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広場を後にした俺とレオノーラさんは、またも路地裏を歩いてスラム街を移動していく。

ふと路地裏から見える表通りに続く道を見るとそこには、飲み過ぎたのか体調が悪いのか倒れている人が見える。

しかし意識はある様で、唸り声を出して何かに怒りを抱いているのか文句の様な、敵意がある言葉を呟いている。

改めて見ると先程の男といい、ああいう者達がイライラを発散させる為にスラム街までやって来て亜人族を虐げているのだろう。

俺がそう思っていると、


「…どうしたのだ?」


レオノーラさんが俺にそう聞いてくる。

俺は彼女の質問に、


「いえ、少し考え事をしていただけです」


そう答えると、歩みを止めずに先導している騎士の後を追いかける。

そうして3番目の亜人族が集まる場所までやって来ると、暗くてハッキリと断言できる訳では無いが、見覚えがある建物が見えた。

孤児院の様な、建物と庭の様な敷地。

前にスラム街に来た時に、ここへ来た事があるな。

レオノーラさんを探しに来た時だったはずだが、同じ建物が他にあるのなら自身は持てないが…。

俺がそう思っていると、


「…ヴァルダ、少し良いか?」


レオノーラさんが俺に少し小さな声でそう言葉を掛けてくる。

彼女の言葉を聞いた俺も、


「…どうしましたか?」


彼女と同じ様に小さな声で聞き返すと、レオノーラさんが建物を指差して、


「ここにいる子供達は、人族に対して恐怖感をより強く感じている子供達なのだ。だから、申し訳ないが今回はあまり君に話をして貰う機会がないと思う」


そう言ってくる。

彼女のその言葉を聞き、俺は大丈夫だと伝え、


「彼らが皆、安全である塔に来てくれるのならあまり気にしないですよ」


申し訳無さそうにしているレオノーラさんに続けてそう伝えると、


「すまない、感謝する」


短くお礼の言葉を言われた。

そして、レオノーラさんは集まっている子供達とその保護者として孤児院の職員らしき亜人族の人達の元まで行くと、彼女は足を曲げて子供達の視線まで腰を落としてから、ゆっくりと子供にも話が分かる様に説明を始めた。

不安そうに表情を歪める子供達を、あやす様に優しい声色で説明を続けていくレオノーラさん。

その言葉に、疑問を感じた亜人族の人達が質問をするとレオノーラさんは分かる範囲で答えていく。

分からない質問が来ると、レオノーラさんが俺に視線を送って来る故に、俺は近くで待機している騎士に声を掛けて質問に対する答えを伝言して貰った。

そうして間接的に俺も出来る限り説明に参加させてもらった結果、大人の亜人族の人達には信用して貰えたが、子供達にはあまり信用して貰えなかった。

こればっかりは、簡単にはいかないとは思っていたがな。

俺はそう思いながら苦笑していると、ふと女の子が俺の事を見てくる。

獣耳が頭から生えており、着ている服から垂れている尻尾が見える。

その尻尾が、今の女の子の感情を表しているかのように萎れているのが見える。

すると一瞬体が揺らいだ瞬間、女の子は体から力が抜けてしまった様に地面に倒れそうになる!

そんな姿を見た瞬間、地面を蹴って女の子が地面に衝突する前に抱き抱えようと手を伸ばしたのだが…。


「ッ!?どうしたッ!?」


俺が女の子を助ける前に、俺と同じタイミングで女の子の異変に気がついたレオノーラさんが彼女の体を支えた。

距離的に、流石に彼女の方が速く女の子の体を支える事が出来たのだ。

辺りの騎士や大人の亜人族の人達も突然の事に驚いてどよめく。

そんな彼らの元に俺も駆け寄ると、レオノーラさんに支えられている女の子の様子を見て、


「すみませんレオノーラさん、この子の服の下を見てあげて下さい。何か問題があれば、こちらで対象法を考えてみますのでッ!」


俺はレオノーラさんにしか出来ない事をお願いする。

俺の言葉を聞いたレオノーラさんは、近くにいた女性騎士と孤児院の人達を呼んで、女の子の服の下を見る為に他の者が見えない様に人垣を作る様にお願いする。

彼女のお願いを聞いた人達がすぐにレオノーラさんの元まで駆け寄ると、周りの騎士や子供達には見えない様に体を寄せ合って密着する。

それを確認しながら、俺はアイテム袋から普通の回復薬、状態異常を治す回復薬などを取り出してレオノーラさんの言葉を待つ。

医者ではないが、それでも緊急措置として出来る事はしようと準備していると、


「あるぞ!脚に切り傷がある!」


女性達の壁の奥から、そんな声が聞こえてくる。

彼女の言葉を聞いた俺は、


「これを使ってみてください!」


レオノーラさん言葉を聞いて集まっている女性達の1人に状態異常を治す回復薬を手渡すと、それを受け取った女性が奥の人に渡していく。

切り傷から、何かしらの細菌が入った事で体調を崩した可能性がある。

体を綺麗にする風呂も、貴族しか使えない程高級な物でもある。

水洗いをして応急処置をしたかもしれないが、このスラムの環境では意味が無かったのかもしれない。

俺がそう思っていると、


「ヴァルダ、体調は回復した可能性がある!呼吸も落ち着いているし、震えなどの様子も見られない!」


レオノーラさんがそう報告をしてくれる。

その報告を聞いた俺は、


「分かりました。では次にこれをお願いします」


今度は普通の回復薬を女性達の1人に手渡すと、また奥へと手渡していく。

そうして少しだけ待っていると、人垣を作っていた女性達が徐々に離れていき、奥からレオノーラさんと彼女に抱かれた女の子が出てくる。


「大丈夫ですか?」


俺は2人に、特にレオノーラさんに対して確認の声を掛けると、


「あぁ、君のくれたポーションのお陰で大丈夫だと思う」


レオノーラさんがそう言って、安心した表情で抱いている女の子を見る。

俺はレオノーラさんの言葉に安堵し、


「それなら良かった。これでどうにか出来なかったら、何をするべきなのかと考えて混乱していたでしょうからね」


俺がレオノーラさんにそう言うと、


「…あ」


レオノーラさんに抱かれている女の子が、俺の事を見て口を開く。

怖いのだろう、俺の事を見る瞳がうるうるゆらゆらと潤い揺らいでいるのが見える。

だが、


「…あ、…ありがとう」


女の子は怖いであろう俺に対して、お礼の言葉を口にした…。

…良い子だ、絶対にこの子達は幸せにしてみせる。

俺はそう心に誓い、女の子が怯えない様に後退した。


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