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檻が置かれている部屋の中を見たレオノーラはすぐに扉を閉めると、
「…やり過ぎている。…ヴァルダ、あれはいくらなんでも…」
レオノーラが俺にそう言ってくる。
彼女のその言葉に、
「分かっています。明らかに彼らを壊し過ぎた事を。しかし、俺はそれを反省するつもりはありません。誰かに頼まれた訳では無いですが、彼らをあそこまで壊すのは自分の役目の様に感じました。後悔はしていません。そして、彼の家族や仲間に同じ事をされる覚悟をしています。彼らの身内の恨みを買った事を、俺は受け入れます。彼らと同じ行動をしている自分を、少しでも良く見せようとしている。しかし、この言葉に偽りはありません」
俺はそう静かに答えると、レオノーラに書類の作成をお願いした。
俺の言葉を聞いたレオノーラは、少しして近くにあった机の引き出しを開けて中から紙束を取り出すと、そこに文字を書いていく。
レオノーラが仕事をしてくれているのを、俺は黙って待ち続ける。
そうして紙の束に何かを書いていたレオノーラがそれを終えると、
「ヴァルダ、ここにハンコを押してくれ」
レオノーラが紙の右下辺りを指差してそう言ってくる。
俺は彼女の言葉に従って、かつてレオノーラが座っていたであろう騎士団団長の席に紙を受け取って持って行くと、席に座る事はせずにハンコだけを黙々と押していく。
そうして全ての書類にハンコを押し終えると、
「…君にだけ罪を押し付けたりはしない。おそらくあそこまで酷くはしないが、私も彼らの処分をエメリッツに命令されたら、納得する事は出来ずに何かしらの抗議、もしくは武器を手にしていただろうからな」
レオノーラが俺にそう言ってくる。
彼女のその言葉に、
「…ありがとうございます」
俺は素直に彼女の言葉を受け入れた。
そして書類が全て完成すると、
「これを、城の騎士に渡せば大丈夫だ。エメリッツに持って行ってくれる」
レオノーラが俺にそう教えてくれる。
彼女の言葉に、
「分かりました。手伝って貰ってありがとうございました」
俺はそうお礼の言葉を伝えて、レオノーラには塔に戻って貰った。
書類を持ち、クラスチェンジで騎士になると詰所を後にしてもう一度城へ向かい始める。
城まで辿り着くと、敬語をしている人族の騎士の1人に書類を手渡してエメリッツに届ける様にお願いをしすると、
「了解しました!」
騎士は俺にそう言うと走って城の方に走って行った。
俺はそれを確認した後、城の前を後にして歓楽街へと戻り始める。
しかしその前に、服屋であの人達の服を調達しないといけない事を思い出し、俺は歓楽街に向けていた足を切り替えてまずは服屋に向かった。
その後服屋で店の者に多くの服を見繕って貰い、財布的にギリギリになりつつも歓楽街に向かい始める。
途中でエルヴァンに似せた格好をしているのもクラスチェンジで変更をし、姿自体は消さなくても良いかと思い、俺はフードを被って素顔が見えない様にしただけで歓楽街へと向かった。
歓楽街は最近しか来た事が無かったが、ここはいつもこんなに怪しい雰囲気が漂っているのだろうか?
行き交う人達も怪しいし、働いているであろう人達も只者には思えない。
俺はそう思いつつ、今は奥の建物を目指して歩き続けた。
そして建物に近づいて来ると、辺りは静かになっており人の気配もあまり感じられない。
…しかし、待ってよ?
あの人達は帝都を抜ける事が出来るのだろうか?
身分を証明する様な物は、あの建物には物自体が少なくそれらしい物は無かった様に感じる。
帝都を抜けるのにも、たまに身分を証明しなければいけない時がある。
おそらく、レオノーラに聞いてみれば分かるかもしれないが、何らかの犯罪者などを帝都から逃がさない様にしたりしているのだろう。
そう考えると、彼女達は被害者ではあるが同時にここでは信用が無い亜人族である。
事情を説明しただけで、信じて貰えるとは思えない。
つまり、検問所を通らないで彼女達をここから脱出させないといけないのだ。
俺はそう思っている内に建物に辿り着いてしまい、俺はまだ考えが纏まっていない状態で建物の扉を開こうとすると、扉が固く閉ざされている。
そうか、予想以上に俺が遅くなってしまったから、彼女達で時間を稼ぐために扉を閉めたのかもしれないな。
俺はそう思い、
「…ごめんなさい、遅くなってしまいました。服を持って来たので開けて下さい」
扉に大き過ぎない声で声を掛けると、少しして扉が僅かに動いて何かが少しぶつかったり、擦れる様な音がすると扉が開かれる。
俺は失礼すると一言伝えてから中へと入りフードを取ると、
「衣服を用意しました。趣味に合わない物が多いとは思いますが、今は我慢してください」
アイテム袋から服屋で買った衣類を取り出しながら女性達に伝える。
彼女達はまだ少し元気が無さそうではあるが、それでも僅かに回復は出来たのか最初に見た時に比べれば表情を明るくなっており、感情が表情に出ている様に感じる。
俺は衣類を女性達に渡すと、服を選んでいる女性達にその場を任せて建物の探索を開始する。
簡易的な、多少の事務作業をするだけの小さな机の1つだけある引き出しを開けるが、そこには何もなく続いて床に穴が開いている部屋に行く。
しかしそこには、本当に物は置かれてなく女性達の身分を証明する物や手持ちの物が破棄されたのだと察する。
俺がそう思っていると、
「あ、あの…」
「ん?」
突然後ろから呼び出されて振り返ると、俺が買ってきた服を来た1人の女性が少し不安そうな表情で俺の事を見てくる。
俺はそんな女性に対して、
「どうかしましたか?」
彼女を威圧しない様に心掛けながら、彼女にそう問う。
俺の言葉を聞いた女性は、
「え、えっと…服、ありがとうございます」
俺にそうお礼を言ってくる。
彼女のお礼の言葉を聞いた俺は、
「いえ、それは全然構いませんが…。それより、少し聞きたい事があるのですが、構いませんか?」
服に関する事は当然の事だという意味で気にする事は無いと伝え、反対に女性に聞きたい事があると伝える。
俺の言葉に、女性は首を傾げた。
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