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ブルクハルトさんは今まで大変お世話になった。
何から何まで彼を頼り、そんな俺に対して詳しい事を聞いて来ようとはしなかった。
だが、今は敵意と向けられている。
しかしそれに対して俺は、様々な事を話すしかないと思い、
「確かに、エルヴァンは俺の事を敬愛してくれています。それは俺が彼の主であるからです」
俺はまずエルヴァンについて話し出す。
俺がそう言いだしてもブルクハルトさんは声を出す事は無く、おそらく俺の言葉を最後まで口出ししないで聞くつもりなのだろう。
俺はそう思い、
「エルヴァンは元々剣の腕を高めるために、俺の元から旅立って冒険者として活動していました。その際に冒険者ギルドのギルドマスターの暗躍を盗み聞きをしました。俺ではないですが、盗み聞きをした者も俺の配下の者で信用があります。そしてその暗躍の内容が、エルヴァンが功績を上げ続ければ帝都の皇族の目に留まり、人族至上主義の彼らは人族と誤解しているエルヴァンの事をレオノーラさんの代わりに騎士団の長として、彼女と戦わせようとするだろう…という内容でした。それを聞いた時、俺はある方法を思い付きました。レオノーラさんの代わりにエルヴァンを騎士団長にし、帝都に住んでいるスラム街や虐げられている亜人族を助ける方法を。そしてエルヴァンは功績を上げていき、ついにレオノーラさんと戦う事になりました。それは俺がエルヴァンの姿に変装して戦ったのですが、その結果俺は彼女を殺しました。騎士団の更に上の宰相であるエメリッツとの約束で、レオノーラさんの権利を得た俺はスラム街の亜人族の権利を有し、更に騎士団の権利を得た俺は、今はスラム街や騎士団にいる亜人族を保護するために動いています」
簡潔にだが、俺の作戦を説明する。
それを聞いたブルクハルトさんは一拍置くと、
「…何も罪の無いレオノーラ様を殺した。私では救えなかったスラム街の者達の心の拠り所を。そんな貴方を、今の私には信用する事が出来ません」
俺にそう言ってくる。
怒りを宿している瞳を俺に向けてそう言ってくるブルクハルトさんだが、どこか違和感を感じる。
彼は商人だ、感情に任せて怒りをぶつける様な事はして来ないのは理解している。
しかしそれでも、今目の前にいる彼に俺はハッキリとは分からないが変と言うか、おかしい様な気がしてくる。
この疑問は何が原因だ?
俺はそう思いつつ、
「その事についても説明します。召喚、レオノーラ」
俺は本の中の世界を開いて、またもやレオノーラさんを召喚する。
黒い靄が出現し、少ししてからレオノーラさんが現れる。
「今度は何の…用…だ?」
黒い靄から現れたレオノーラさんが、出てきた空気や状況に困惑した様な表情をしてくる。
そして、
「………??」
ブルクハルトさんも首を全力で傾げてレオノーラさんを見ている。
「確かにブルクハルトさんの言う通り、俺は何の罪もないレオノーラさんを殺しました。しかしご覧の通り、彼女は生きています。ある特定の条件、俺の配下の者として契約している者を生き返らせる事が出来ます」
俺がそう説明をすると、レオノーラさんが何かに気がついた表情をすると、
「貴様、まさか奴隷商人のブルクハルトッッ!!」
「ちょっとレオノーラさんッ!?」
レオノーラさんが腕を龍化させてブルクハルトさんに向ける!
俺はそれを止める様に急いで立ち上がると、レオノーラさんとブルクハルトさんの間に体を滑り込ませる。
「お、落ち着いてくださいレオノーラさん。ブルクハルトさんは奴隷商人ではありますが、売る相手などをしっかりと亜人族の為を想い良い人を主人になれる様な人しかお客にしていません!レオノーラさんが奴隷商人自体を嫌う気持ちも分かりますが、彼は違うんです!」
俺がブルクハルトさんを庇ってそうレオノーラさんに告げると、彼女は厳しい表情をしながら、
「だがその男は怪しい噂が絶えない!裏で何をしているのかすら怪しい男だ。騎士団長をやっている時から警戒していたのだ!」
俺にそう言ってくる。
そんな彼女を止めようとしていると、
「ビステル様、止めなくて結構です。彼女の言う通り、私は亜人族の人達から怪しまれています。彼女とは道が違う方法で亜人族を助けていたつもりです。しかし、根本的には同じ考えを持っていたとしても彼女からすればやり方が正しい訳では無い。私はそう思っています。私は私の、彼女には彼女の、それぞれの正しいやり方で亜人族を助けていた。しかし、手段が違えば方法も違うやり方に文句を言われてしまうのは仕方が無い事。私は、彼女の叱咤を受け入れるつもりです」
ブルクハルトさんが、先程とは違った表情でそう言ってくる。
やり切った様な、満足気な表情。
安心した様な、口元に笑みを浮かべている表情。
俺がそう思っていると、
「申し訳ありませんビステル様。貴方を試す様な事を言ってしまい、反省しております」
ブルクハルトさんは穏やかな表情で俺に謝罪をしてくる。
流石に今暴れるのは良くないと思ったのか、レオノーラさんも一度動きを止めて静かにしてくれる。
「いえ、それは構わないのですが…。どうしたんですかブルクハルトさん?」
俺がそう聞くと、
「私は駄目な人間です。亜人族を助けたいと思っていたのに…」
ブルクハルトさんが今度は悲しそうな表情をしてくる。
情緒が不安定だ、一体彼に何があったのだろうか?
俺がそう思っていると、
「先程見た奴隷達は、然るべき時に肉の盾と、剣として戦場に無理矢理立たされる人達です」
彼がそう言ってきた。
ブルクハルトさんの言葉を聞いた俺は、
「そんな彼らを、誰に…」
そう彼に質問をしようとし、俺は彼が大抵の事ではそんな者達には屈さないと思いある程度察する。
彼でも指示に従わなければいけない者、相当の貴族かそれとも皇族か…。
俺がそう思っていると、
「申し訳ありません。私の力量では、もう彼らを救う事は出来ません…」
ブルクハルトさんがそう謝罪をしてくる。
悔しそうに、歯が砕けてしまうのではないかと心配してしまう程、彼は歯を噛み締めて悔しそうな表情をしていた。
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