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アンリの言葉を聞いた俺は、
「まぁ、狭間の町には近い内に行かなければいけないな。しっかりと話し合わなければいけないし」
アンリを安心させる様に優しくそう言う。
絶対に、狭間の町の人達はアンリの意味深な発言に誤解をしていると思うし、訂正しなければいけない。
俺の言葉を聞いたアンリは、
「ありがとうございます、ヴァルダ様」
感謝の言葉を伝えてくる。
アンリの感謝の言葉を聞いた俺は、次にセンジンさんの事を見る。
俺の視線に気がついたセンジンさんは、少し居心地が悪そうな表情で頭を掻くと、
「こっちは、反乱に対する団結は出来ているんだがな?まだ圧倒的に人手が足りてねぇ。戦闘をする奴らの鍛練も行っているが、正直あまり良い調子とは言えないのよ。まだ時間が必要だと、俺やそういう事を任せている奴らの意見だ」
不甲斐無さに呆れつつ、自分の責任だと感じているセンジンさんがそう言ってくる。
彼の言葉を聞いた俺は、
「他の亜人族とは話し合いをしたんですか?」
俺がそう質問をすると、
「していると言えばしているが、正直俺や向こうの頭が直接会って話をしている訳じゃねえんだ。手紙や、使者を通しての意思疎通になっちまってる。他の種族の奴らが協力してくれるとは言っても、どれだけの人数がいてそこから更に何人が力を貸してくれるのか分からない」
センジンさんがそう答えてくれる。
彼の言葉を聞いた俺は、
「…今この状態故に、皆が忙しいのは理解してはいますが…。やはり、決定的な力添えをしてくれるのか分からないといけませんよね…」
しっかりとした話し合いの場を設けたいとは思う。
ここで俺が出向いたとしても、所詮彼らからしたら俺は危惧すべき人族なのだ。
センジンさんに、話し合いの場に出て貰わないといけない。
俺はそう思うと、忙しい上に更に自分の首を絞める考えが頭に浮かぶ。
しかし、今のこの状況を僅かでも脱却出来るのなら、自分の首を絞める事になっても構わないだろうと考える。
そして、
「分かりました。これから俺はジーグ周辺の他種族の集落へ赴き、彼らとの話し合いの場を設けたいと思っています。勿論、他にもやりたい事があるのでこちらも時間が掛かってしまいますが、それでも少しでもこの状況が続くよりは良いでしょう」
俺がそう志願をすると、センジンさんは表情を明るくしてニヤリと笑い、
「ヴァルダならやってくれると思ってたぜ!」
笑い声を上げながらそう言ってくる。
…嵌められた訳では無いよな?
俺がそう思っていると、アンリが少し心配そうな表情で俺の事を見てくるのが分かる。
そんなアンリに俺は、
「勿論、アンリの事を一緒に頑張ろう。安心してくれ、なるべく早くに動くつもりだ」
彼が安心出来る様に笑ってそう言うと、俺が思っている以上に心配なのかアンリの表情はあまり晴れてはいない。
俺がそう思っていると、
「失礼します」
ユキさんが部屋に入ってきて、俺達の前にお茶の入った湯飲みの様なコップを置いて頭を下げて部屋から出て行った。
どうやら、部屋の外で話が一区切りするのを待っていた様だ。
俺はそう思い、
「ではより詳細を話しましょう。ここからは報告というよりも、今後の打ち合わせの様なモノなので意見などがあったら言ってください」
アンリとセンジンさんに視線を送ると、俺の言葉を聞いた2人が静かに頷く。
2人の様子を見て、
「まずはこれからやる事ですが、センジンさんは今まで通りジーグの人達との話し合いや、戦闘に関する鍛練をしますよね?」
先にセンジンさんにそう質問をする。
それを聞いたセンジンさんは、あぁと短く答える。
「他にも何かやる事はありますか?」
俺が再度そう質問をすると、センジンさんは記憶を思い出すように少し顔を顰めて唸り、
「特別に用事がある訳じゃねえが、まぁ仲間の奴らと個人的な鍛練に付き合って貰うくらいしかねえな」
そう言ってくる。
彼の言葉を聞いた俺は、
「では、反乱に参加する人達の鍛練にはエルヴァンにも協力して貰いましょう。ついでに、こちらにも鍛えたい人がいるので、その人達にも話を通して手伝って貰えるか聞いてみます」
そう言いながら、ルミルフルやレオノーラの事を考えながらそう言うと、
「それはありがたいな。師範が多ければ、それだけ的確に教えてやれる事も増えてくるしな!」
センジンさんが晴れやかな顔でそう言ってくる。
エルヴァン達には俺から話をしておかないとな。
俺はそう思いつつ、
「アンリは引き続き剣聖の正体を探す事をお願いしたいが、今のままではおそらく剣聖は尻尾を出す事はしないだろう。何か新しい方法を一緒に考えよう。まず最初は、俺と共に狭間の町へ行き彼女達と話し合いがしたい」
アンリにそう指示を出すと、アンリは少し不安そうな表情をしつつ、
「分かりました」
そう返事をしてくれる。
2人への指示を出したところで、
「最後に、俺がやるべき事だが…。アンリと一緒に狭間の町への話し合いに行き帰って来られたら、そのままジーグ周辺の集落などにセンジンさんとの話し合いに向けての挨拶を交えるつもりだ。それまでは、これまで通りに行動してくれていて構わない。センジンさんはいつも通りジーグの皆の鍛練に付き合い、アンリは剣聖の正体を探る事と、精鋭騎士達を操っての帝都への虚偽の報告をしておく様に」
俺自身がやる事を説明する。
「了解」
「はいッ!」
俺の言葉にセンジンさんとアンリが返事をするのを聞き、
「そうだ、センジンさんに少しお願いしたい事があるのですが…」
俺は思い出したというか、危惧しないといけない事を忘れて話を進めてしまっていたが、彼にお願いがあったのだった。
「何だ?」
センジンさんが俺の言葉に不思議そうな表情を向けてくるのを見て、
「エルヴァンなどをジーグへ呼ぶ為に、出来れば鍛練する場所を誰も近寄れない様な場所にしたいんですが、そういった場所とかありますか?」
俺はそう質問をする。
俺の問いを聞いたセンジンさんは、またもや顔を顰めると思いついた場所の名前を口から漏らしては自分でそれを否定し始める。
そこまで考えさせてしまうのは申し訳ないが、誰にも見つからない様な場所が出来れば欲しいと俺は思っている。
俺は彼がどこか思い付くまで、彼の百面相を見ながら待ち続ける。
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