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スッと抜ける花の香り、続いて口に広がる爽やかさ。
甘さもあるのだが、甘すぎないでミントの様な爽やかさが強くて意識が冴える。
「面白い味ですね。甘いのですけど、爽やかさの方が強くてスッキリとします」
俺の語彙力の無さが原因で、そんな感想しか出来ない…。
俺がそう思っていると、
「お口に合った様で良かったです」
女王が俺の様子を見てそう言い、彼女の言葉で周りの妖精達も嬉しそうに表情を和らげる。
それと同時に、俺はふと体の違和感を覚えて意識を妖精達から離す。
意識がスッキリと、集中力が上がった様な爽快な気分でいるからだろうかと考えたが、それでも感覚だけの話では無さそうだと考えて俺は、妖精の皆さんに一言言ってから本の中の世界を開いて自身のステータスを確認すると、
「命中率と、対状態異常のバフが掛かっている。…時間はあまり長くは無いが…」
魔法の遠距離攻撃の命中率が上がり、状態異常になる確率が低くなるバフが掛かっているのを確認する。
時間は大して長い訳では無いが、それでもこのバフは大きな力になる気がする。
俺はそう思うと本の中の世界を閉じて、俺の事を不思議そうに見ていた妖精達の事を見て、
「貴女達に反乱軍の支援を、協力をお願いしたいです」
少しだけ逸れていた話題を戻す。
俺の言葉に、女王も含めて妖精の皆さんも少し不思議そうな表情を更に強める。
そんな彼女達に俺は、もう茎の部分しか残っていない花の残りを見せると、
「この花の蜜が、大きな力になると俺は確信しました」
俺は茎をテーブルの上にそっと置く。
女王は俺の言葉を聞き、
「それは一体…。この花の蜜は、私達が普段から飲んでいる物です。何か特別な物という訳でもありません」
困惑した様子でそう言ってくる。
俺はそんな女王に対して、
「普段からの見慣れている皆様では気づかないかもしれませんが、この花の蜜は俺には少しだけ能力を上昇させる効果がある様です。まだ飲んだのが俺だけなのでハッキリとした事は言えませんが、それでもこの花の蜜が皆様の資金であり、戦力である事が今分かりました」
そう説明をして、
「この花を、長期的に譲ってくれる事は可能ですか?」
更に続けて質問をする。
俺の質問を聞いた女王は、少ししてハッと意識を俺の問いに戻したのだろう。
「可能です。と言うより、その花は私達が普段から好んで飲んでいる物。いくらでもあるのですが…」
俺の問いに対して、大した事は無さそうにそう答える…。
それを聞いた俺は、
「もしかして、他にもこの花の様に好んでいる花とかあります?」
そう質問をする。
俺の問いを聞いた女王は何とも言い表しようがない、難しい表情を周りの妖精達に向ける。
そんな女王の表情を向けられて、周りの妖精達も少し表情を歪ませる。
そして、
「私達は、花の蜜を主食としていますので、確かに好みはありますが皆同じくらい様々な花の蜜を食べているのですよ」
俺にそう説明をしてきた…。
彼女のその言葉に、俺は予想以上の妖精達の食生活を聞いてしまい呆然とする。
花の蜜を主食?
お、おかずはその場合何になるんだ?
俺はそう思いながら、
「え、えっと、最近皆さんが食べた物を、思い出せる範囲で良いので教えて貰えますか?」
そう問いを投げてみる。
すると、俺の問いを聞いた妖精の皆さんが自分達が最近食べた物について話し始める。
しかし、そのどれもが普通の食料ではなく、おそらく花の名前を言っている…。
女王ですら、同じ様に聞いた事が無い名前を出している感じ、おそらく妖精の人達に人族、亜人族の様な食生活を送っていない事を理解する。
俺はそう思い、
「えっと、皆さんは花の蜜以外の食べ物を食べた事はありますか?」
質問を更にしてみる。
そして帰ってきた言葉は、
「いえ、私達は花の蜜しか食べた事が無いです。昔は、この国がまだ出来る前の妖精達は人族や亜人族と同じ食生活をしていたと聞いた事はあるのですが、やはり味は好ましくなかったと言い伝わっていますね」
俺の予想通り、彼女達の食事が花の蜜だけだと帰ってきた…。
その言葉を聞いて、
「では、貴女達の主食、食料を分けてくれと俺は言った事になりますよね…。重ね重ね、申し訳無い」
もう一度謝罪をする。
俺が謝罪をすると、
「いえ、謝る必要はないですから。確かに食料を長期的に譲ってくれという事ですが、正直に言いますとその言葉に私達はあまりしっくりと来ていないのです。花の蜜は食料ではありますが、備蓄などをしているつもりはありません。育てもしたりしていますが、数は年々増えてきておりますので困る事は無いでしょう。私達からすれば、あまり大きな貢献は出来ていない様に感じるのですが…」
女王が心配そうに俺にそう言ってくる。
彼女のその言葉に、
「貴女達からしたら、食料の提供程度に感じるとは思いますが、妖精の国の花の蜜は少し飲むだけで能力を向上させる事が出来る。それはとても凄い事なんですよ。それに加えて、皆さんには戦場で戦うのではなく、戦闘で負傷した人達に花の蜜を飲ませたり、この植物を操る力で簡易的なベッドなどを作って貰えると助かります。女王には追加で、ゴーレムを用意して貰って重い荷物を運んでもらったりして欲しいですね。雑用に感じるかもしれませんが、戦場で戦う者達のサポートをして貰いたいと俺は思っています」
俺がそう返すと、妖精の皆さんは女王の事を見る。
周りの皆からの視線を受けて、女王は少し迷っている様子を見せていたが、
「分かりました、貴方達反乱軍に加入させていただきます」
意を決して、そう言って立ち上がりテーブルの上を歩いて俺の元までやって来ると、俺に手を差し出してくる。
俺は差し出されたしなやかな腕と小さな手を傷つけない様にそっと何とか握る事に成功し、
「これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ、より良い関係に発展していく事を願っています」
互いにそう挨拶をして、これからの妖精の国と俺やジーグの関係、そして亜人族が虐げられない今より遥かに良い世界になる事を願う。
そうして俺は、これからの事について妖精の皆さんとの話し合いを続ける事にした。
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