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俺の事を木の陰から監視していた者がいる方向に声を掛けると、1人の亜人族が姿を現す。
俺より少しだけ年上の青年であり、警戒した様子というよりかは俺の事を品定めする様な様子で俺の事を見てきている。
そんな青年に、
「人の事を値踏みする様な視線、あまり気分が良いモノでは無いのだが?」
俺が少し声を低くしてそう伝えると、
「あんた、センジンとどういう関係なんだ?」
俺の言葉を無視して、青年が俺にそう言ってくる。
俺の話を聞いていないというよりも、馬鹿にした感じで俺の事を見ているのだろう。
俺はそう思うと、
「その問いに答える義務は無い」
俺は少しだけ挑発する様にそう答える。
流石に格下だと思って俺の事を見ている青年も、今の俺の態度にイラッとしたのか少しだけ表情が険しくなった。
俺と青年が睨み合っていると、近くにスキルに反応した気配を感じ取る。
誰かが近づいて来ている。
俺はそう思いつつも、青年から目を離さずに見据えていると、どんどん近づいてくる気配。
そして、
「アラト兄ちゃん、どうしたの?」
草陰から出てきた気配の主は、まだ幼い子供だった。
そしてその子供は、青年の名前を呼んで何をしているのか聞く。
子供に声を掛けられた青年は、
「…何でもねぇよ。…行くぞ」
子供にそう言って一緒に森の奥へと行ってしまった。
…アラト、日本の名前に聞こえはするが「UFO」プレイヤーとは関係は無さそうだな。
センジンさんやユキさんも含めて、ジーグでは和風の名前を多く聞く。
勿論、帝都などがある大陸から避難をしてきた人達もいるから、和風だけの名前でも無いのだが…。
俺はそんな事を考えながら、アラトと呼ばれた青年と子供が去って行った茂みを見つめ続けた。
そうして少しの間茂みを見つめていた俺だったが、時間を無駄にしたと反省しレヴィアタン達もいない事を確認した俺は、センジンさんの屋敷まで帰って来ていた。
センジンさんもアンリもまだ帰って来ておらず、俺はユキさんに案内されて部屋まで通された。
部屋の中でゆっくりとしていると、
「戻ったぞ~」
センジンさんの声が聞こえてくる。
彼の声の後に、ユキさんが出迎えに行く声が聞こえてくる。
俺はその様子を聞きつつ部屋から抜けてセンジンさんの声がする方へ行くと、
「ん?もう帰って来てたのかヴァルダ」
俺の事を見掛けてそう言ってくるセンジンさん。
「はい、用事が直ぐに終わったモノで…。そちらの方はどうでしたか?」
俺は自分の用事が早く終わってしまった事を伝えて、センジンさんの方は大丈夫だったのかを聞くと、
「皆、了承してくれた。まぁ中には、少しコソコソし過ぎじゃねえかっていう奴もいるんだけどな…」
センジンさんが俺の問いにそう答えてくれる。
それを聞いた俺は、
「そうだ、センジンさんに少し聞きたい事があるんですけど時間ありますか?」
センジンさんに出会った青年、アラトの事を聞こうとそう聞いてみると、
「構わねぇよ。部屋に移動するか」
センジンさんはそう言って自身の部屋へと案内をしてくれる。
センジンさんの部屋に着き、彼が外に出るために来ていた服を脱ぐと、
「それで、何かあったのか?」
センジンさんが俺にそう聞いてくる。
彼の言葉を聞いて、
「大した事では無く、ちょっとした雑談なんですけどね…。アラトという青年を知っていますか?」
俺がそう質問をすると、センジンさんは座布団の上に座りながら、
「おぉ、アラトがどうかしたのか?」
センジンさんは俺の口から出した名前を聞き、笑いながらそう聞き返してくる。
彼の言葉を聞き、
「先程俺の事を監視する様に後を付いて来られましてね…。俺とセンジンさんとの関係を聞きたかったらしく、一方的に質問をされたんですよ」
俺が軽く事情を説明すると、センジンさんは少しだけ反省する様な落ち込んだ表情になると、
「すまねぇヴァルダ。仲間が失礼な事をしたみたいだな」
頭を下げて俺にそう謝罪をしてきた。
彼のその様子に、
「謝る必要は無いのだが…。とりあえず、頭を上げてくれ。少し態度は悪かったが、それ以外は気に障っていない」
俺がそう言うと、
「あいつは少し短気というか、大陸から来る奴らを信用してないからな…」
センジンさんが頭を上げてそう言ってくる。
彼の言葉を聞き、
「事情は知っているのですか?」
俺がそう質問をすると、
「まぁな。あいつは元々ジーグの生まれじゃ無いんだ。海の向こうの大陸から来たからか、あまり人族を…いや、大陸から来た奴ら全員を信用していないんだよ」
俺の質問に、センジンさんがそう説明をしてくれる。
彼の言葉を聞き、
「しかし彼の名前、アラトという名前はジーグの人達特有の名前の様な気がしますが…」
俺が疑問を口にすると彼は笑って、
「ジーグまで逃げてきたあいつの名前を、少し変えただけだ。本名は確か…フェ・アラト?だったか?そんな名前だ。少しだけジーグの名前に似てるから、皆もすぐに慣れて覚えられたぜ」
俺にそう言ってくる。
センジンさんの言葉を聞き、
「そうですか、彼があそこまで敵意があったのはそういう事だったんですね…。…では、彼には俺は敵意は無く純粋に皆さんの力になりたいという事を説明して欲しいです。今の俺と彼の距離感では、その言葉を言う以前の問題がありますから」
俺がそうセンジンさんにお願いをすると、彼は笑って胸に拳を軽くぶつけて、
「任せておけ、あいつはジーグの連中の言葉はしっかりと聞いてくれる。あいつは大陸から来た者達には冷たいが、ジーグの者達には普通に話をしてくれる」
そう頼もしい返事をしてくれる。
センジンさんの頼もしい言葉を聞き俺は安心をすると、
「…彼も、反乱に参加するんですか?」
少し気になってそう聞いてみる。
俺の問いを聞いたセンジンさんは、
「当たり前よ、あいつも帝都の亜人族差別の所為で地獄を見た同胞だ。それに、ジーグでも期待の若い戦士だぜ。俺ほどでは無いが、そこそこに剣は速いし鋭い。少し力押しの剣技ではあるが、もっと磨けるモノがある!」
自身の事では無いのに自信満々にそう言う。
彼の言葉を聞き、俺は鍛練の時にまた絡まれそうだなとこれから起きる小さな問題に、どう対処したら良いか考える。
そうしている内にアンリも帰って来て、明日の予定が決まりつつユキさんが作ってくれた食事を皆で囲んだ。
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