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ドフルトの視線が鋭くなると同時に、
「命令する。立て」
ブルクハルトさんが更に命令を出す。
彼の命令の強制力が、おそらく抵抗しているであろうドフルトの体を無理矢理動かしてその場で立ち上がらせる。
同時に鎖で繋がれている所為で少し不格好にドフルトは立っているのだが、それでもその立ち姿にはそこらの冒険者とは違う事は理解出来る。
俺が立っているドフルトの姿を見てそう思っていると、
「では契約に移りますね」
ブルクハルトさんが俺の事を見てそう言ってくる。
彼の言葉に俺は何も声を発さずにただ頷くと、ブルクハルトさんが契約を始める。
契約を始める前に、ブルクハルトさんがドフルトに対して動くなという命令を行った故か、契約自体はささっと終わってしまい、少しだけ拍子抜けはしてしまう。
しかしそれでも、ドフルトと契約出来た事は俺の中ではとても大きいと思っている。
俺はそう思っていると、
「ビステル様、ドフルトに命令を言って貰えますか?」
ブルクハルトさんが俺に申し訳無さそうにそう言ってくる。
「分かりました。…命令だ、片膝を地に付けろ」
俺はブルクハルトさんの言葉にそう返すと、ドフルトに対して片膝を付けろと命令を出す。
それを聞いたドフルトは、ゆっくりながらもしっかりと片膝を地面に付ける。
ちゃんと俺との契約が出来た事を確認すると、
「それではこれで終わりになります。ビステル様、これもどうぞ」
ブルクハルトさんも安心した様子で俺にそう言い、手に持っていた袋を差し出してくる。
俺はそれを受け取ると、中身を確認する。
先程見た緑色の錠剤が入っており、錠剤同士がぶつかって出来た粉末が袋の内側を汚している。
「ありがとうございます」
俺はブルクハルトさんにそうお礼を言うと、お礼の気持ちとドフルト本人とパプの料金を支払って契約は完了した。
しかしブルクハルトさんがまだ話があるという事で、俺はドフルトを放置してブルクハルトさんの商館へと入る。
そこには、
「…結構何も無いですね…」
すでに移動がほぼ完了している様で、商館内は従業員として働いていた亜人族の人達も数人しかおらず、置いてあった物なども無くなっている。
俺がそう思っていると、
「そうですね。すでに館内の荷物の移送は終了し、保護をした亜人族の皆様も移動させました。残っているのは、私と数人の従業員だけです」
ブルクハルトさんが俺にそう教えてくれる。
「次はどこでお仕事を?」
俺がそう質問をすると、
「色々と悩んでおります。一応荷物などを送った先も商館ではあるのですが、長らく使っていない所為で老朽化が進んでおりまして…。そこを改築するか、それとも心機一転全く知らない土地で商売を始めるか…。皆と話し合っている状態ではあります」
ブルクハルトさんが苦笑をしながら俺の問いに答える。
そんな彼の困った様な笑みを見た俺は、申し訳ない気持ちになり、
「すみませんでした。俺の勝手な行動が、貴方に迷惑ばかり掛けてしまっている」
彼に頭を下げて謝罪をする。
すると、
「頭を上げて下さい!ビステル様がいなければ、戦火に逃げ遅れる可能性も十分にありました。建物が破壊されるのも惜しい気持ちはありますが、それでも命があればやり直す事が出来ます。今は私の保護している者達と、私に協力して下さった皆様を安全な場所に移動する事が重要なのですから。………そうだビステル様、この際貴族の皆様に支援をして貰い、街でも作ってみませんか?」
俺の謝罪に対しては気にしないでくれとブルクハルトさんは言ってくれ、更にはそんな提案をしてきた…。
と言っても、冗談の様に笑いながら言っている故に俺もそこまで真剣に受け取る事はせずに、
「悪くない話ではありますが、そう遠くない未来に虐げられている亜人族が安心して暮らせる場所が出来ると思いますよ。その為に、ジーグの方達は準備をしているのですから」
そう答えると、ブルクハルトさんは俺の言葉を聞いてあっさりとした様子で、
「そうですよね。その為にビステル様達は今頑張っておられる。私も負けずに、ここでは無いですが皆様に負けない様に頑張りますよ!」
そう言って笑った。
その後、ブルクハルトさんは帝都を出る時は一度挨拶を改めてするという事になり、俺は彼の支援の為に僅かな資金を渡した。
その際に受け取ろうとしなかったブルクハルトさんだったが、新しく商館を営む時は優先して契約をさせてくれと冗談交じりに笑ってそう言うと、彼も笑いつつも真剣な様子で約束をして受け取ってくれた。
その後俺は商館から外に出て、勝手な行動をしない様にドフルトに命令をした後、ブルクハルトさんから頂いたドフルトの服を着る様に命令した。
命令に従って服を着たドフルトを連れて商館を後にした俺だったのだが、やはり威圧感があるドフルトを連れて歩くのは街の者達の注目を集めてしまっており、下手に動く事が出来ないと察する。
仕方が無く、俺はその足で帝都の検問所まで行くと、奴隷を買ったので実力を知る為に出る事を伝えて帝都から少し離れた場所までやって来た。
草原ではあるが、少し地形が凹凸している場所でモンスターもあまりいない。
俺はドフルトを連れて来ると、
「命令、話す事を許可する。俺の質問に答えろ」
ドフルトにそう命令をした後、
「俺に従うつもりは無いか?」
そう質問をする。
命令してきている者がそんな質問をしてきたらおかしいと思うだろうが、ドフルトに笑う許可をしていない故に、
「従う気なんて無い。今すぐにでもテメェを殺したくて体が疼いてるんだ」
ドフルトは笑う事もせずに、俺の問いに対して返答する。
彼のその言葉を聞いた俺は、
「分かった、ではこうしよう。今からお前の体の形の無い拘束を解除してやる。必要なら、武器だって用意しても良い。俺が負けたら、俺の持っているパプを全て渡して解放してやる。ただしお前が負けた時は、命令でお前の意思を破壊しただの操り人形になって貰う」
ドフルトにそう提案をすると、
「良いだろう。そんな細い体で俺と対等に戦えると思ってる馬鹿な頭をカチ割ってやる」
ドフルトが俺の提案を受け入れてそう言った。
その言葉を聞いた俺は内心で笑みを浮かべた後、
「期待している」
そうドフルトに言って準備を始めた。
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