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それから数日間、俺はドフルトの鍛練に付き合い彼をとことん追い詰めた。

精神的にも肉体的にも、ただひたすらに追い詰めたのだった。

その間にレオノーラも帝都でのパプの情報を集めてくれて、少しずつ確実にパプの流出元を探し出してくれた。

そうして準備はゆっくりとだが着実に整っていき、遂に俺の方ではドフルトの力がそこそこまで高められたと確信し、レオノーラの方もパプを貴族に流している大元を探し出す事に成功した。

その間に、俺はエルヴァンとして騎士の増員も呼び込み何とか形だけは立派な騎士団にする事に成功する事が出来、騎士見習い者同士で鍛練をし合う様に指示を出した。

そして騎士見習い達が集まって少しして、エメリッツの方でもこちらの騎士団に騎士達を派遣をしてくれて、ようやくではあるが帝都騎士団は形なりにも出来上がった状態へとなった。

パプの事は偶然ではあるが、俺の創った紛い物の騎士団の初めての任務には丁度良いと感じ、俺はレオノーラの情報を元にパプを流している商人の腕でなり上がった貴族の屋敷へと向かっていた。

恰好は潜入に適しているアンジェの指輪を首から下げているいつもの装備だ。

レオノーラもアンジェの指輪の効果を凄く気に入っており、自分が騎士団長の時にも欲しかったと言っていた。

俺はそんな事を思い出しながら、潜入した屋敷の地下へと来ていた。


「もっと丁寧に扱えッ!この大きさの物1つでお前の命などいくつでも買えるんだぞッ!」

「す、すいやせんッ!」


地下はパプを製造する場所なのか、数人の人がゴリゴリと淡く光る石を削っている様子が見える。

奴隷という訳では無さそうだ、単純に仲間や手下なんだろう。

俺は作業をしている人達を見てそう判断すると、まずは手下に怒っている人の様子を窺う。

手下の者達とは違う豪華な装飾品を身に着け、パプの売り上げが良いのか恰幅が良い。

地下室の手前側で作業をしている男達、そしてその奥にも何やら乳鉢でゴリゴリと音を立てている者達がいる。

言うなれば手前にいる者達は石を粗く削って、その荒く削った石の粉末を乳鉢で更に細かく削っているのだろうと察する。

今ここで、彼らを捕まえる事は可能だ。

しかしそれでは、俺の考えている事を成功させる事が出来ない。

ここは、パプの材料となっている魔石の回収だけするとするか。

俺はそう思うと、地下室の様子を窺う。

地下室はあまり広くは無い、それに道具を置くための簡易的な家具などはあるが魔石の様な物が置かれている場所が無い…。

ここでは無いのかもしれないな。

俺はそう思うと、地下室から移動して屋敷の中の散策を開始する。

屋敷の中はブルクハルトさんの屋敷の様に広く、しかしブルクハルトさんの様な所々の装飾があるお洒落な感じでは無く、帝都の城の様に豪華絢爛で目がチカチカする…。

それに屋敷内のメイド達も、あまり良い生活は出来ていないのか痩せ細っていて表情も暗い。

僅かな物音にも怯えた表情をする姿は、とても痛々しく感じる。

俺はそう思いつつ、メイド達の眼を掻い潜って屋敷内の扉を開けて魔石の保存をしている場所を探していくと、ある一室に辿り着いた。

おそらく屋敷の主である貴族の部屋だろう。

様々な紙や本が置かれており、他の部屋に比べるとここだけ掃除があまりされている様子は見えない。

俺はその部屋に入ると静かに扉を閉めて、部屋の中の魔石が置かれている可能性がある場所を探し始める。

机の引き出しや棚などを見て行くと、やがて1つの棚に置かれている箱が目に入った。

鍵は付いておらず、装飾も施されていない質素な木製の箱。

何故目に入ったかというと、屋敷の廊下にすら装飾を施すこの屋敷の貴族がこの様な質素な物を部屋に置いておくのかが気になったのだ。

ただの勘違いかもしれない。

しかし、鍵も掛かっていない箱ならば開けるのに苦労はしないと思うと、俺はその箱を開ける。

そこには拳ほどの大きさの淡く光る石、魔石が4つ入っていた。

これが魔石か。

精霊の死した姿でもあり、次に生まれてくる為の卵の様な物でもある。

不思議なモノではある。

俺はそう思いながらも、アイテム袋に箱の中身の魔石を全て入れると、箱の中に同じサイズの普通の石を入れて重さだけでも誤魔化そうと偽装工作をした後、俺は屋敷を窓から飛び出して逃げると追手が来ていないか気配察知スキルを使いながら帝都の街を歩き、安全だとしっかりと確信をしてから宿屋に戻った。

宿屋に一度戻ると、俺は次の行動を起こすべくもう一度アンジェの指輪を装備して宿屋を後にする。

目的地は、帝都の外で鍛練を未だに行っているドフルトの元だ。

そこそこの実力を取り戻し、鍛錬を始めた頃に比べれば遥かに筋力も技量も向上している。

躾をしっかりと行った結果、慕ってくる訳では無いが反抗の意思はない。

奴には自由を約束している、実力を付けるために死ぬ手前まで痛めつけて苦しめた甲斐があった。

従順ではないものの、一応命令にはしっかりと従う。

俺はそう思いながら帝都の外に出ると、最近はよく通っているドフルトがいる草原までやって来た。


「ッッ!!オ゛オ゛ォ゛ォォッッ!!」


力が込められた低い声と同時に、僅かな衝撃が肌に感じる。

…良い仕上がりの様だな。

俺がそう思っていると、遠くで土煙が発生する。

俺はもう少し歩みを進めると、大剣を振り下ろした格好で動きを止めているドフルトの後ろ姿が見える。

その先には、僅かに盛り上がった地面に切れ込みが入っている様子を見るに、ようやくドフルトは斬撃を飛ばせるまでに力が向上した様だ。

俺がさらに一歩踏み出すと、大剣を振り下ろした格好から即座に振り返って大剣を構えて警戒をしてきた。

しかし視線の先に俺がいる事を理解すると、ドフルトは一気に姿勢を正して大剣を地面に突き刺す。

そんなドフルトに、


「…ここまで近づいた事に気がつかないのは、いくら能力が向上したとしても問題だな。もっと周りの気配に意識を集中させないといけない」


俺がそう言うと、ドフルトは苛立ちの様な怒りを宿した表情をすると視線を僅かに俺から逸らす。

そんなドフルトの様子に、


「…全ての準備が整った。ドフルト、お前に最後の命令を下す。それが終われば、お前は俺から解放されるだろう」


俺は全ての準備が整った事を再確認し、ドフルトにそう言い切った。


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