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狭間の町から帰還した俺とアンリは、その足でフランメさんのいる洞窟の前で鍛練をしている皆の元へと向かうと、そこには…。


「なかなか良い腕をしている」

「そいつはどうもッッ!」


鍛練と言うよりも、普通に戦っているのだが…。

大剣で防御をしているエルヴァンと、エルヴァンに何度も剣を振り下ろしているアラトと呼ばれていた青年が俺の視界に入った。

そして激しい彼らの戦いを、


「…マジか…」

「もう動けねえよ…」

「アラトは異常に体力あるからな…」


十数人の亜人族達が地面に座ったり横たわった状態で、2人の攻防を眺めていた。

そしてそんな彼らの脇に、ルミルフルとバルドゥが彼らと同じ様にエルヴァンとアラトの動きを観察している。

2人は大して疲れている訳では無さそうだ。

俺とアンリは少しだけ離れた場所からエルヴァン達の様子を見ていたのだが、それでもアラトと呼ばれていた青年の剣筋は良いモノだと分かる。

自身の剣の腕を理解しているのか、そしてエルヴァンが握っている大剣とのリーチの差などをしっかりと把握している。

下手に踏み込み過ぎないで、あまり深追いはせずにエルヴァンに攻撃を仕掛けてはすぐに後退をする。

ただひたすらに剣を振るったりする者からしたら、彼の戦い方は臆病者とか腰が引けているとか言うのかもしれないが、これでも一応戦略を考えて戦う俺も、そして実際に剣を振るう事を生きる目的にしていると言っても過言では無いエルヴァンも、彼の戦い方はとても素晴らしいと理解出来る。

エルヴァンが大剣を振るおうと腕に力を込めた瞬間、彼はそれを瞬時に察すると後退をする。

もし後退が間に合わなさそうなら、カウンターなどは考えずに防御に徹している。

なるほど、確かに自分とエルヴァンとの実力差を理解して戦っているな。

俺は彼に対するセンジンさんの言葉を思い出し、強いと言われるのも頷けると考える。

俺がそう思っていると、


「ッ!………チッ!止めだ止めだッ!」


エルヴァンとの鍛練に集中していたアラトは、一瞬だけ目が俺と合うといきなり苛立った様な表情になり、舌打ちをして剣を鞘に納めた。

そして、そそくさと森の奥へと消えていく。

俺、彼に何かしただろうか?

俺がそう思って考えていると、


「…ヴァルダ様」


彼の視線の後に俺に気がついたであろうエルヴァンが、俺の名前を呼んでくる。

エルヴァンに気づかれたので、俺はアンリと共にエルヴァンの元へ向かう。

流石のエルヴァンも、突然不機嫌になったアラトの様子に困惑している様子だ。

俺はそう思い、


「邪魔をしてしまった様だな。すまない」


エルヴァンに折角の戦いの邪魔をしてしまった事を謝罪をすると、


「いえ。問題はありませんが、あの者と何かあったのでしょうか?」


エルヴァンは彼の様子が気になったのかそんな質問をしてくる。

そして、


「だな。アラトがあそこまで機嫌が悪そうにしてるのも、珍しい気がするぜ」


俺に気がついたセンジンさんも、俺達の元へ来てそう言ってくる。

彼の言葉を聞いて、


「いえ、俺は特に何か会話をした訳でも無いんですけど…」


俺は心当たりがない故に、素直にそう答える。

俺の言葉を聞いたセンジンさんは少し悩んだ顔をすると、


「しかし、あいつもあんな顔をするんだな。俺達には普段は普通に接してくれてるが」


俺にそう言ってくる。

本当に、何故俺にだけあそこまで当たりが強いのだろうか…。

俺は考えつつも、大した会話もしていない故に原因が分からないと思い、


「とにかく、今は彼の事を考えてもどうする事も出来ません。今は出来る限りの準備を進めたいので、急ぎ足で行きますよ」


俺は話題を強制的に変える。

俺の言葉を聞いたエルヴァンは返事をし、センジンさんも続いて軽い感じで返事をする。

まずはセンジンさんに、今体力が切れて地面に座り込んだり横になっている人達を午後からの人達と交代して貰える様に、案内をお願いした。

センジンさんに連れられて彼らが洞窟前の広場からいなくなると、今度はルミルフルにお礼を伝えてから塔へと帰還をして貰い、今度はレオノーラを呼び出す。

ルミルフルと入れ替わる様にレオノーラが広場に姿を現すと、彼女は俺の事を見て少しだけ首を傾げる。

その表情は、少しだけ機嫌が悪くなった様に少しだけ歪んでいる。

先程の彼との事もあってか、俺は今誰かを不機嫌にさせるデバフでも掛かっているのだろうか?

俺はそう思って少しだけ悩んでいると、


「…少し聞いても良いだろうか?」


レオノーラが俺にそう声を掛けてくる。

普通の声色で、いつも通りに声を掛けて来てくれているというのに、今の彼女の言葉はやはりどこか不機嫌さが混じっている。

俺はレオノーラの言葉を聞いてそう感じつつ、


「何でしょうか?」


畏まってそう聞き返してしまう。

俺の言葉を聞いたレオノーラは俺の事を見つめると、


「ドラゴン…か何かに接触したか?」


俺にそんな質問をしてきた…。

…何で分かるのだろうか?

俺がそう思っていると、


「接触と言っても、もっと密着した様な感じだな。ただ敵対した関係などでは無さそうだ。当たっているか?」


レオノーラが更にそう質問をしてくる…。

その言葉に俺は、


「そうですね。色々とありまして、ドラゴンの女性と密着はしました」


正直にそう答えた。

それを聞いたレオノーラは、


「…はぁ、私が言うのもアレなのだが、あまりドラゴンなどに肩入れし過ぎない方が良いぞ。龍である私もそうだが、意外に自分の縄張り意識は高い方だ。あまり複数のドラゴンと仲良くすると、良い事は無いぞ」


俺にそう教えてくれる。

シェルガさんも言っていたが、ドラゴン系の人達は皆そんなに縄張り意識が高いのか。

塔の皆は、あまりそういう事が無いから分からなかったが、皆もやはり我慢しているのだろうか?

レオノーラの言葉を聞いた俺がそう思っていると、


「…塔の皆は、自分達の縄張りに私が来たのではなく、ヴァルダの縄張りの仲間と言う認識故にあまり気にならないそうだぞ」


レオノーラが、俺の考えている事を見抜いてそう教えてくれる。

その言葉を聞いた俺は、


「レオノーラ、意外に塔の者達と話をしていたんだな」


少し意外だと思ってそう言う。

彼女は塔の皆との話よりも、今は連れて来た仲間達やスラム街の人達をサポートするのに必死だと思っていたから、そんなに話をしているとは思わなかった。

俺がそう思っていると、


「挨拶をするのは、当然の事だろう」


凄く真面目な、彼女らしい言葉が返ってきた。


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