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帝都の街に戻って来た俺は、周囲から畏怖の眼差しを感じつつ歩き続ける。
あとやるべき事は、亜人族の騎士達がいなくなった穴埋めで人族の騎士達を集める事だろう。
さて、どうやって募集したものか…。
…エメリッツに話をしても、今の俺の印象ではあまり良い返答は期待できない。
ならば、俺が騎士達を集めるしかないよな。
しかし俺に、そんなに交流がある人なんかいないし、これからの帝都の行く末を思うと仲が良い、良い関係を築いている人を騎士にはする事が出来ない…。
となると、俺自身がどうでもいいと考えている人達を勧誘するしかないよな。
そうなると、冒険者ギルドの人達が候補に挙がる。
彼らは冒険者として武器の扱いは慣れているし、亜人族を虐げているから俺からしたら生きようが死のうがどうでもいい。
だが、彼らは冒険者としての自由を好んでいる節がある。
騎士になってしまうと、規律などが厳しくなって嫌になる者が絶対に多く出るだろう。
もう1つの候補は、ブルクハルトさんに紹介してもらう方法ではあるのだが…。
彼は今、国自体の命令に従ってしまっている状態ではある。
俺からの注文も、今は無理だと思う。
そんな風に、俺は色々と頭の中で思考しながら街を歩き続けていると、
「最近調子はどうだ?」
「上手くいかねぇな…。何でも、国が奴隷を集めるらしくて囮の奴隷すら買える状態じゃねぇ…。当分は、街の掃除でもして日銭を稼ぐしかないかもな…」
「お前の所もか…。この状況じゃ、仕方が無い事かもしれないけどな…」
冒険者、あまり稼ぎが良い訳では無さそうな人達が項垂れる様な動きでそんな話をしている。
俺はそんな彼らの会話を聞き、彼らは囮である奴隷がいる事を前提にモンスター討伐の依頼を受けている連中かと察する。
俺は彼らの会話を聞き、もしかしたら…とある考えを思考してしまう。
………エメリッツにどんどん嫌がれるだろうな。
俺はある覚悟を決めると、一度騎士団の詰所に戻る為に歩き始めた。
詰所まで戻って来ると、1人の騎士が詰所の前で待ち構えていた…。
エメリッツの文句を言いに来たのだろうか?
俺はそう思いながら詰所の前に立っている騎士の元に行くと、
「何か書類に問題でもあったか?」
そう質問をする。
俺の言葉を聞いた騎士は敬礼をする様に腕を動かして一度静止した後、
「ハッ!エメリッツ様が書類を確認した所、婦館を支援していた貴族は関係無いという結果になり、解放する様にとの事です!私は、その貴族様方の警護を任されています!」
俺にそう言ってくる。
なるほど、書類を見ただけでは信じる事が出来なかったのだろうな。
俺はエメリッツの考えをある程度察すると、
「ふむ、解放する事は別に構わないが…。あの様子を見てもエメリッツ殿が納得出来るのならな」
俺はそう言って詰所の中に入り、檻のある部屋へと行くと、
「一応、貴族の者達はこれだ」
俺は綱で繋がっている人達を外まで連れて来ると、
「な…何が…え…?」
貴族達の様子を見た騎士が、困惑した様子で俺の事を見てくる。
俺はそんな彼に、
「…詰所に連れて来た時点でこうだった。事情を正直に話してくれる故に、書類を書くのは楽だったがな」
そう伝えると、握っている綱を騎士に差し出す。
それを受け取ろうとしない騎士は、
「き、貴族様方を綱で引き回すなんて…。私には…」
俺にそう言ってくる。
彼の言葉を聞いた俺は、
「貴族だとしても、罪を犯しているのならそれらを拘束も無しに街中を歩かせる訳にはいかない。そうでなければ、帝都の騎士達全ての力が街の者達に不信に思ってしまうだろう」
尤もらしい言葉を吐いて、騎士に綱を持つ様に支持する。
俺の言葉を聞いた騎士はそんな言葉を信じたらしく、
「りょ、了解しました!」
俺の差し出している綱を握ると、
「あ、歩くんだ!」
ぶつぶつと自分達が婦館の支援者だという事を呟き続けている者達を引っ張って連れていく。
俺はそんな後姿を少しだけ見送った後、詰所の戸締まりをしてからある場所に向かって歩き出す。
そうして辿り着いた場所は、
「ん?げっ!第一級様じゃねぇか!」
「わざわざ俺等先輩達にご挨拶に来てくれたのかぁ~?」
帝都の冒険者ギルド。
エルヴァンとしてギルドに入ると、何故か異様に絡まれる。
絡まれると言うか、異様にイラッとさせてくる様な発言を投げかけられる。
しかしエルヴァンなら、そんな言葉も無視して堂々としているだろうと考え、俺は周りの冒険者の発言を無視して受付まで行くと、
「ど、どうされたのでしょうかエルヴァン様?」
受付嬢が頬を小刻みに動かしつつ笑顔で声を掛けてくる。
その笑顔が無理矢理作ったモノだとはすぐに分かったが、エルヴァンに対して声を掛けるにはどうしても違和感を感じてしまう。
エルヴァンは受付嬢の様な、周りの冒険者と違い言いがかりを言ってくる訳でも無く、暴言を吐いてくる訳でも無い相手に対して威圧的な態度はしない。
なのにどうして、目の前の彼女はこんなにも脅えているのだろうか?
俺がそう思っていると、
「第一級冒険者……いや、今は帝都騎士団団長エルヴァン殿。私のギルドの受付の者を威圧するのは止めて頂きたいな」
帝都の冒険者ギルドのマスターが、受付の奥から出てきて俺にそう言ってくる。
俺は彼の言葉を聞き、
「私は何もしていない。…しかし丁度良いところに来てくれた。ギルドマスターに少し話をしたい事があって今日はここへ来たのだ」
俺がギルドマスターにそう言うと、ギルドマスターは少し警戒した様子で、
「街で噂してる、違法な事をした者達を半殺しにする事か?」
そんな事を言ってくる。
なるほど、街でそんな噂が流れているから受付嬢も脅えていたのだろう。
俺はそう考えつつ、
「いや、そんなつもりで来た訳では無い。先程街を見回っていた時に、あまり仕事が無さそうな冒険者達の会話を聞いてしまってな。モンスター討伐の依頼が出来ない故に、街の雑務をしようと話し合っていたのだ」
話を切り出すと、ギルドマスターは少し表情を顰めて、
「それは恥ずかしい話を入れてしまった様だ。こちらも少しあんたの力を宣伝して依頼を貰っていた節があるからな。第一級冒険者がいなくなった瞬間、依頼の数は減るし問題も発生してる」
そう言ってくる。
そんな彼に俺は、
「故に、仕事が無い冒険者を騎士見習いとして私の下で働かせるつもりは無いか?こちらも人員が不足している。街の住民達の争い事を止められる程度の力がある者達なら、私は歓迎したいと思っている」
ギルドマスターに話をしている様に言いつつも、俺とギルドマスターの会話を聞いている周りの冒険者に言う様に俺は話を持ち出した。
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