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俺の威圧スキルを発動した瞬間、俺が今掴んでいた貴族の男が絶叫すると共に、手足を激しくバタつかせる。
床に何度も何度も腕を振り下ろし、指輪を着けていた指が何度も床に手を振り下ろす事で次々と砕ける様子が見える。
それと同時に、婦館の至る場所で絶叫が聞こえてくる。
おそらく俺の威圧スキルで、ブルクハルトさんが説明するなら死が体を這いずって来る感覚?が襲って来ているのだろう。
俺は未だに発狂している男性の顔面を掴んだまま部屋の窓を開けると、俺はそこから男性をゴミの様に放り投げる。
実際にゴミだから、間違えてはいないだろう。
俺はそう思いつつ、発狂している者達を見つけては外に投げ捨てて、すぐに捕まえられる様に準備を進める。
それと同時に婦館で拷問などをされていた亜人族を助けようとするのだが、俺の威圧スキルの影響を僅かに受けてしまっている所為で意思疎通が困難になってしまい、仕方なく俺は生きている人と亡くなっている人で部屋を簡単に分けて婦館を移動し続ける。
気配察知スキルには逃げ出す人もおらず、反対に歓楽街から何事かという野次馬の方がこの建物付近に集まり始めている。
流石にこれだけの人数が集まってしまうと、レオノーラさんを裏口に留めておくのも危険だと判断した俺は、急いで婦館の中にいた人達を全て部屋分けすると、俺は婦館の外に出て婦館の敷地内に倒れている人達を縄で纏めて縛ると、俺は彼らを地面に引き摺りながら婦館の敷地から出ようとする。
すると、
「おい、あれって新しい騎士団長じゃねえか…」
「何でこんな所に…」
「あそこ、違法な方法で奴隷にされた亜人族を使ってた婦館だろ?それで取り締まったんじゃねえか?」
「いやあそこは、色々な貴族の方達もストレス発散に使ってるから、違法と言いつつ一番安全な婦館だったんだぞ?それを…」
俺の様子と、建物の様子を見ていた野次馬の者達からそんな声が聞こえてくる。
俺はそんな彼らに対して、
「私は貴族がどうのとか関係無く、違法なモノは必ず捕まえる。もし今この場にいる貴様達の中であの婦館の様な場所を知っていたりするのなら、情報次第では金銭を情報料として渡しても構わない。もしこの場にいる者達で違法な事をしている者がいるのなら、こうなりたくなければすぐに逃げる事だな。数日の間に、私は必ず違法な事をしている施設を破壊し、それに関係していた者達を捕まえてみせる」
低い声で脅す様にそう宣言すると、野次馬の中から慌てた様な様子の者や笑みを浮かべている者もいる。
そんな彼らを見た後、俺は縄を握りしめて歩き始める。
縄に繋がれた老若男女、合計で23人の罪人を捕まえる事が出来た。
彼らを騎士団の詰所に移送し、そこからはレオノーラさんの配下だった人達に任せよう。
問題があったら、俺に言ってくれれば城まで行く事を伝えておこう。
俺がそう思っていると、建物の影からレオノーラさんが出てくる。
そして、
「暴れ過ぎだ…。君の威圧が私にまで襲いかかってきたぞ…」
俺にそう伝えてくる。
彼女の言葉に俺は、
「あの婦館に亡くなっている亜人族と、衰弱している亜人族がいる。彼らの保護を頼む」
アイテム袋から回復薬を取り出しながらそうお願いをすると、レオノーラさんはショックを受けた表情をしつつ頷いて即座に動いてくれた。
後の事はレオノーラさんに任せて、俺は騎士団の詰所に向かって歩み続ける。
歓楽街から商店が並ぶ道になったとしても、俺は周りの者に注目されている事を何とも思わずに詰所が見える場所までやって来ると、詰所の扉が開いて中から騎士達が慌てた様子で外へと出てくる。
どうやら、この状態で歩いていたから目立っているし、先に詰所まで来て俺の事を説明した物がいるのだろうと考える。
そう考えつつも俺は幸いと思い、
「すまないが、これらを見張っていてはくれないか?歓楽街の違法な婦館の客と従業員だ」
詰所の前までやって来ると、俺は外に出ていた騎士達にそう説明とお願いをする。
それを聞いた騎士達は、
「まさか、あの婦館の連中か?」
「だけどあそこはエメリッツ様の指示で動けないはずじゃ…」
そう言い合いを始めてしまう。
流石に彼らも、相手が貴族の可能性があると思うと色々と考えてしまって行動できないのだろう。
俺がそう思っていると、
「ご説明をお願いしてもよろしいですか?」
俺に色々と説明をしてくれた女性騎士が、俺の前に立つとそう聞いてくる。
彼女の言葉に俺は、
「違法な婦館の情報を聞いて、捕まえてきただけだ」
ブルクハルトさんやレオノーラさんの事は説明する訳にもいかないと思い、単純な回答を女性騎士にする。
俺のその答えを聞いた女性騎士はため息を吐くと、
「…前騎士団長レオノーラ様は、貴方とは違って騎士団の事を考えて行動してくれていました。今回の件で、貴方の独断であろうと騎士団に何かしらの罰則があるでしょう!それについて、ご意見をお聞きしたいです」
俺にそう言ってくる。
彼女のその言葉に俺は、
「罰則を受けたとしても、それは貴様達には関係ない事だ。罰則は行動をした私1人に課せられるだろう」
そう答えるしかなかった。
何故なら、おそらく罰則を受ける前に騎士団に所属している亜人族はレオノーラさんと協力して保護する予定だ。
エメリッツが罰則をする前に、こちらからいなくなってしまえば問題はない。
俺がそう思っていると、女性騎士は視線を鋭くし、
「…貴方は、国の事を何も分かっていません。亜人族であるだけで、人族の貴方との扱いは全然違います」
そう冷たく言い放つと、諦めた様子で仲間の騎士達に指示を出し始める。
女性騎士の指示を聞いた騎士達も、指示に従って俺から罪人を預かってくれる。
俺は女性騎士に案内されて詰所の中へと入っていくと、
「私が今から書類を書きます、それにハンコを押していただければそれで良いです。書類が出来るまでお待ちください」
女性は冷たく俺に説明をすると、おそらくレオノーラさんが座っていたであろう机を手で示してくる。
俺はその言葉に従って少し待つ、待っている間に女性騎士の横顔を見ると、視線は鋭いがそれは集中しているからだろうと思い、俺は彼女が書類を書いてくれるのを呆然と待つ事しか出来ない事を恥じる。
そうして女性が数枚の紙を俺の座っている席まで持ってくると、俺は説明された通りにハンコを書類に押した。
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