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騎士団長との軽い戦いが終わった後、俺は自分が言った言葉で周りからとても目立っている事に気がつく。
流石にあんな人が集中している所で言ったのは目立ちすぎたな。
今後は反省してもう少し言動を気を付けないといけないな。
俺がそう思っていると、後ろから何やら気配を感じる。
……追って来ているのか?
俺はそう思いながら、とっさに建物と建物の間の路地に素早く入ると、
「クラスチェンジ・魔法使い」
スキルを発動して職業を変える。
何故職業を変えたのかというと、体全体と顔を隠すローブの装備を着け直すのより元からその装備を着けている魔法使いの方が一瞬で姿を隠せるからだ。
でも正直、魔法使いはあまりこういう時には使えないかもしれないな。
一応レベルはカンストしてるし攻撃系の魔法も取得しているが、魔法攻撃はそんなに強いわけではない。
俺がそう思っていると、
「おいあんた、今ここを白髪の魔族が通らなかったか?」
おそらく俺の事を追いかけてきたであろう男組の内の1人が、俺にそう聞いてくる。
良かった、俺だとはばれていない様だ。
「あぁ、あっちの方に走っていきましたよ」
俺は路地の奥の道を指さしてそう答えると、
「行くぞお前ら!あの騎士団長と戦える魔族を捕まろ!」
「「おぉッッ!!」」
男性達がそう言って俺の指さした方へ走っていく。
彼らは何で俺の事を捕まえようとしていたのだろう?
俺はそう思いながら、路地からまた大きな通りに出て歩き出す。
歩きながら俺は、先ほど俺の事を追っていた男性達の言葉を思い出す。
騎士団長と戦える俺を捕まろって言っていたが、もしや騎士団長の事を狙っているのだろうか?
まぁ、あんなに綺麗な女性で、綺麗な角が生えていたら気持ちはとても分かる。
でも、誘拐は絶対にしてはいけない。
相手との信頼関係がなければ、良い関係は築けないのは昔から知っている。
俺がそう思っていると、
「おい聞いたか?さっき騎士団長がまた戦ったらしいぞ」
「そうだったのか!そう言えば向こうの方が騒がしかったが、それだったかもしれないな」
露天商の店の人同士が何やら話している。
「それにしても、あの騎士団長はいつになったら解任するんだ?いい加減スラム街の亜人共を奴隷にして、帝都を綺麗にしちまえばいいものを…」
「騎士団長がスラム街の亜人共を保護してる所為で、亜人共と一緒の国に住まないといけないなんてな。早くあの騎士団長を解任するなり殺すなりしてくれても、だれも文句言わないだろうに」
俺が聞き耳を立てていると、商人達がそう言っているのが聞こえた。
なるほど、自分達を護ってくれている人に対してその反応、クズ過ぎて何も言えないわ。
安心しろおっさん共、いつか俺がレオノーラさんを連れてこの帝都を綺麗な屑共の巣窟にしてやるからな。
俺がそう思いつつ、スラム街の亜人をレオノーラさんが保護しているなんて…。
もしかして、だからブルクハルトさんがこの帝都に入ってきた時にあんなことを言ったのか?
『私には、彼らを救えないのです』
つまり、ブルクハルトさんの道を邪魔しているのはレオノーラさんの可能性があるな。
おそらく、レオノーラさんがスラム街の亜人達を奴隷にされないように保護しているのだろう。
そして、奴隷商人であるブルクハルトさんはスラム街の亜人を奴隷という名の保護をしたいのだが、レオノーラさんが護っている所為で手を出せないという可能性が高い。
話し合いでどうにか出来るならそうしたい気持ちはあるが、ブルクハルトさんは良いとしてもレオノーラさんが話し合いに応じるつもりはないだろう。
どうにかしたい問題がまた増えたな。
俺はそう考えているうちに、ブルクハルトさんの奴隷館に戻ってきていた。
おそらく無意識に知っている道だけ歩いていたせいで、ここに辿り着いたのだろう。
とりあえず、帝都の問題も少しだけ見えたから、今日はもうここに帰ろう。
俺はそう思い、ブルクハルトさんの屋敷に入ろうとすると、
「なんて事だッッ!!」
屋敷からブルクハルトさんの怒気を孕んだ大声が聞こえる。
何かあったのだろうか?
俺がそう思いながら屋敷の扉をノックすると、少し遅れて扉が開く。
そこには、
「…ビステル様、おかえりでしたか」
悩まし気な表情をしているブルクハルトさんが、扉を開いてそう言ってくる。
「はい、何かあったんですか?外まで聞こえていましたよ」
俺がブルクハルトさんに質問をすると、
「…中に入って話をしましょう」
ブルクハルトさんがそう言って屋敷の中へ案内してくれる。
屋敷の中に入ると、誰もいない広い空間が目に入る。
使用人とか、誰もいないのだろうか?
俺がそう思っていると、ブルクハルトさんがこちらですと廊下へ案内をしてくる。
ブルクハルトさんの後を歩いて何部屋か通り過ぎると、
「今、こちらに厚意にしていただいている貴族のアードラー伯爵がいらっしゃいます。今回の魔族の金銭的な援助をして下さる事になったのですが。…問題が発生しまして、ビステル様にも聞いて頂きたいと思うので、ぜひお話を」
ブルクハルトさんがそう言ってくる。
なるほど、つまりそのアードラー伯爵に失礼な事をしたらマズいという事だな。
「分かりました」
俺はブルクハルトさんの言葉にそう返して、問題が発生したと言っていたが何が起きたのだろうかと考える。
そう考えていると、ブルクハルトさんがある部屋の前に止まって扉をノックした後、
「お待たせしましたアードラー伯爵様」
扉を開けながらそう言って中に入っていく。
俺もその後に続くと、
「ブルクハルト、このローブの男はどちら様だ?」
30代半ばくらいのイケメンな男性がソファーに座りながらそう声をかけてきた。
すると、
「アードラー伯爵様、こちらが私の推薦したビステル様です」
ブルクハルトさんがそう言ってくれる。
簡単な説明はしてくれているのだろう。
俺はそう思い、
「初めましてアードラー伯爵様。私はヴァルダ・ビステルと申します」
自己紹介をして頭を下げると、
「これは失礼を、まさかここまで若いとは思わず。私はアルフレート・マルティン・アードラーだ」
男性が自己紹介をしてくれる。
すると、
「それではビステル様。先ほど言った問題についてお話をしても?」
ブルクハルトさんがそう言って座り、俺に隣に座るように勧めてくる。
俺はお言葉に甘えてブルクハルトさんの隣に座ると、
「実は、件の捕らわれた魔族の売買が闇オークションでする事になってしまいました」
ブルクハルトさんがそう言ってきた…。
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