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唸って俺の問いに答えようとするセンジンさんを見ていると、
「ヴァルダ様、何故そこまで隠さないといけないのですか?」
アンリが不思議そうにそう聞いてくる。
アンリの問いを聞いた俺は、アンリが帝都の状況をあまり知らない故にエルヴァンなどの存在があまり人に見られるのは良くないと思っているのを知らないと思い、
「色々とあってな、エルヴァンはあまり人族の、特に貿易をしている者達に見られるのは良くない事なんだ」
とりあえずそう答えておく。
詳しくはまた今度話す事にしようと思いつつ、エルヴァンの存在もだが、レオノーラの存在が剣聖に見つかる事の方が危険だという事を考える。
もしレオノーラが剣聖に見つかれば、剣聖は帝都に一度戻り状況の把握を行う可能性もある。
帝都からの報告書にも、もしかしたらレオノーラの敗北が書かれているかもしれない。
その際に死んだ事も知っているとすれば、剣聖は絶対に報告書との違いが分かりそれを報告、もしくは実力行使で接触してくる可能性もある。
その際にエルヴァンが一緒にいれば良いのだが、まだ低レベルのレオノーラでは流石に剣聖を相手にするには荷が重いだろう。
相手の、剣聖の素顔を知らない故に警戒は最大限にしておかなくてはならない。
俺はそう思っていると、
「なら、フランメの所に行くのはどうだ?」
センジンさんが俺にそう聞いてくる。
フランメさんの所か、しかしあそこはあまり戦闘の鍛練をするには狭い様な気がする。
俺がそう思っていると、
「別に、フランメがいる洞窟に入ることはないけど?あそこは人が近づく場所じゃねえから、人目は気にしなくても良いんじゃねえか?」
センジンさんが俺にそう言ってくる。
そう考えると、あまり大人数で洞窟近くに行くのも目立ってしまうな。
俺はそう思うと、
「では、エルヴァン達を洞窟近くに待機させて、少人数を順々に鍛練していくのが良いかもしれないな」
センジンさんにそう提案をする。
俺の言葉を聞いたセンジンさんは、
「だな。大人数では結局目立っちまうし、教えてくれる人数も考えればそれが妥当だろう」
俺の言葉に賛成してくれる。
「ではまず、フランメさんの洞窟近くに移動しましょう。これから忙しくなります、センジンさんおアンリも、気を引き締めていきましょう」
俺がそう言うと、アンリは元気よく返事をし、センジンさんは気合を入れるかの様に声を発して返事をした。
そうしてセンジンさんの案内の元、俺とアンリは彼の後ろを付いて歩いてフランメさんのいる洞窟付近までやって来ると、
「召喚、エルヴァン、レオノーラ、ルミルフル、バルドゥ」
俺は主に剣などの接近戦を得意とする者達を呼び出す。
「お呼びでしょうか、ヴァルダ様」
「…良い匂いだ、清浄な森の匂いがする」
「また唐突に…。どこ、ここ?」
「ヴァルダ様、何なりとご命令を…」
それぞれが、俺の呼び出しに答えてくれて姿を現すと俺にそう言ってくる。
エルヴァンとバルドゥはすぐに指示を待つ様に畏まり、レオノーラは景色を視覚と聴覚と嗅覚で楽しむ様に眼を瞑ったまま少し動いており、ルミルフルは少し文句がありそうな様子で俺の事を見てきた後に、辺りの見覚えが無い様子に疑問を感じえている様子だ。
そんな彼らに、
「突然呼び出してしまってすまないな。皆に頼みたい事があって、呼び出してしまった。ここは帝都から離れた島にあるジーグという場所であり、彼はここジーグの長であるセンジンと言う」
俺は今いる場所の説明と、センジンさんの事を紹介する。
俺の言葉の後に、
「センジン†ムソウだ。ヴァルダの仲間である皆に頼みたい事がある、どうか俺達に力を貸して欲しい」
センジンさんは軽く頭を下げて、皆にそうお願いをする。
突然の彼の言葉に、エルヴァンは事情を知っている故に普通にしてはいるが、エルヴァン以外の者達は驚いた様子でセンジンさんを見た後に、俺の事を見てくる。
そんな彼らに、
「少しだけ話はしたが、ジーグでは帝都の亜人族差別を撤廃させようと反乱を考えているんです。その為にも、ジーグの者達の戦闘技術を高める必要がある。人型の剣を扱う者、それも戦いの技術を教える事が出来る皆に、それを協力して貰いたいと思っている。勿論、断ってくれても構わない」
俺がそう説明をすると、エルヴァンとバルドゥはすぐにお任せ下さいと返事をしてくれる。
レオノーラとルミルフルは、少し考える様な仕草をすると、
「私も構わないのだが、出来れば午後からでも構わないだろうか?」
「…私は反対に、午前の方が良いわ。午後からは子供達の相手をしたいと思っているから」
2人が俺にそう言ってくる。
レオノーラとルミルフルの意見を聞いた俺は、
「とりあえず、当分の間はその提案を受け入れられるだろう。少しの間は、俺もここへ留まれるだろうし。問題はその後だな、アンリと共に狭間の町の件を終えたらそう複雑に呼び出したり戻したりする事が出来ないからな」
問題点を言葉にすると、
「そんなの簡単だ」
そう言ってきたのは、センジンさん。
彼の言葉に、俺達全員がセンジンさんに視線を向ける。
皆に視線を向けられたセンジンさんは自身がある様な顔で笑うと、
「ヴァルダがアンリと共に狭間の連中と話している間に、鍛練を終わらせればいいだけだ!」
そう言ってきた…。
彼の言葉を聞いた俺が声を出そうと口を開くと、
「そんなに簡単に言うが、鍛練とはそんな短時間で済ませられる程簡単な事では無いぞ?」
レオノーラがセンジンにそう言う。
流石、騎士団を育てていた彼女である。
短い言葉ながらも声色で、どれだけ彼女が真剣に言っているのかが分かる。
レオノーラの言葉に、
「その通りだ。鍛練とは一生続けても終わる事が無い果て無き道のりだ。剣を握る者として、それが分からないのか?」
エルヴァンが共感してそう言う。
更には、
「私も今エルヴァンに鍛練を手伝って貰ってるけど、やっぱり上手く体を動かせない事が多いと思うの。…一応私が戦闘のセンスが無いとしても、何人いるか分からないけどすぐに力を付ける事は難しいんじゃないかしら?」
ルミルフルもエルヴァンとレオノーラの言葉に賛同する。
すでに3人に自分の言葉を否定されたセンジンさんは、
「………すまん」
3人の言葉を圧力に負けて、軽い発言をした事を反省した様子で短く謝罪をした。
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