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扉を開けて家の建物の中に入ると、建物の隅に皆で寄り添い合っている姿が見える。
「大丈夫だ。私は君達に酷い事はしない」
レオノーラさんがそう言って婦館にいた人達に近寄ると、彼らは怯えた様子で体に力が入っているのが見える。
俺は彼らに姿を見られるのは初めてだから、無闇に近づかない方が良いだろう。
俺はそう思い、扉をあまり音を立てないようにゆっくりと閉めてから、彼らから距離を取るように反対側まで移動する。
しかしレオノーラさんにも怯えているとなると、彼らの説得は難しいかもしれない。
その場合、彼らはどうすれば良いのだろうか?
俺がそう考えていると、
「私の事は分かるだろうか?」
レオノーラさんが身を寄り添え合っている者達に優しく声を掛ける。
あまり近寄る事は無く、視線を合わせやすい様にしゃがんでいる。
そんな彼女の問いに、
「…き、騎士団の偉い人だと…前に客が言っていた」
1人の男性が彼女の問いにそう答えた。
そしてその言葉に続いて、
「お、俺達を捕まえるなら、もう殺してくれ。もう、嫌だ」
男性がそう言うと、女性達が声は出さずに涙を探し始める。
この状態だけで、彼らがどれだけ酷い扱いを受けてきたのか、おそらく俺の想像を遥かに超えた事をされてきたのだろうと察する事は出来る。
俺がそう思っていると、
「君達は被害者だ。違法な店で働いたとしても、それは君達が罪を犯した訳では無い。…すまない、私の力不足で、君達やあの婦館で命を亡くした者達を救う事が出来なかった。君達の傷つけたのも、亡くなった者達を殺したのも私の責任だ」
レオノーラさんが頭を下げて、そう謝罪の言葉を彼らに伝える。
深々と下げられた頭が数秒程動かず、少ししてからレオノーラさんは頭を上げると、
「そんな手遅れである私ではあるが、君達を救う手助けをさせて欲しい」
お願いをする様に、レオノーラさんは彼らに言葉を放つ。
レオノーラさんにそう言われた彼らは、怯えている様子と困惑している様子が見て取れ、どうしたら良いのか悩んでいる様に見える。
そして、目の前にいるレオノーラさんの脇を通り越してその奥に立っている俺に視線を向けて来ると、
「…その人は…」
1人の女性がそう質問をした。
その声色から、俺に対して恐怖を抱いているのが分かると、
「レオノーラさん、お願いできますか?」
俺はレオノーラさんに俺の紹介を任せる事にする。
人族であると同時に、男性である俺の事が怖いのだろうと考えた結果、レオノーラさんに説明して貰った方が良いと考えたのだ。
そして俺の考えを察したのか、
「彼は、私と手を組んで君達を助けてくれるヴァルダという者だ。人族であるが、亜人族に手を出したりする男では無いから、今は無理かもしれないが信用してあげて欲しい。君達をあの婦館から助け出せたのも、彼のお陰である」
レオノーラさんが俺の説明をしてくれる。
レオノーラさんの説明を聞いた彼らが俺に視線を向けて来るのが分かると、俺はレオノーラさんと同じ様に深々と頭を下げて、声は出さずに静かな挨拶をする。
その際に彼らの事を観察すると、身に着けている物が薄着である様子が見えた。
それが分かった俺は、
「レオノーラさん、皆さんにこれを」
そう言ってアイテム袋から装備や布を取り出すと、俺はレオノーラさんに向けて差し出す。
俺に声を掛けられたレオノーラさんは頷いて返事をすると、ゆっくりと俺の元まで歩いて来て、俺から装備や布を受け取って先程までいた場所まで戻る。
「そんな薄着では寒いのではないか?もう陽も落ちている」
婦館にいた皆に優しく声を掛けて、俺が渡した物をゆっくりと彼らに差し出すレオノーラさん。
少しの間様子を見ていた彼らだったが、風通しの所為と屋根が無い所為で寒いのだろう。
両腕だけはある男性がそれを受け取り、皆に配っていく。
しかし上手く着れない人も中にはおり、それを周りの皆が助けてあげている様子が見える。
そんな光景を、レオノーラさんが心配そうに少しだけソワソワしていながら見ている光景を目にし、彼女も根っからの世話好きなのかもしれないと考える。
勿論罪悪感からもあるのかもしれないが、それでも彼女は彼らの力になりたいと思っているのも事実だろう。
俺がそう思っていると、ふと気配察知スキルに反応がある。
「静かに」
俺がそう声を掛けると、一瞬で室内の空気に緊張が走る。
反応はゆっくりと俺達のいる場所に近づいて来ているが、俺達のいる場所が目的地では無いのか彷徨っている様子だ。
そしてようやく建物の近くまでやって来ると、
「何だってんだよクソッ!」
何やらイラついている男性が、ちょくちょく音を立てながら建物の側を過ぎ去って行く。
イラついて、辺りの建物の壁などを殴っていたのだろう。
俺はそう思いつつ、安心できる範囲まで気配察知スキルで探知していたが、遠くまで行った事を確認して、
「もう大丈夫です」
そう伝えると、少しだけ室内の空気が緩む。
しかし、レオノーラさん達の方を見ると、
「………」
「ッ………ッ……」
何人かが、恐怖から逃げる様に瞼を力強く閉じており、身を小さくしているのが見えた。
それまでに、恐怖を抱いているのだ。
俺がそう思っていると、仲間同士で手がある人が体を擦ってあげたり、安心させる様に自身の体を寄せている。
すると、
「私も、身を寄せても構わないか?」
レオノーラさんがそう皆に質問をする。
その声は優しく、ゆったりと耳から入り心に染渡る様な慈愛に満ちた声であった。
そんな声を聞いたからか、それともレオノーラさんの事を信用したからなのか、1人の女性が頷くと、
「ありがとう」
先程と同じ、優しい声でお礼を言ってゆっくりと、しかし恐怖感を抱かせない様な絶妙な速さで彼らの元へ行き腰を下ろすと、着けていたマントを脱ぐ。
そして、背中から紅蓮の翼を生えさせて大きく広げると、彼らを包み込む様に翼を動かす。
「私は炎を操る龍人だ。体温が少し高いはずだ」
レオノーラさんはそう言って俺の方に視線を向けて来ると、何も言ってはいないが少し席を外してくれと言われた気持ちになり、俺は頷いて建物の扉を開いて外へと出る。
少しして、壁があると言っても辺りは誰もいない故に、壁の向こうから声を押し殺してすすり泣く声が聞こえてきた。
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