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レオノーラから聞いた言葉を飲み込み、俺はスラム街の皆もそうだが亜人族の人達は働き者が多くないかと思いながら、
「今は皆さんも、体調面でも精神面でも色々と不安な事が多いと思います。故にもう少し塔の生活に慣れたら、すでに始めて貰っている畑などを手伝うのはどうでしょうか?畑も面積をこれから増やす予定ですので、手伝ってくれる人がいる方が安心ですから」
レオノーラにそう提案をしてみる。
俺の言葉を聞いたレオノーラは、なるほどと呟いて少し考える様子を見せると、
「では、貧弱な体ではいけないという事だな?畑仕事は結構力が必要だものな?」
俺に再度そう質問をしてくる。
それを聞いた俺が返事をして頷くと、
「…すまないな。皆何もしていない自分達が食料を消費するのは悪い事だと言って、あまり十分な食事をしないのだ。ヴァルダの言葉を聞いて、彼らにもしっかりと食事をする理由が出来て良かったと思っている。彼らのそういった考えは、私がどれだけ言っても治る事がないからな…」
レオノーラが少し悔しそうな表情でそう言う。
おそらく、彼らが信頼してくれていると自負しているレオノーラ本人の彼女の言葉よりも、彼女と出会う前に交流していた奴隷関係などの主の言葉や習慣を先に考えてしまっている事に、彼女は悔しがっていると同時に悲しんでいるのだろう。
俺はそう思い、
「レオノーラも一緒に手伝ってくれるとありがたい。今までレオノーラは彼らを護るという立場で彼らと接してきていた。だから今度は、同じ俺の元で一緒に暮らす仲間として接してみると良いかもしれないぞ?」
1つの提案を彼女に伝えてみると、彼女は俺の提案を聞いて少し彼らとの距離の詰め方を考え付いたのか、ハッとした表情をした後にまた何かを考え込む表情をしたりと表情が結構変化していく。
俺がそんなレオノーラの様子を見ていると、
「それでヴァルダ様?レオノーラさんとのお話については?」
シェーファが笑顔で俺にそう聞いてくる…のだが…。
目は細められて、口角も上がっているのだが…。
細められた瞳の奥に見える眼が、笑っていない様に見えるのだ…。
お、怒っているのか?
どうして?
俺はシェーファの様子に混乱していると、
「そうだったな。それで、どのような情報を手に入れたのだ?」
レオノーラがシェーファの言葉を聞いて、俺にそう聞いてくる。
彼女の問いを聞き、俺は一度シェーファから視線を外してレオノーラの事を見ると、
「ブルクハルトさんからの情報で、最近帝都の貴族の間で違法薬物のパプが出回っているという情報を聞きました。…レオノーラは、パプの材料は何を使われているのか知っていますか?」
俺はブルクハルトさんから教えて貰った情報を彼女に伝えて、更にパプの詳しい事を知っているのか質問をする。
俺の問いを聞いたレオノーラは首を振り、
「いや、そのパプの存在は知ってはいるし効果も一応知識にはある。前に帝都に来た、帝都の冒険者ギルドでは無い別のギルドに属している冒険者がそれを乱用して暴走した事があってな。私が対処をしたのだが、第三級冒険者だとギルドのカードには記されていた。しかし実際は、それ以上の実力を持っていたのを覚えている。少し聞いた所、パプを使うと力が増幅すると聞いた。しかしその材料までは…」
俺の質問にそう答えてくれるレオノーラ。
そんな彼女に、俺はブルクハルトさんから聞いたパプの材料の説明をする。
俺が説明をする言葉、その単語1つに表情を曇らせて次第に怒りが表情に現れ始める。
そして俺の説明が終わると、
「パプを流している者達の見当は付いていないが、その件に関しては私にさせて貰えないだろうか?帝都では無くても、違う場所で亜人族の仲間が人族によって道具として使われている…。そんな事、許せはしない…」
レオノーラが俺にそう進言をしてくる。
俺は彼女の言葉に頷き、
「情報に関しては、俺よりもレオノーラの方がそう言った事に詳しいかもしれないと思って話してみたんだ。頼めるのなら、レオノーラにお願いしたい。しかし、顔を見せなくても情報をくれる者はいるのか?」
俺が少し心配でそう質問をすると、彼女は少し考える表情をすると、
「うむ、私というか、金銭を払えば情報を提供してくれる者はいる。しかし…」
俺にそう言い、少し表情を曇らせる。
どうやら、お金の事を気にしている様だ。
俺はそう思うと、
「俺もあまり多くは無いが、とりあえず俺が持っている金銭の半分を預ける。それで交渉できないだろうか?」
アイテム袋から金銭が入っている袋を取り出して、目の前のテーブルに置きながらそう聞く。
すると、
「いやしかし…」
あまり俺から金銭を受け取りたくないのだろう、困った様子でレオノーラが金銭の入っている袋を見ている。
そんな彼女に、
「レオノーラの事を信じている故に、俺はこれを渡しているのだ。貴女なら、これを最低限の出費で最大級の情報を手に入れられると。それに、俺はあまりそういう事に詳しくない。有効に情報を集められるのは、帝都で働いていた貴女や騎士団の人達しか出来ないと思っている。騎士団の人達も、俺に協力するよりもレオノーラに協力する方が嬉しいだろう」
俺は自分自身では彼女と同じ条件でもしっかりとした情報は得られないだろうと教えて、金銭を預ける理由をしっかりと説明する。
実際、俺は情報収集など得意ではない。
アンリみたいに敵対者を操る者なら簡単なのだろうが、俺にはその様なスキルなどは持っていない。
帝都の情報屋みたいな者も知らないし、俺では完全に役立たずだろう。
しかしその点でいえば、レオノーラは俺よりも優れている。
スキルなどは持っていなくても、帝都の事は俺よりも知っているし彼女を信頼している仲間達がいる。
彼女の力は、彼女1人だけの力だけでは無いのだ。
彼女の力は、彼女と彼女を信頼し協力しようとしている騎士団やスラム街の人達の力も合わさっている。
その力は膨大で、俺なんかよりも遥かに強いだろう。
俺はそう思うと、
「頼んでもいいか?」
レオノーラに再度そう問う。
俺のその言葉を聞いたレオノーラは、一度瞳を閉じて息を深く吸うと、
「…分かった。最大の成果を届けよう」
俺の問いにそう答えてくれた。
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