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翌朝、俺は早めに目が覚めると体を伸ばしてベッドから立ち上がり、軽く朝食を食べる為に食堂へ行きサンドイッチを食べる。
そうして軽い朝食を食べた後、俺は自室へと戻って装備の支度を始める。
一応何かあった時の為に装備はいつも通りの上に、顔が見えないレオノーラにも貸していたフードが付いているマントを羽織り、昨夜考えていたアンジェの指輪を忘れずに準備する。
そして、
「さて、行くか」
俺は独り言を呟くと、黒い靄を出現させて外の世界に行こうとする。
すると、
コンコンコン
自室の扉がノックされ、俺は黒い靄に入りかけていた脚を一旦戻して、
「入れ」
扉の向こうにいる者にそう声を掛ける。
俺の声を聞いた者が、
「失礼します」
「おはようございます」
2人、部屋の中へと入ってくる。
「シェーファ、セシリア。おはよう、こんな朝早くからどうしたんだ?」
俺は挨拶をした後に、2人にそう質問をする。
俺の質問を聞いた2人は、
「いえ、ヴァルダ様が扉を開いたのが分かりましたから、ご挨拶をと思いまして」
「私は丁度セシリアと一緒にいたので、では2人でヴァルダ様にご挨拶をしようとなり、急いで2人で来たのです」
俺の問いにそう答える。
2人の言葉を聞いた俺は、
「わざわざありがとうな。折角2人が俺の元まで来てくれたんだ、軽く抱きしめても構わないか?」
いってきますの挨拶に、何か動作を入れる事を提案する。
俺の言葉を聞いたセシリアとシェーファの表情が、驚いた様子から華やかな笑顔に変化する。
俺の願望が混ざっているのかもしれないが、俺の言葉に嬉しそうな反応をしてくれる。
そして俺の言葉を聞いてシェーファとセシリアが何故か俺に背を向けると、
「…私…先が…良い……けれど」
「私も……ですよ。…………仕方……譲り……」
何やら声は聞こえるが、何を話しているのだろうか?
部分部分は聞こえるが、どの様な会話をしているのかは分からない。
俺がそう思っていると、勢いよくシェーファとセシリアが振り返り、シェーファが一歩二歩と俺の元までやって来ると、
「いってらっしゃいませ、ヴァルダ様」
少しだけ手を広げてそう言ってくる。
俺はシェーファの広げている手の中に入ると、脇腹からするりと背中に手を回される。
その際に、俺はシェーファの肩から手を回して彼女の背中に触れる。
「ありがとう、行ってくる」
俺はそう言って、互いに少しの間抱きしめ合ってから離れると、少し名残惜しそうにシェーファが俺の方を向いたまま数歩後退する。
そんなシェーファと入れ替わる様にセシリアが数歩歩いて来ると、
「お気をつけて、いってらっしゃいませ」
そう言って少しだけ頭を下げて挨拶をする。
頭を下げているセシリアに近づき、未だに下げている頭を少しだけそっと触れる様に撫でるとセシリアが頭を上げる。
「行ってくる。塔の事は任せた」
頭を上げたセシリアにそう言って抱きしめると、セシリアも俺の背中に手を回してくれる。
シェーファの時と同じぐらいの少しの時間だけ互いに抱きしめ合い、少ししてそっと離れる。
「2人のお陰で、やる気も湧いてきた。行ってくる」
そうして俺は2人にそう言って踵を返し、少しの間放置してしまった黒い靄に入りつつ2人に向かって手を振ると、シェーファとセシリアも手を振り返してくれた。
そして黒い靄を通り過ぎ、俺は帝都の宿屋に戻って来ると、
「では行くとするか」
そう呟いて、宿屋の部屋を出る。
宿屋を出た俺が向かう先は、騎士団の詰所。
一応時間的には余裕で間に合うとは思うのだが、それでも初めての大規模な騎士団の任務だ。
説明などで早めに集まっているかもしれない。
俺はそう思いつつ、まだ疎らな帝都の街を走る。
そうして騎士団の詰所に辿り着くと、俺が心配していた通りいつもよりも騎士団の見習いの皆が集まり始めているのが詰所の窓から見える。
ドフルトは、普通にしている様に見える。
無駄に動かずに、ただ騎士見習い達が集まるのを待っている様だ。
俺がそう思って観察している間にも騎士見習い達が詰所の中へと入っていき、やがて全員が揃うとドフルトが立ち上がる。
それと同時に、エメリッツから派遣された騎士の1人が号令を出すと、騎士見習い達が姿勢を正して敬礼の様なものをする。
窓の外からはドフルトが何を言っているのかは分からないが、詰所の中の空気が真剣な様子なのはうっすらと理解する。
俺がそんな事を思いながら観察していると、ドフルトが拳を上に突き出す。
それと共に騎士見習い達もドフルトと同じ様に手を上へと突き出し、一斉に行動を開始した。
それぞれがが腰に剣を装備し、ドフルトも大剣を背負い詰所の外へと出てくる。
ドフルトが先頭に、騎士見習い達が外へ出て整列し、
「では、行くぞ」
ドフルトの言葉に騎士見習い達が返事をする。
そうしてドフルト達、新しい騎士団は詰所を出発して帝都の街へと繰り出した。
少しばかり詰所での時間が経ってしまっていた為に、帝都の街にはそこそこの商人達が仕事を始めていたのだが、ドフルトが率いている騎士団を見て何事だろうと不思議そうな表情をしている。
それにしても、ここまで堂々と歩いて屋敷の者達は逃げ出したりしないのだろうか?
むしろ堂々としていれば怪しまれないとか、何かしらの対抗策を考えている可能性すら考えられるな。
その対処をどうするつもりなのだろうか?
俺はそう思いつつ、街を歩き進めるドフルト達騎士団を追いかける。
そうして屋敷に着いたドフルトと、エメリッツから派遣された騎士達は騎士見習いの人達に指示を出し始める。
各自屋敷の周囲を囲む様に指示を出しているが、詰所でその作戦を伝えなかったのだろうか?
それとも、作戦を伝える様子を見せる事に何か意味があるのだろうか?
俺がそう疑問に感じていると、屋敷の扉が開いて1人の執事が急いでドフルト達のいる屋敷の門前までやって来ると、
「と、当家に何か御用でしょうか?ご主人様に予定は入っておられないのですが…」
少し慌てた様子でドフルトにそう話しかける。
そんな執事にドフルトは、
「違法薬物パプの製造、販売をしているという情報を得てここへ来た。屋敷の中を調査させてもらう」
そう言い放った。
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