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翌朝、俺が目を覚ますと左腕に抱き付いて未だに穏やかな寝息を立てているシュリカがおり、右隣にいたシェーファの姿は無かった。
どうやらもう起きて行動している様だ。
さて、俺も準備をして出発するか。
俺はそう思うと、左腕に抱き付いているシュリカの腕をゆっくりと外してベッドから抜け出して装備の準備をする。
そうして少し装備をいじっていると、
「んぁ、お兄ちゃん?」
背後からそう声を掛けられる。
寝ぼけているのか、俺の事を兄と呼んでくるシュリカ…靜佳。
「おはよう靜佳。俺はもう準備をして出かけるけど、まだ寝足りないのなら寝ても良いからな」
俺がベッドにいる靜佳にそう言うと、
「ぁ~い…」
靜佳は俺の言葉に返事なのか何とも言えない返事を返してくるとベッドにもう一度沈む。
それを見た後、俺は昔から朝は弱かったよなと思い苦笑をしつつ、
「いってきます」
おそらくもう寝てしまって俺の声は聞こえていない靜佳にそう言ってから、部屋を出て食堂へと向かった。
食堂に行き、朝食を食べた俺は塔を出発しようとすると、
「おはようございます。いってらっしゃいませ、ヴァルダ様」
突然現れたセシリアにそう挨拶をされた。
「行ってくる。塔の事は任せたぞセシリア。シェーファにもそう伝えておいてくれ」
俺がセシリアにそうお願いをすると、俺の言葉を聞いたセシリアがはいと返事をしてくれる。
そうして塔から帝都の宿屋に戻ってきた俺は、即座に行動を開始する。
宿屋を後にし、俺は昨日置き去りにしたドフルトの元に行くために駆ける。
検問所を素通りし、帝都の外に出た俺は足を止めずに昨日ドフルトを置き去りにした凹凸が目立つ草原にやって来ると、
「…意外にモンスターは来なかったようだな」
草原に立っているドフルトの背中を見てそう呟く。
立っているドフルトの周りには、モンスターの亡骸が複数横たわっているのだが、それらは全て第二級冒険者でも倒せる程度のモンスターだ。
ドフルトに近づくと、ドフルトは息を荒げて汗も掻いている様子だ。
俺から見える体の部分に傷は掠り傷程度しか無く、大きな怪我をしている様子は無い。
俺がそう思って近づくと、剣先は地面に当たっているが柄の部分は握っている状態で力が籠められるのが分かる。
そんな様子にドフルトを自由に動かさない様に、
「俺だ。命令だ、剣から手を放し、楽な姿勢を取る事を許可する」
そう命令を下すと、俺の命令を聞いたドフルトは大剣の柄をその場で無造作に手放すと、大きな音を立てて大剣が地面に衝突する。
それに続いて、ドフルトが男らしく大雑把に胡座を掻いて座る。
服に土が付くのなど、気にしていない様である。
俺はそんなドフルトの様子を見て、続いて周りに倒れ伏しているモンスターの亡骸を見ると、少し違和感を感じる。
明らかに、第一級冒険者に匹敵する実力者がこのくらいのモンスターと戦ってこれほど消耗するとは思えない。
可能性があるとするなら、それはドフルトの実力が本当は大した事が無いという状況か、パプの使用による副作用か何かで体力が著しく落ちているという事。
それか、もしかしたら疲れている様子を俺に見せて隙を窺い、背後から襲おうとしている可能性がある。
俺はそう思うと、
「ドフルト、お前がそこまで消耗している理由を説明しろ」
ドフルトに対してそう命令を出す。
それを聞いたドフルトは、俺の事を見て来ると、
「奴隷になってから、体を動かす機会など無かった。その所為だろう」
俺にそう言ってくる。
なるほど、確かに奴隷として自由に動ける時間など無いだろう。
それが原因で、ドフルトは体力が落ちているという事か。
ならば、
「それなら話は早い。これから俺自らお前の体力づくりをしてやる。寝る間も惜しんで、死なない様に頑張るんだな」
俺はドフルトにそう言うと、クラスチェンジを発動して魔法使いにクラスを変化させ、
「命令だ、大剣を掴んで戦闘態勢になれ」
ドフルトにそう指示を出す。
それを聞いたドフルトは、僅かな抵抗を見せた後に立ち上がって大剣を握って俺に向けて構える。
それを確認した俺は杖を握ると、
「そうだな。お前が俺に攻撃を与える事が出来たら、休憩の時間を与えてやる。しかし反対に攻撃が出来なかったらいつまで続くか分からないからな」
淡々とそう宣言をした。
瞬間、
「ウオォォッッ!!」
ドフルトが勢い良く駆けて俺に迫って来る。
俺はそんなドフルトに対して、
「アースバレット」
まずは土魔法で先制攻撃を仕掛ける。
土の弾丸が迫って来るドフルトに向かって発射されると、ドフルトは大剣を盾にする様に動かしていた脚を止めて防御姿勢を取る。
大剣で払い落すとか出来ないのだろうか?
俺はそう思いながら、今度はアイスバレットを発動してゆっくりとドフルトとの距離を縮める為に歩き始める。
剣と魔法の戦いは、基本的に斬撃を飛ばせるスキルや実力が無いと基本的には剣の方が不利だ。
この世界では、まず戦いになる事が無いから仕方が無いとは思うのだが、それでも戦いになった時にそれくらいの考えは思いついて欲しい気持ちはあった。
俺はそう思いつつ、
「防御だけでは、俺に攻撃は与える事は出来ないぞ?」
ドフルトを挑発する様にそう魔法を発動しつつ声を掛けると、大剣を盾の様に構えた状態で俺の様子を窺ってくる。
さて、この状態がいつまで続くだろうか?
俺はそう思いつつ、初級魔法を休みなく発動し続ける。
そうして少しの間その状態が続いていると、やがて俺の魔法の動きに合わせられる様になったのかドフルトの方に動きがある。
盾の様に構えていた大剣を大きく振るうと、俺の発動していたファイアボールを打ち落とす事に成功した。
そして大剣の柄を片手で持つと、もう片方の手で大剣の刃の部分を掴むと俺に向かって来る。
結局突進しか能が無いのかと呆れて、俺はファイアバレットを発動する。
ファイアボールよりも小ぶりな炎の弾が、勢いよくドフルトの方に放たれると、
「フゥゥンッッ!!ダァァッッ!!」
ドフルトは大剣を振るって、自身に迫っていた炎の弾を弾く事に成功した。
なるほど、大剣を普通に振るうと魔法を全て防ぐ事が出来ないが、大剣を出来るだけ短く持つ様にすれば細かい動きも出来る様になる…か。
一応、魔法に対する対抗策を考えていたという事か。
俺はそう思いながら、次の魔法の準備に入る。
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