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女性?を抱き上げてレオノーラさん達が集まっているスラム街の広場へと戻って来ると、
「…ヴァルダ!どこへ行っていたのだ?」
辺りをキョロキョロと見回していたレオノーラさんが、俺に気がついてそう声を掛けながら歩み寄って来る。
そんな彼女に俺は、
「突然姿を消したのはすみません。気配察知のスキルに、スラム街の人達が集まっているのにも関わらず近くにおり、身動きをしない人がいたので警戒をして見に行ったら、この人が倒れていて…」
謝罪をしつつ、自分が広場から離れていた理由を説明する。
俺の説明を聞いたレオノーラさんが、俺が抱き上げている女性?の事を見ると、
「私も知らない者だな。スラム街の者では無い。服とも言えない格好に、長く切られてもいない髪。おそらく、どこかの奴隷商か婦館、主の元から逃げて来たのかもしれない」
女性?の外見を見てそう言ってくる。
それを聞いた俺は、
「どうすればいいでしょうか?流石にこのまま放置する訳にもいかないと思ったんですが…」
レオノーラさんにそう聞いてみると、
「………とりあえず、先にスラムの皆の移動をしてからだろう。他のスラムの者達が君の元に行った事を伝えたら、意外にも早く了承してくれた。騎士達も準備は出来ている様だ」
彼女が俺にそう言ってくれる。
俺がこの人を介抱している間に、あっという間に話が進んでいたらしい。
レオノーラさんの言葉を聞いた俺は、近くにいた女性騎士2人に声を掛けて彼女?を預かってもらうと、俺は本の中の世界を開いて仮契約の準備を始めた。
それからは早いもので、仮契約をスラム街の人達と騎士達に仮契約を行っていく。
仮契約が終わると、俺は女性?を放置する訳にはいかないので急遽留守番をする事になり、俺は最後まで塔の紹介を出来ないままスラム街の亜人族の人達を保護する事に成功した。
しかし、それではまだ完璧に終わったとは言えない。
スラム街の人達の他にも、帝都で苦しんでいる人達は山ほどいるだろう。
それにまだ、騎士団に所属している亜人族の人達もまだいる。
まだまだやる事はたくさんある。
俺はそう思っていると、
「ん…」
女性?を預けた際に、女性騎士の2人が地面に布を敷かれてくれており、そこに横たわっていた女性?から僅かな息が漏れる音が聞こえた。
それを聞いた俺は、
「大丈夫ですか?」
意識を取り戻した女性?に声を掛ける。
俺の声に対して、女性?が僅かに体を動かすと、
「…誰…ですか?」
そう聞いてきた…。
その声を聞いて、俺は目の前の人物が女性だと確信する。
俺はそう思いつつ、
「…ヴァルダ・ビステルと言います。体は大丈夫ですか?」
俺が再度体調は大丈夫かと聞くと、女性はゆっくりと体を起こそうと動き始める。
俺はそんな彼女の体を支える様に触れて背中に手を回すと、
「こ…こは?」
女性は俺にそう聞いてくる。
彼女の言葉を聞いた俺は、
「ここは帝都のスラム街の広場ですが…。少し離れた所で貴女が倒れていたんですよ。何かあったんですか?」
彼女の問いにそう答える。
すると、
「て…いと…?すら…む?」
女性は俺の伝えた言葉を、まるで初めて聞いたかの様に言い難そうにそう繰り返した。
帝都と知らない人など、おそらくこの世界に生きている人達なら知らないと言う事は無い。
…まさか彼女は、俺と同じなのか?
俺は一瞬そう考えたが、もう1つの可能性を思いつく。
むしろ、俺と同じ事の方が珍しいし、出会える可能性だって低いのだ。
俺は自分と同じなのかという淡い期待を一度捨て、
「自分の名前は、分かりますか?」
それから女性にそう質問をする。
俺の問いを聞いた女性は、少し首を傾げる様に僅かに動いた後、
「なま…え…。私の名前…」
そう囁いた。
その言葉を聞いて、俺は彼女が記憶を何らかの理由で失ってしまっている事に気がついた。
「とりあえず、少ないかもしれませんけどこれを」
自分の名前を思い出そうとしているのか、首を何度もゆっくりと振るって視界から様々な情報を読み取っている彼女に、俺がアイテム袋から冒険者として行動している時に食べている保存食を差し出す。
目の前に差し出された保存食を見た女性は、
「…うぁ」
そう言って俺から保存食を受け取ると、包みに包まった保存食をその状態のまま食べようと口を広げた!?
「ち、ちょっと待ってください!」
俺はそんな彼女を慌てて止めると、彼女が持っていた保存食の包みを剥がしてどうぞと伝えると、
「…ぁ………カリカリ…」
女性は口を開けて保存食を食べ始める。
硬い故に彼女の口からは、保存食を噛み砕いている音が軽い感じで出てくる。
おそらく、細かく噛んでいるのだろう。
俺はそう思いつつ、
「貴女が、何か覚えている事はありますか?」
女性にそう質問をしてみる。
彼女の様子から見て、あまり過去の事を思い出させる様な事はして欲しくは無いが、それでも少しでも情報が欲しい。
俺がそう思っていると、
「………ぅぅ」
女性はうめき声を出して、苦しそうに頭を抑え始めてしまった。
そんな彼女の様子を見た俺は、
「む、無理をしないでください!大丈夫です!もう思い出そうとか考えなくても大丈夫ですから!」
俺は慌てて彼女にそう伝えると、少し苦しそうにしていた女性が少しだけ落ち着いてくる。
しかし、これは困った状態だな。
レオノーラさんが来てから相談でもしてみるか?
俺はそう考えながら女性を見ていると、俺の視線に気がついたのか恐る恐る俺の事を見る為にゆっくりと俺に視線を向けて来る。
そんな女性に、
「気にしないで下さい。ゆっくりと食べてください」
俺はジッと見過ぎていたかと反省し、少し離れた所に出現している黒い靄からレオノーラさんが帰って来ないだろうかと少し期待しながら靄の方に視線を固定する。
辺りからは僅かに風で揺れて擦れる草同士の音と、女性が保存食を食べているカリカリ音。
この人をブルクハルトさんの所へと連れて行くのは簡単だが、それでは今必死に俺の我儘に付き合ってくれている彼に申し訳ない。
やはり、今頼れるのはレオノーラさんだろう。
俺はそう思い、黒い靄からレオノーラさんが一秒でも早く出て来てくれると思って彼女を待ち続けた。
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