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シェーファと共に塔に戻り、ゆっくりと階段を上っていく。

俺の左腕をしっかりと抱き、身を俺に寄せる様にして歩いているシェーファ。

彼女のそんな様子に、俺はこんな事でお礼になるのだろうかと心配しつつ階段の上り続ける。

そうして先にシェーファの部屋の前まで彼女と共に来たのだが、シェーファは気がついていないのか俺の左腕から自身の絡めた腕を放そうとしない。

そんなシェーファに、


「シェーファ、部屋まで来たぞ?」


俺がそう声を掛けると、


「お傍にいさせてくださいヴァルダ様。それに、まだ私の匂いがヴァルダ様のお体に付いていませんから」


シェーファが少しムッとした表情で俺にそう言ってくる…。

もしかして、このまま俺の部屋に行くという事か?

俺はそう思いつつ、


「シ、シェーファ?既に夜も明ける時間になりつつあるのだ、シェーファの体の事を考えると、あまり良くないのではないだろうか?」


色々な感情が混ざって冷静な判断が出来ず、言葉遣いが少し変になってしまっている。

しかしそんな俺の内心も言葉遣いも気にしていない様子のシェーファが、


「では、ヴァルダ様のベッドで一緒に就寝するのが良いと思います。お傍にいられ、セシリアだけじゃなく、私の匂いもヴァルダ様にお付けするには丁度良い方法かと思います」


俺にそう言ってくる…。

いや、もしかしたら俺の内心や冷静では無い今の俺に気がついているが、それをあえて無視している可能性も十分にあり得る。

何故なら、俺の事を尊敬してくれているシェーファを俺は信頼している。

そんな彼女が、俺の今の変な様子を見逃すとは思えない…。

しかしそれをここで指摘したとしても、おそらくシェーファはこの状態を解く事は無いだろう。

俺はそう考えると、


「そ、そうだな。仮眠程度しか寝れないかもしれないが、全く寝ないのも体に良くないだろう」


俺はシェーファにそう伝えて、シェーファの部屋の前から自室へと移動する。

移動すると言っても、シェーファお俺の部屋はあまり離れている訳でも無いので、時間は掛からずに部屋へと辿り着いた俺とシェーファは、2人共身に着けている衣服や装備を外してラフな格好になると、一緒のベッドに入る。

その際に、一応最後の抵抗として少しだけ距離を離してシェーファの隣に横になったのだが…。


「そんなに遠くては、ゆっくりと休めませんよ」


そんな僅かな抵抗をした俺の意思をあっさりと打ち破り、シェーファはそう言って俺の体に彼女の体を押し付ける様にくっ付いてくる。

…むしろこちらの方が、俺的には休んだ気がしないのだがな…。

俺はそう思いつつも、


「そうか、ではこの状態で寝るとしよう」


シェーファにそう伝えて目を閉じる。


「はい、おやすみなさいませヴァルダ様」


瞳を閉じている故に、シェーファがどのような表情をしているかは分からないが、彼女の声は慈愛に満ちた優しい声だった。

…少ししてから、シェーファの静かな寝息が微かに聞こえてきて、それと同時に何故か俺の体を抱きしめる様に、そして密着させる様にシェーファがくっ付いてくるのが分かる。

視界を今は塞いでいる状態だと、他の感覚が周りの情報を読み取ろうと過敏になるのが分かる。

体に微かに預けられている体の重みと、その柔らかさ。

一定の間隔で聞こえる、艶やかな寝息。

ベッドの匂いとは別の、優しくも甘い香り。

………これ、寝れないわ。

俺はそう覚悟しつつ、とりあえず目は閉じたまま時間が過ぎるのを待った。

やがて窓から見える空が明るみ、綺麗な青空になる頃。

俺はそっと体を起こし、シェーファの拘束から何とか逃れて俺はシェーファに布団を起こさない様に注意しながら掛ける。

寝ているシェーファの事を見て、幸せそうに寝ている彼女の顔を見て頬が緩み、俺は寝ているシェーファの頬に手を添えると、


「行ってくる」


そう一言だけ、ギリギリ聞こえるかどうかぐらいの大きさでそう伝えてから、俺は自室を後にした。

部屋を出た俺は、一度汗を洗い流したいと思い浴場へと移動する。

湯船に入る事はせずに、シャワーをサッと浴びてすぐに準備に取り掛かる。

装備はまずは召喚士(サモナー)の装備で外の世界へと戻り、移動をしてエルヴァンが借りている宿屋の部屋に侵入した後に、クラスを変更して装備をエルヴァンと似ている装備にする。

その後街へ出て騎士団の詰所に移動すれば、大丈夫だろうか?

俺はそう考えながら装備を着け、


「…行くか」


そう呟く。

その瞬間、


「おはようございます、ヴァルダ様」


脱衣所にエルヴァンが入ってきて、俺に挨拶をしてくる。


「あぁ、おはようエルヴァン。朝早くから精が出るな」


俺がそう言うと、エルヴァンは何やら何枚もの布を手に持っているのが見える。


「それは、何かに使うのか?」


俺がエルヴァンが持っている布を見ながらそう聞いてみると、


「はい。ルミルフルが汗を拭う時に使う物と、即席で体の冷やす濡れた物を用意しているのです」


エルヴァンがそう答えてくれる。

エルヴァンの言葉を聞いた俺は、


「ルミルフルは既に鍛練をしているのか?」


そう質問をすると、エルヴァンは少し体ごと動かして頷くと、


「はい、朝早くなら子供達もまだ寝ているという事で、私と一緒に鍛練をしています。レベルも僅かに上がった様で、体の動かし方がより良くなっています」


俺にそう報告をしてくる。

エルヴァンの言葉を聞いた俺は、アイテム袋から回復薬などを取り出すと、


「2人共回復系の魔法やスキルを習得していないし、持っておいて損は無いと思う。エルヴァンは大丈夫かもしれないが、ルミルフルは怪我をする可能性があるだろう」


エルヴァンにそう言いながら回復薬などのアイテムを渡す。

それを受け取ったエルヴァンは、


「ありがとうございます。…ヴァルダ様は、これから外へ?」


回復薬などを受け取ると俺に質問をしてくる。

その問いに、


「あぁ、エルヴァンのお陰でスラム街の亜人族の保護は完了した。しかしまだやるべき事は沢山残っていてな、それが終わるまでは忙しいんだ」


俺がそう答えると、エルヴァンはまた体ごと頭を少しだけ下げて、


「ヴァルダ様の事は尊敬し、敬愛しております。しかし、不敬を承知で申し上げます。もう少しお体をご自愛ください」


俺にそう言ってくる。

その言葉に俺は、


「不敬だなんて、そんな事は感じない。エルヴァンは俺の事を心配して言ってくれているのはしっかりと伝わった。そうだな、今回の事が一段落着いたら、少しだけゆっくりとするか」


エルヴァンが俺の事を心配して言ってくれている事に感謝しつつそう答え、


「では、ゆっくりと休む為にも頑張って来るか。エルヴァンも、ルミルフルも無理をする必要は無い。ゆっくりと確実に力を付けてくれ」


そう言って黒い靄を出現させると、


「ありがとうございます。ルミルフルにも伝えておきます。いってらっしゃいませ」


エルヴァンがそう見送りの言葉を言ってくれる。

俺は彼の言葉に行ってくると返答して、黒い靄の中へと入った。


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