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アンリが俺の事を見つけて声を出すと、センジンも振り上げていた剣を一度止めて俺の方を見てくる。
そんな2人に俺は、
「久しぶりです。随分と待たせてしまいましたね、すみませんでした」
まずは、ジーグに戻って来たのが遅れた事を謝罪する。
俺の謝罪を聞いたアンリは、
「そ、そんな!ヴァルダ様が謝罪をする事なんてありませんから!」
慌てた様子で俺にそう言ってくれる。
そしてセンジンさんは、抜刀していた剣を鞘に戻すと、
「気にしないでくれ、こちらも思う様に準備が進まないからな。正直、ヴァルダが来てくれた事に少し安心している所がある」
俺にそう言ってくる。
何か問題でも発生したのだろうか?
俺はそう思いつつ、この場で詳細を話す訳にはいかないと思い、
「場所を移しても構いませんか?こちらの状況や、ジーグでの状況を話し合っておきたいのですが…」
センジンさんにそう言うと、彼は俺の言葉に頷いて屋敷に帰ろうと言ってくる。
そうしてセンジンさんの屋敷へと戻って来ると、
「おかえりなさいませ。…ッ」
玄関で出迎えてくれた、センジンさんのお世話などをしているユキさんが俺の事を見て一瞬だけ驚いた表情をした。
しかし、
「どうぞ」
流石はユキさん、冷静に俺がいる状況に対応して屋敷の中へと促してくれる。
センジンさんは自分の家なので普通に入っていくが、アンリも慣れたのか普通に屋敷の中へと入る。
俺はユキさんにお邪魔しますと一言伝えてから屋敷の中へと入り、奥の彼の自室へ向かう。
部屋に入ると、ユキさんはお茶を淹れてくる為に一度席を外して、部屋にはセンジンさん、アンリ、俺の3人が座っている状態だ。
そんな状態に、
「まずは、俺から帝都の状況を話しても構いませんか?」
俺は自分から話しを切り出してそう質問をする。
俺の言葉を聞いたアンリとセンジンさんが頷いたのを確認すると、
「では、帝都の状況を…。まず俺の方で出来る限り帝都の亜人族の保護と僅かではありますが脱出を手助けし、現段階で帝都に残っている亜人族は主がいる、奴隷の人達だけだと思います。契約がある限り、俺でも簡単に助ける事が出来ません」
俺は帝都にいた、スラム街の人達や違法に捕まった亜人族の手助けをした事を説明し、しかしながら最小限ではあるが今行動を起こせば奴隷となっている亜人族が犠牲になってしまう事を説明する。
俺の説明を聞いたアンリとセンジンさんは、
「奴隷になっている人達を1人1人助けるには、時間も手も足りて無い。後は、戦争時に戦わされている奴隷達の主人を殺していくしかないと、俺は思う」
センジンさんが、真剣な表情で俺にそう言ってくれる。
そして、
「そうですよヴァルダ様!僕だって、頑張ってみせます!」
アンリがやる気を表す様に、両手で拳を作ってむんっ!と言えばいいのだろうか、そんな格好をして見せる。
それを見た俺は、
「頼りにしているぞアンリ。それで、2人の状況は?」
アンリにお礼の込めた言葉を言うと、アンリとセンジンさんが互いに顔を見合わせて、
「…アンリから話した方が良いのではないか?」
「センジンさんの方が良いと、僕は思いますよ?」
互いに、そちらから話した方が良いと譲り合う…というか、押し付け合っている様だ。
そんな様子を見ていると、俺の視線に気がついたアンリが申し訳無さそうな表情をして、
「…では、僕の報告をさせて貰います」
そう言った。
アンリの言葉を聞いた俺は、
「よろしく頼む」
アンリの次の言葉を待つ。
確か、アンリに任せていた事は剣聖の正体を暴く事と、狭間の町の住人達との和解の交渉だ。
俺が思い出していると、
「まずは、剣聖の正体ですがまだ見つける事が出来ていません。配下の者達はおそらく全員と言って良い程僕の支配下に置いたのですが、皆から聞いた情報は乏しく未だに剣聖の正体、それ以前に性別やどの様な姿をしているのかも分からない状態です」
剣聖についての調査報告をされる。
しかしやはり、随分と用心深いのだな。
レオノーラから聞いていた感じだと、戦闘狂だと思っていたからあまり静かにしているタイプだとは思えなかったのだが…。
俺はそう思いつつ、
「剣聖については、俺の方でも帝都で少しだけ話を聞いたりしたのだが、俺の方も大した進展は無かった。アンリと同じ様に、多少の情報を得る事は出来ても確定とする判断材料が無い。あまり気を落とす事は無いぞアンリ」
申し訳無さそうにしているアンリに、自分も大した事は無いと慰めの言葉を伝える。
俺の言葉にアンリは少しだけ気分が晴れた様な表情をすると、しかしまた落ち込む様な表情になってしまった。
大丈夫だろうか?
俺がアンリの事を心配していると、
「く…くくっ…」
アンリの表情がもう一度落ち込んだ様子を見たセンジンさんが、笑い声を押さえる様に口元を抑えている。
彼の様子から見るにアンリからしたら落ち込む話ではあるが、センジンさんからしたら思わず笑いが漏れてしまう様な話なのだろうと察する。
俺がそう思っていると、
「そ、その…ヴァルダ様に任されていた狭間の町の人達の件でご相談したい事がありまして…」
アンリが俺にそう話を切り出してくる。
俺はそんなアンリの言葉に、
「どうした?何か問題でもあったか?」
俺が心配してそう聞くと、
「ぼ、僕が狭間の町の人達と、そ…そそその…僕の精気を提供すれば…僕達に協力してくれるという事になりまして…」
「お、おう…。…おぅ?」
俺が想像していたよりも、あまり深刻そうな内容では無かった様な気がするのは、俺だけなのだろうか?
俺はそう思いつつも、しかしアンリ本人はとても深刻そうな表情をしている故に、
「それで、アンリは何て返したのだ?」
アンリにそう質問をする。
俺の問いを聞いたアンリは、
「僕はヴァルダ様の家族ですので、そういう事は僕は答える事が出来ません…と。僕の心も体も、精気だってヴァルダ様のモノですから…」
そう答えた。
なるほど、ある程度状況は理解した。
言い方に誤解がある様な気がするのだが、おそらくアンリからすれば心からの言葉なのだろう…。
そして、アンリが言った言葉で狭間の町の人達がどんな反応したのかもある程度察してしまった。
俺がそう思っていると、
「それで、狭間の町の人達がヴァルダ様と僕の事について話し合いがしたいと言われてしまいまして…。今はあまり町へは行けていません」
アンリがそう言ってきた。
…これは、また何か狭間の町の人達と問題が起きそうな気がする…。
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