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俺が手で塔の周辺に浮いている島の1つを呼び寄せると、レオノーラが少し不思議そうな顔でゆっくりと近づいて来る浮島の事を見ている。
しかし浮島が徐々に近づいて来て浮島に建っている建物の輪郭がハッキリと見えて来ると、不思議そうにしていたレオノーラの表情が少し驚いた様な表情に変化していく。
そして麓の大地に浮島がくっ付く頃には、僅かに驚いていた表情が口を僅かに開けて呆然とした表情をしている。
少しだけ間が空くと、
「ヴァ、ヴァルダ?この建物は…いや、この島は…」
レオノーラが俺に僅かに震える声でそう聞いてくる。
それを聞いた俺は、
「塔の生活、今は皆さん物珍しさなどで喜んでいる様ですが、おそらく寂しくなる事もあるのではないかと思って、俺に出来るのはこれくらいなんですけど、帝都のスラム街の建物の一部をここへコピー…移動させてみました。…レオノーラも、少し寂しそうな表情をしていたのも気になりましたし」
レオノーラの言葉にそう答えると、少し恥ずかしそうな表情をして一度顔を伏せると、
「私達の為に、色々と考えてくれてやってくれる事に感謝するヴァルダ」
一瞬で表情をいつもの様にキリッとさせると、俺に感謝の言葉を伝えてくる。
彼女のその言葉に、
「俺に対しての感謝の言葉は不要だ。俺はレオノーラも含めて皆の主として、皆に安心をして喜んでくれる事を望んでいる。故に、喜んでいる姿が見れるだけで俺は十分なんだ。お礼は、これを手伝ってくれたセシリアに言ってくれ。浮島の土台を作ったのは俺ではあるが、その上の建物に関しては全てセシリアがやってくれた事だ」
俺に対してのお礼よりも、協力してくれたセシリアに対してのお礼の言葉を言ってあげて欲しいと伝えると、
「セシリア、ありがとう。私達の為にここまでしてくれて、本当に感謝している」
レオノーラがセシリアに体を向け、真っ直ぐに感謝の言葉を伝える。
それを聞いたセシリアは、
「私も大した事はしていませんが…。ですが、その感謝の気持ちは受け取ります。これからヴァルダ様を支える者同士、協力しより良い場所に出来る様に努力しましょう。よろしくお願いします」
レオノーラに向かってそう言うと、ゆっくりと頭を下げる。
それを見た俺は、
「セシリア、流石にそこまで考えなくても…。仲良く楽しく過ごせる事を考える程度で良いんだぞ?」
苦笑しながらセシリアにそう言うと、セシリアは下げていた頭を上げて俺の事を見て来ると、
「はい。しかし、ヴァルダ様の事を第一に考えるのは配下の者としては当然の事。それだけは譲る事は出来ません」
力強く俺にそう言ってくる。
その気持ちは嬉しいし感謝をしているが、俺はレオノーラも含めてスラム街の人達を帝都にいる人族から保護をしただけに過ぎない。
保護をした人達に、俺の為にああしろこうしろとは言えない。
俺がそう思っていると、
「愛されているなヴァルダ?」
レオノーラが少しニヤニヤとした笑みを向けて俺にそう言ってくると、
「スラム街から来た者達は、まだ皆色々と自分達の事で精一杯だからすぐには無理かもしれない。だが、私はもう様々な面で助けてくれたヴァルダに感謝の言葉では伝えきれない恩がある。セシリアや塔に住んでいるヴァルダの配下の者達の様に、ヴァルダに何かしてあげられる事がある様に努力する。今はそれでも構わないか?」
レオノーラはセシリアに向かってそう言い放つ。
彼女の言葉を聞いたセシリアは頷き、
「困った事がありましたら、教えてください。協力します」
レオノーラにそう答えると、俺の方を向いて来て、
「ヴァルダ様、私はスラム街の人達を呼んできます」
そう言ってお辞儀をすると、俺の返事を聞かずに一瞬で姿を消してしまう。
それからセシリアがスラム街の人達と騎士団の人達を連れてきてくれるのを待ちながら、レオノーラやルミルフル、エルヴァンにサール達と他愛無い会話をして時間を潰していると、やがて塔から多くの人達が話をしていた俺達の元までやって来るのが見える。
先頭には案内をしているセシリアがおり、その後ろに騎士団の人達がまるで警護するかのようにスラム街の人達の周囲の取り囲みながらこちらへとやって来る。
しかし、行く先にレオノーラがいる事を確認した騎士団の人達は、警戒を解いた安心の表情をするのが見える。
そうしてセシリアが俺達の元に辿り着くと、
「ヴァルダ様、レオノーラ様。皆様をお連れしました」
セシリアが俺とレオノーラにそう言ってお辞儀をする。
そんな彼女に、
「ありがとう、セシリア」
俺はお礼の言葉を伝えると、手を動かして俺の隣に来るように合図を送ると、セシリアは俺の隣へとやって来る。
セシリアが隣に来たのを確認した俺は、
「突然の呼び出し、申し訳ない。実は君達に見せたいモノがあってここへ来てもらった」
少し大きな声を出して、ここへ来た皆に聞こえる様にそう言う。
俺の言葉を聞いた人達は、おそらく俺やレオノーラ、セシリアの背後にある浮島の建物が目に映っている故にある程度察しているだろう。
俺はそう思いつつ、
「今皆は塔で生活をしている。だが、少し遠慮をしているのではないか?最低限に動き、家具を壊さない様に気を付けたり、汚れない様にしていたりと、帝都での生活とはまた違う少し生活をするのに息苦しさを感じている者はいないか?」
そう返事を期待していない声を彼らに掛ける。
俺の言葉に、少し心当たりがあるのかドキッとした様な表情をして顔を伏せる者も見える。
そんな彼らに俺は、
「故に、息抜きをする様にここを用意してみました。皆さんにとっては良い思い出だけではないでしょう。ですが、今まで過ごしてきた家は安心感があり息苦しさを感じる事は無いかと思います。塔とこの浮島での生活をしてみませんか?一応、比較的スラム街の壊れていない場所や孤児院などの大きな建物を移したつもりですが…」
そう言って、少し彼らの視線から外れる様に体を動かす。
すると、
「い、行っても良いの?…良いのですか?」
少しオドオドとした子供が、俺にそう聞いた後に敬語に訂正をする。
それを聞いた俺は、
「どうぞ。というよりも、ここは君達の家なのだ。俺への許可などいらないぞ」
笑顔を向けて子供にそう返すと、子供は少し緊張した様子を見せながらも前へと歩き出して浮島へ移る。
それを皮切りに、他の人達も少し安心した様なホッとした表情をして島へと移り始めた。
そんな彼らを見て、やはりすぐに塔での環境は慣れないよなと思いながら、最後に島へ移った者に続いて浮島へ飛び乗った。
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