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ブルクハルトさんの呟きを聞いた後、馬車は人混みを掻き分けながら進んでいき止まった。
見るとそこは、街で見たブルクハルトさんの奴隷館より更に大きい、立派な屋敷だった。
俺がそれを見ていると、
「久しぶりに戻ってきましたよ」
ブルクハルトさんがそう言って屋敷の門を開ける。
「ここって、ブルクハルトさんの拠点の1つなんですか?」
俺がそう聞くと、
「元々私は帝都を拠点にしていた商人なのですよ。資金が十分に貯える事が出来たら、どこか大きい街で同じように奴隷館を建てて商売してたのですが、あまりにも街と街の距離があるので帰ってくる事が難しくなってしまいましたね」
ブルクハルトさんが苦笑しながらそう言い、御者さんに屋敷内に馬車を入れる様に指示を出す。
それにしても、久しぶりと言う割には屋敷の庭に生えている木や草は丁寧に手入れをされているし、花も綺麗に咲いている。
誰か使用人とか雇っているのだろうか?
これだけ大きい屋敷だもんな、そう考えた方が良いかも。
俺がそう考えていると、
「ビステル様、私はこの後すぐに工事を任されている職人の元に行って商談をしてきます。その間、ビステル様はどうされますか?」
ブルクハルトさんがそう聞いてくる。
そうか、ブルクハルトさんは仕事があるもんな。
「少し帝都を見て回ってきます。何か注意しないといけない事はありますか?」
俺がそう聞くと、
「分かりました。では2つ程ご助言させて頂きます。まず1つは、あまり好戦的な態度を取らない方がよろしいです。喧嘩などの騒ぎを起こしますと、騎士団の団員が喧嘩両成敗と言う事で騒いだ者達全員を牢に入れますから。2つ目は、スラム街に足を踏み入れない様にして下さい。スラム街は何が起きるのか分からない場所です。それと最近、「パプ」という名の依存度が高いクスリが出回っています。下手に買わない様に。…どうかお気をつけて」
ブルクハルトさんはそう言って屋敷の中に慌てて入って行った。
…喧嘩はあまりしない様にしないとな。
流石に捕まりたくはない。
俺はそう思って歩き出し、屋敷の敷地内から出る。
…出たは良いけど、こんな人混みじゃあ見て回る事も出来なそうだな…。
俺は少し憂鬱な気持ちになりながら歩き出し、人の波にとりあえず身を任せる。
周りの見ると、俺と同じように歩いている人も色々いるな。
冒険者の様な装備を着けている人に、何やら分厚い本を抱えて歩いている人。
扇情的な服で人とぶつかっただけで色々と見えてしまいそうな女性、上半身裸で何やら箱の様な物を持っている男性。
一般の人やどこかの貴族に仕えているのかメイド服を着ている人。
俺がそう思っていると、
「道を開けろ~ッ!」
大きな声がするのと同時に、人混みが更に圧迫されて道の端に寄る。
見ると、人混みを掻き分けて進んでいる馬車は、いくら掛かっているのだろうと思ってしまいそうな程派手だ。
その馬車を止まると、執事服を着た若い男性が降りてきて出てきた馬車に手を差し出すと、その手をそっと掴んで馬車から出てくる…化粧でピエロの様になっているおばさん…。
流石は帝都…。
人が多い分、様々な人がいる様だ。
俺がそう思っていると、露天商が道の端で布に商品を並べているのが見える。
見たいけど、人の動きに敗ける…。
俺がそう思っていると、
「イテェなぁッ!!」
どこからか男の怒号が聞こえる。
すると、今まで立ち止まらなかった人混みが皆足を止めて視線を怒号を出した本人を探し始める。
喧嘩…か?
俺がそう思った瞬間、
「イテェのは俺の方だボケがぁッ!今俺の足思いっきり踏んだの、お前の足だろうがッ!」
先程とは違う大きな声が聞こえてきて、喧嘩が発生したと察する。
喧嘩しちゃいけないらしいけど、この後どうなるんだろ?
俺は少し好奇心が出てきてしまい、声の出した人達を探す。
すると、人混みがまた動き出して道の端、露天商の商品がある所まで移動してきてしまった。
何だ何だ?
俺がそう思っていると、あれだけビッシリといた人が道の真ん中で2人だけになっていた。
どうやら、あの2人が怒号を出した人達の様だ。
それにしても、何で皆ギュウギュウになるまで移動してあの空間なんか作ったんだ?
俺がそう思っていると、
「オラァァ~ッ!ヤッちまえ~ッ!」
俺の隣にいた男性がそう声を張り上げると、その声をスタートに周りの人達が開けた空間にいる男性2人に喧嘩をする様に発破をかける。
…おいおい、随分と荒れてるな…。
俺がそう思っている内に、開けた2人の男性が殴り合いをし始める。
1人は職人なのか、薄い服が捲れたりして引き締まった筋肉が見える。
もう1人は冒険者なのか、腰に剣を差している。
剣を抜かないだけ、まだ冷静な所があるのかもしれないな。
俺がそう思っている間にも、2人の殴り合いは白熱していく。
それと同じ様に、周りの観客と化している人達も盛り上がっている。
それにしても、ここまで大の大人が喧嘩しているのを誰も止めないのもどうなんだ?
ここで下手に止めに出ても意味はないし、移動したくてもみっちり人に圧迫されて動けないし…。
不幸だなぁ~…。
俺がそう思っていると、
「双方争いを止めよッッ!!」
突然、乱入者が大きな声を出す。
声のした方向を見ると、兜部分を付けていない騎士が開けた空間に近づいて来る。
あれだけの人混みを掻き分ける必要も無く、勝手に人が道を開ける為に移動している故に、颯爽と歩いている姿が見えた。
すると、
「チッ…騎士団長自らお出ましかよ」
「良い所だったのによ…」
ヒソヒソと愚痴を話す声が聞こえる。
「亜人の分際で…いっそ石でも投げてやるか…」
「そんな事しても無駄だ、大した怪我にはならねえよ」
…確か騎士団長って、今回の帝都襲撃犯の魔族を捕らえた功績者のはずじゃ…。
自分達を護ってくれている人に、こんな態度を取るなんて恩知らずだな。
俺がそう思っていると、仲裁に入った騎士の姿が目に入る。
ドラゴンの吐いた炎の様に赤い、紅蓮の髪の靡かせて歩く女性。
そしてその頭には、鋭く尖った角が2本生えている!
今まで見た事が無い!
…「UFO」にも存在しなかった亜人が、今俺の目の前に…。
迎えたいッ!
是非塔の世界にお迎えしたい!
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