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レオノーラさんの説明は、今の帝都で起こしている俺の動きと、それに対する解説策。
レオノーラさん自身のこれからの動きと、俺に対する信頼の説明をしてくれた。
そして最後に、
「どうか、私と彼にお前達の安全を護らせて欲しい」
レオノーラさんはそう締め括り、俺の方に顔を向けてくる。
俺はそれが彼女からの合図だと察し、彼女の横に立つと亜人族の皆に頭を深々と下げる。
その瞬間に、僅かにどよめきが発生する。
スラム街の人達から、人族が自分達に頭を下げたぞとか聞こえてくる。
俺はしっかりと頭を下げて、亜人族の皆に敬意がある事を証明してから頭を上げる。
そして、
「色々と頭の整理が追い付かなくなっているとは思いますが、今は時間があまりあるとは言えません。俺の事を信用して欲しい気持ちはありますが、皆さんが人族にされた事を考えるとそんな事を言える立場ではないと俺は思っています。ですので、今信用するのはレオノーラさんの言葉だけで構いません。俺はこれから、貴方達に信頼して貰える様に努力していくつもりです」
俺がそう言うと、亜人族が少し困った様な表情でレオノーラさんの事を見る。
彼らの視線にレオノーラさんは、
「彼は私を信用しろと言った。私は、私と彼の事も信用してくれと伝えた。つまり、今皆が信用するべきは私達という事になる」
そう言って俺の事を見る。
彼女の視線に、俺は首から下げている本の中の世界を大きくして広げ、契約のページの端を切っていく。
すると、
「団長、皆の荷物の準備できました!」
1人の騎士がレオノーラさんの元まで走ってくると、彼女にそう報告をする。
その報告を聞いた俺は、
「それも俺の方で回収して、これから行く安全な場所で返すので自分の物は忘れない様にしておいてください」
少し集まっている皆に聞こえるようにそう伝えると、レオノーラさんが他の場所に集まっているスラムの人達にも伝える様に指示を出した。
レオノーラさんに指示を出された騎士は走り出して、他の場所に集まっている者達の元へと向かったのだろう。
そして、
「では、皆さんは心の準備が出来たら俺の元に来てください」
俺は仮契約の準備が出来てそう言うと、俺の近くにいたレオノーラさんが、
「ここが終わったら、次の場所に移動する。だが、少し時間が掛かる。それまで皆を頼んでも良いか?」
近くにいた騎士にそう伝えて、その言葉を言われた騎士が返事をしている。
次の集合場所に行く前に何かあるのだろうか?
俺はそう思って、婦館にいた人達の事を思い出す。
レオノーラさんがスラム街の安全な場所へ移動させたと言っていたが、そこへ行くのかもしれないな。
俺がそう思っていると、1人の少年が俺の前に来る。
そして、
「レオノーラ様は、いつも僕達の事を考えてくれてた。レオノーラ様が信じるなら、僕も信じる!」
俺にそう言ってきた。
そんな少年の言葉を聞いた俺は、
「君の勇気、受け取った」
そう答えて、手を差し出す様に伝える。
俺の言葉に素直に従って、少年が右手を俺に出してくる。
彼の手に本の中の世界のページの切れ端を押し付けると、彼の手に刻印が施される。
それを確認し、俺は少年に、
「ありがとう」
お礼を言って、契約が終わった事を告げる。
予想しているよりも速く、契約が終わった事に安心したのか少しだけ息を深く吐いた少年が、
「うん!」
そう言って俺の前から去って行くと、彼が戻った先に1人の女性がいる。
姿はあまり似ていないが、親子なのだろうか?
俺がそう思っていると、
「あの親子は同じ主人の元にいたらしい。血の繋がりは無いが、それでも同じ主の叱咤に耐えてきた仲だ。親子としての絆は、本物だ」
レオノーラさんが俺にそう言ってくる。
なるほど、だから似ている訳でもないのか。
俺がそう思っていると、少年が女性を引っ張って来てくれる。
少し怯えた様子で見てくる女性に、俺は出来る限り優しい声を出して挨拶をして少年と同じ様に手を出してくれる様にお願いをする。
そうして少年の母親が仮契約を済ませると、2人の様子を見た他の人達が勇気付けられたのか、2人の後に続いて契約をする為に俺の元へと来てくれた。
そうして最初に来た区域のスラム街の人達と契約した俺は、レオノーラさんにお願いして塔に一度一緒に行ってもらった。
やはり初めて見る黒い靄は恐ろしく感じるらしく、スラム街の人達はレオノーラさんがいても少し怯えながら靄の中へと入っていった。
レオノーラさんは後で召喚し直すとして、今は集められた荷物をアイテム袋に入れてしまおうと思い、俺は近くにいた騎士にお願いをして集められた荷物がある場所へ行くと、置いてあった荷物を全て回収した。
そうしてここでのやる事が終わった俺は、
「召喚、レオノーラ」
レオノーラさんを再召喚すると、レオノーラさんが黒い靄から出てきて、
「後の事はセシリアさんとシェーファさんにお願いをした」
俺にそう報告をしてくれる。
2人なら大丈夫だと信頼し、
「荷物は全て回収しました。次の場所に行く前に、婦館で保護をした人達の元へ行きましょう」
俺がレオノーラさんにそう伝えると、
「了解した。少し待ってくれ」
レオノーラさんが近くにいた騎士の元へ行って、
「私達は次に孤児院へ向かうのだが、少し寄り道をする。それまで待機する様に伝えて欲しい」
そう指示を出すと、レオノーラさんに指示を出された騎士が返事をして速足で、おそらく孤児院に向かったのだろう。
俺がそう思っていると、俺の元までレオノーラさんが戻ってきて、
「では、向かうとしよう」
そう言って先導して歩き出す。
俺はそんなレオノーラさんの後を追いかけて歩き出し、どんどん暗くなっていく裏路地をレオノーラさんと共に歩き進めると、ある一軒の建物に辿り着いた。
「結構ボロボロですけど、ここですか?」
俺が歩みを止めてそう質問をすると、
「ここはスラム街の者も通らない区域だ。建物は腐り、崩れる危険がある。しかし、この家はまだ支柱はしっかりとし、風通しもあるのだが一応壁もある。屋根が無いのも申し訳無かったが、彼等の事を考えれば人目に触れるのはあまり良くないだろうと考えてな。上からでは見えないだろうし」
レオノーラさんがそう言って建物の扉を開けた。
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