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俺の問いを聞いたノアーベルムは、ちょこちょこと歩いて穴の元まで行くと、
「…ふぅむ、これくらいの土作業、すぐに終わらせる事が出来るわい」
ノアーベルムはそう言って地に手を当てると、
「ほれ」
軽い掛け声を発し、掛け声と同時にやや狭かった穴の入り口からその先の通り道がグニャァッと歪な形になると、一瞬で俺でも普通に通れる幅と高さの通路が出来上がっていた。
そして、
「これはいるかい?」
足元からそんな質問をする声が聞こえて視線を下に移すと、そこには少し小さいが金の塊が視界に映る。
俺はそんなノアーベルムに、
「あ、あぁ。ありがとう」
お礼の言葉を口にして彼から金の塊を受け取ると、
「かあぁ~っ!もう眠くなったわい!」
ノアーベルムが欠伸をして、俺にそう言ってきた。
そんな彼に、
「突然呼び出してしまったからな。すまないノアーベルム。ゆっくりと休んでくれ」
俺はお礼を言って帰還させると、俺は少女の様な女性にお礼を言って、服を変えて来てくださいと織の部屋へと送り、俺と共に事の成り行きを見守っていた女性に、
「準備が出来るまで、もう少し皆さんに待ってくれる様にお願いします。それと、少しこの穴の先へ行ってくるので、少し時間が掛かる可能性がありますが…」
俺がそう伝えると、彼女は頷いて返事をしてくれる。
そんな彼女の様子を見た後、俺は少し急いで少し穴に入って下りつつ奥へと突き進む。
少しして僅かな坂になっており、奥から光が差し込んでいる。
穴の中は暗く、目を凝らさないといけないくらいだった。
俺はそう思いながら奥へと進み光の中へ入るとそこは、
「…森…いや、林か」
俺の背丈くらい伸びている雑草が辺りを埋め尽くしており、穴の周辺が少しだけ雑草が刈り取られている。
背後を見ると帝都の街を護る為に建てられた壁があり、自分がいる場所が帝都の街の外にいる事が分かる。
これだけの身を隠すのに適している林なら、馬車を置いていても馬車の大きさがあまり大きくなけれ気づかれずに他者からは分からないかもしれないな。
俺はそう思いつつ、この林が逆にこれから逃がす女性達を護ってくれると思い、これなら脱出も簡単だろうと考える。
そして穴の中へと戻り、暗い穴の中でここで火を焚くのは危険だろうし、諦めて暗い中を進んでもらうしかないなと考えつつ歓楽街の建物まで戻ってきた。
部屋に辿り着くと、俺は檻のある部屋に行き着替えが終わったのかを確認する。
すると、女性達は久しぶりなのか清潔な服を着れた事に喜んでいる様子だ。
多少でも彼女達のケアが出来たのなら良かった。
俺はそう思いつつ、
「皆さん、今から帝都から脱出します。この奥の部屋の穴を進めば帝都から抜け出せる事が出来ます。抜け出した先は林であり、背の高い草が生えているので安全だとは思いますが、あまり移動はしないで欲しいです!しかし何か危険を感じた場合は、そのまま逃げた方が良いと思います」
女性達にそう声を掛けると、女性達は俺の言葉をしっかりと聞いて頷いてくれる。
そして、少女の様な女性が先頭に立って女性達は移動を開始した。
落ち着いて行動してくれる女性達に、俺はこれなら時間はあまり掛からないだろうと思い、女性達が全員穴に入った事を確認して周囲に何かないかと思いながら少しだけ家探しをした後、女性達の後を追う様に俺も穴に入り建物を後にした。
穴を通り出口に辿り着くと、俺は外に出た瞬間に一瞬驚いてしまうが、それもすぐに落ち着き安堵する。
今まで気丈に振る舞っていた女性達は、林であるこの場で隠れる様に身を寄せ合って涙を流していた。
帝都の外だからと言って、検問所にいる騎士が見回りをしているとは限らない。
そんな警戒しながらも、女性達は解放された喜びと帝都の外に無事に脱出できた安堵、様々な感情が混ざり合って泣いている。
俺はそれを見守りつつ、女性達が落ち着くまで気配を隠してその場に立っていた。
少しして女性達は落ち着いて来ると、彼女達を立って見ていた俺に気がついて少し恥ずかしそうにしながらもお礼の言葉を伝えてくれる。
それだけで、俺は彼女達を助ける事が出来た事に喜び安堵する。
そして俺は、
「貴女達はこれで自由です。違う土地で住んでいた人達はそこへ戻り、帝都に住んでいた人達は新しい環境で過ごす事を薦めます。これは貴女達を捕まえて監禁をしていた男の持っていた金銭です。貴女達が使うべきです。それと装備を渡します、と言ってもあまり上等な物では無いですが…」
女性達の、特によく話をしてくれた女性に俺は金銭が入っていた袋を差し出して、彼女が俺から袋を受け取ると装備をアイテム袋から取り出して地面に置く。
「道中、お気をつけて」
俺がそう言うと、女性達は俺に感謝を伝えながら装備を手に取り身に着けていく。
そして最後に、俺と話をしていた女性が俺の前に来ると、
「ありがとうございました。私達の命の、尊厳を護ってくれた御方のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
女性は俺にそう聞いてきた。
俺は彼女の言葉を聞き、
「ヴァルダ・ビステルと言います。貴女は?」
簡潔に自分の名前を告げると、女性にも名前を聞いてみる。
俺の名前を聞いた女性は、
「アスタと言います。この御恩、一生忘れません」
自身の名前を伝えると、俺に感謝の言葉を伝えてくる。
俺は彼女の言葉に、
「…その気持ちは今ここで受け取っておきます。ですから、その気持ちが残っていたら困っている亜人族の人達がいたら助けてあげて欲しい。貴女が無理をしない範囲で」
俺がそう伝えると、アスタさんは俺の眼を真っ直ぐに見つめてはいッと力強く返事をした。
そしてアスタさん達は、身を潜めながら辺りを警戒しつつ帝都を出発した。
俺はそれを最後まで見送り、彼女達の姿が見えなくなるまで見送った後、穴を通り帝都の歓楽街の奥にある建物に戻った。
建物に戻った俺は、この建物は亜人族を秘密裏に帝都から脱出させるのに最適だと判断すると、どうすればこの建物を騎士団の俺…名義上はエルヴァンの物に出来るだろうかと考える。
それと同時に、建物を出た俺は帝都でやり残した事を考えながら帝都の街へ、エルヴァンに似せた格好で歩き出した。
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