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転移ゲートで移動をした俺は、フレンドの家の前に来ていた。
さて、勝手に入ってきてと言われたから入るか。
俺はそう思って家の中に入ると、そこには椅子に座ってテーブルに突っ伏し、オンラインショップの画面を睨み付けているプレイヤーが1人。
オンラインショップは、プレイヤー同士で売買をするサービスだ。
昔はゲームを辞めるプレイヤーが自分のアイテムを最低価格で売り出すなど賑わっていたが、人口が少なくなった今現在ではレアなアイテムが落ちて、それが使わないと判断した物を売っているくらいだ。
ただ今日は、この世界最後の日。
つまり、こんな俺でも強制的に辞めさせられる日だ。
皆最後にアイテムなどを売ったりして遊んでいるのだろう。
俺はそう考えつつ、あまり物音を出さないように近づいて空いている席に座る。
テーブルは4人用なので、フレンドの斜め前の位置だ。
何か良い物でも出されているのかな?
このオンラインショップでは、たまにオークションというシステムで売買する事もある。
オークションにするのは、アイテムを売り出したプレイヤーが設定する。
フレンドはたまに、
「う…これ以上は流石に」
「これが最後だよ…」
「持ってけ泥棒ッ!」
そう独り言を呟いているのを聞きながら、俺もオンラインショップを覘く。
こうやって見ると、最後だからかメイン装備になるくらい強化されている武器や防具が並んでいるな。
俺はそう思いつつ、価格が安い順番に少し買ってみる。
売買が成立すると、すぐに手元のお金が無くなり自分の持ち物に買ったアイテムが入っている。
それを取り出して持って見たりしていると、
「いやった~!手に入ったぁ~!」
俺が来てからずっと画面を睨んでいたフレンドが、勝ち誇ったように両手を挙げて喜んでいる。
そんなに欲しかったのか。
俺がそう思いながら見ていると、
「ッ!?ヴァルダいつの間に来てたの!?」
フレンドのシュリエルが驚いた様子で俺に声を掛けてきた。
「ついさっきな。それより今日までオンラインショップで買い物って、お前はいつも通りだな…」
俺はそう言いながら、別に良いでしょと言って画面を操作しているシュリエルを見る。
名前はシュリエル。
この世界ではほとんど見なくなった女性プレイヤーだ。
職業は錬金術師で、レベルは20だ…。
彼女はモンスターを倒すのよりも、アイテムなどを生産したり売買したりしてこの世界を楽しんでいた。
ただし、職業レベルはカンストしている。
レベルは単純なプレイヤーレベルと職業レベルが存在している。
プレイヤーレベルとはそのまんまで、プレイヤーの能力値だ。
職業レベルは、レベルが上がる毎に騎士、魔法使い、召喚士、錬金術師の職業に応じて、その職業に適正なスキル取得が出来る。
プレイヤーレベルでもスキルをできるが、これは主にパッシブスキルで常時発動しているスキルだ。
スキル取得は色々な種類があり、個人で自由に選ぶことが出来る。
「まぁ、私は戦う事をしないからね。ヴァルダは今日、何する予定なの?」
「俺こそいつも通りだな。シュリエルと話して終わったら、モンスターと戦いに出る予定だ」
俺がシュリエルの質問にそう答えると、シュリエルはふーんと冷めた反応をした後、
「最後の日くらい、ゆっくりしたら?」
そう言って来た。
ゆっくりか…。
「それも…良いな」
ゆっくりと町を見たり、ゆっくりとモンスターを見たり…有りだな。
俺がそんな事を思っていると、
「じゃ、じゃあゆっくりしていきなさいよ」
シュリエルはそう言うと、何やらアイテム欄を弄り出す。
それを見ていると、テーブルに紅茶を入れる様なポッドとティーカップが出てきた。
どうやら気を遣わせてしまった様だ。
俺がそう思っている内に、シュリエルはポッドを持ってティーカップに紅茶を注ぐ。
そう言えば、従妹の靜佳も紅茶が好きでよく飲んでいたな。
最近伯父さん達に会ってないし、丁度良い区切りだから近いうちに会いに行こうかな。
俺がそう思っていると、目の前に紅茶が注がれたカップが置かれる。
「ありがとう。いただきます」
シュリエルにお礼を言った後、俺は紅茶を一口飲む。
それに続いてシュリエルも紅茶を飲むと、
「今日でここも最後か~。長かった様な、短かった様な気がするわ」
そう言いながら、カップをテーブルの上に置く。
「そうだね。そう言えばシュリエルに会ったのっていつ頃だっけ?」
俺がなんとなくそう聞いてみると、
「いきなりね。…「UFO」が始まって2年目の夏よ。お互いに夏休みの真っ最中だったわ」
シュリエルがすぐに答える。
意外に古くからの付き合いなんだな。
俺がそんな事を思っていると、
「ヴァルダこそ、私と初めて会った時の事は覚えてる?」
シュリエルが俺に質問してくる。
「確か、俺が町を歩いている時に突然話しかけてきたんだよな。あれには驚いたぞ」
俺が昔の事を思い出しながら質問に答えると、
「よ、よく覚えてたわね。いつもはすぐに忘れる癖に!」
シュリエルがそう貶してくる…。
「いやだって、ここで何をしてるのッ!?っていきなり、しかも少し怒った感じで話しかけられたらな。嫌でも忘れないと思うぞ」
俺がそう言うと、うぐぅ…と変な声を出して固まるシュリエル。
それから俺とシュリエルは、過去にあった出来事を懐かしみながら話し合い、シュリエルの提案で俺のいらない装備を売ったりして最後の時間を楽しんだ。
そして、気が付けばそろそろ11時になろうとしていた。
すると、
「あっと、ごめんヴァルダ。そろそろ寝ないと明日に響きそう」
シュリエルが申し訳なさそうに俺にそう言ってくる。
「大丈夫だ。寂しいが、シュリエルと最後に沢山話せて良かった」
俺がそう言って立ち上がると、
「ねぇヴァルダ?最後に私に何かくれない?」
シュリエルが俺にそう言って来た。
さっきの戦鬼さんと同じ感じだな。
皆そういうのに憧れてるのか?
俺はそう思いながら、
「何が良いんだ?武器?」
そう聞いてみると、シュリエルは首を振って、
「アクセサリーが良いかな。腕輪とか指輪とか」
そう提案してくる。
シュリエルの提案を聞いて、俺はメニュー画面を開いてある指輪をシュリエルに贈る。
「あ、届いた…。ってこれ、魔力攻撃を強化するやつ!私には意味が無い~!」
シュリエルがそう言って俺にブーブー言ってくるが、大人しくなると顔をほころばせて、
「ま、まぁ。貰っておいてあげる。…ありがと」
お礼を言ってきた。
「じゃあ、またなシュリエル。またどこかで会えたらな」
俺がそう言って家のドアを開けると、
「またね!また会えたら話しかけてあげる!」
シュリエルがそんな事を言ってきた。
俺はそれに片手を上げて返事をしてドアを閉める。
すると、
『顔見せてよね!』
シュリエルからメッセージと共に、アイテムが贈られてきた。
メッセージの意味は分からないが、アイテムを見て驚く。
カンストしている錬金術師シュリエルが創った騎士の盾装備、カズンだ。
俺はカズンをお気に入り登録をして、シュリエルにお礼を心の中でお礼を言ってから歩き出す。
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