまず安心し、後はバルドゥが帰って来てから話を聞いてみるかと思い、俺はレオノーラに感謝を伝えて立ち上がると、レオノーラも回復し切った様で軽々と立ち上がる。
そして、
「よし、全員帰ったな。エルヴァン達は、これからどうするんだ?良かったら夕飯ぐらい一緒にどうだ?」
センジンさんが集まった人達が帰った事をしっかりと確認してから、俺達にそう聞いてくる。
その言葉に、
「申し訳ないが、今日は失礼させて貰う。まだ、体を動かし足りないのでな」
「私も、夕食は一緒にしたい者達がいる。彼らを今は優先してあげたい」
エルヴァンとレオノーラが断りの言葉を伝える。
それに続いて、
「俺はバルドゥが帰って来なさそうなら迎えに行くので、少し遅くなるかもしれませんが構いませんか?」
俺はまず、未だに帰って来ないバルドゥの事が気になる故にそうセンジンさんに聞いてみる。
俺の言葉を聞いたセンジンさんは、
「なら、俺も一緒に探すぞ。迷子になってるかもしれないからな」
ありがたい事に、バルドゥを一緒に探してくれると言ってくれる。
「ありがとうございます。じゃあ、エルヴァンとレオノーラ、今日もありがとう。明日もよろしく頼む」
俺はセンジンさんの言葉を聞いて、まずはエルヴァンとレオノーラを塔に戻そうと感謝の言葉を伝える。
俺の言葉に2人が感謝される様な事はしていないと言ってくるが、俺の我儘に付き合ってくれている事が既に感謝なのだと伝えてから塔に戻し、センジンさんと共にジーグへと戻り始める。
アンリは、大丈夫だろうか?
何かしらの進展などあれば良いのだが、変に進展が無いと自分の事を責めてしまうからな…。
俺は森の中を歩きながらアンリの事を心配していると、その一瞬の気の隙が出来てしまった故に目の前まで迫って来ていた剣に遅れて反応する!
「ッ!?」
俺は息を止めて、即座に首を傾けて目の前まで迫って来ていた剣の攻撃を避ける。
「アラトッッ!?お前何やってやがるっ!?」
俺が剣を避けると同時に、センジンさんの怒った声が聞こえて冷静に辺りを確認する。
センジンさんと俺の間に割り込む様に、アラトと呼ばれている青年が抜刀している剣を手にしゃがんでいた。
どうやら、木などの高い位置から俺に向かって飛びかかって来たのだろう。
俺はそう判断し、
「流石に、いきなり斬りかかられる様な事をここではしたつもりは無いのですが…。どうしてそこまで敵視するのか教えて頂きたい。俺に非があるのなら、謝罪をして改めますが…」
とりあえず、穏便に済ませる事が出来ないかとそう声を掛ける。
しかし、
「…気に食わねえんだよ。お前の存在が」
アラトと呼ばれている青年の言葉が、俺ではどうする事も出来ない事を言われてしまった。
流石に、存在が気に食わないと言われてもどうする事も出来ないぞ…。
俺がそう思っていると、
「アラト、お前…。やって良い事と悪い事の判断も出来ねぇのか?」
俺が声を発するよりも前に、センジンさんが怒った様子で青年にそう声を掛ける。
しかし、アラトと呼ばれている青年はセンジンさんの言葉を無視して剣を構え直すと、
「…チッ!」
舌打ちの様な短い息遣いと同時に、再度俺に斬りかかって来る。
流石に俺も、不意打ちでなければ対応する事も可能だ。
俺はそう思いつつ、明らかに当たれば死、良くても重傷なのではないかと思わせる鋭く急所に斬りかかって来る攻撃を躱す。
どう考えても、俺を殺す事も考えていると受け取れる攻撃に困惑しかない。
彼は、どうしてここまで俺に対して敵意をぶつけて来るのだろうか。
俺は人族ではある、亜人族である彼や他の人達がすぐに信用出来るとは思ってはいない。
それでも、俺は害のある者では無いと思って貰える様に行動して来たつもりだ。
しかし、それでも彼は俺に攻撃をしてくる。
もしかしたらこれが普通の反応で、今までが皆寛容なだけだったのではないかと考えさせられる。
俺がそう思っていると、
「止めろって言ってるだろうがッッ!!」
俺に向かって迫って来ていた剣を、センジンさんが自身の大きな剣で弾いてそう怒号を放った。
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