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ブルクハルトさんに、こちらの世界に来ている可能性があるシュリエルの事をお願いして少し話をした後、冒険者が見張りをしてくれるという事で、馬車の中で眠る事になった。
俺は戦鬼さんの事もお願いした方が良いかと考えたが、彼は人族のキャラクターだったし、シュリエルと違ってレベルも高く俺よりも攻撃能力は高い。
捕まっているとは考えられないので、もしこちらの世界に来ていたらどこかで会うかもしれないなと思う。
馬車の中で横になりながらそう考えて、俺は目を閉じる。
翌日、俺はブルクハルトさんに起こされて体を起こそうとするが、体の痛みに起き上がるのが辛い。
か、体が凝っているな…。
俺はそう思いながら腕を伸ばしたり脚を伸ばしたりしながら周りを見ると、俺と同じくらいに起きた人は特に問題無さそうに動き始めてしまう…。
慣れの差…なのかな?
俺はそう思って体を解していくと、
「おはようございますビステル様。大丈夫でしょうか?」
ブルクハルトさんが俺に近づいてそう聞いてきた。
「とりあえず大丈夫です。ただ、馬車で寝るのは体に堪えますね」
俺がそう言うと、
「硬い木材にシーツを敷いただけですからね。そこそこ大きい村や町などに夜着いたら宿を借りましょう」
ブルクハルトさんがそう言う。
その後、俺達は軽く朝食を食べた後に出発をし、帝都を目指す。
それから5日間、草原と森、川に村、様々な景色を見ながら馬車に揺られ、遂に俺達は帝都に辿り着く事が出来た。
そして、帝都を見た時、俺はその立派な街を囲んでいる壁に感動し、今まで見た大勢の人を凌駕する人混みに驚愕する。
そして、今回の問題になった破壊された壁も見る事が出来、その近くに建ててあったであろう壁の瓦礫に埋もれている建物を確認できた。
壁の損壊は大きく、数日で修繕する事は不可能だと思う。
そして今、俺達一行は帝都に入るための検問に並んでいるのだが、また並んでいる人も多いのだ。
かれこれ既に2時間くらいは経過している。
「…長いですね」
俺が呆れた感じにブルクハルトさんにそう言うと、
「はい。いつもだったらこうでは無いのですが、壁の事もあってか厳重になったようですな」
ブルクハルトさんが俺の言葉にそう返してくる。
それにしても、あの壁はどうやって破壊したのだろうか?
俺は崩れている壁を見ながらそう疑問に思う。
瓦礫を見る感じ、焼け焦げた感じが無いという事は魔法ではないだろう。
だが、壁の損傷は斬撃というよりも大きな力をぶつけられたみたいに壊れている。
そうなると、俺の知らない未知の魔法って事だろうか?
俺がそう思っていると、
「ん?あんたは確か、奴隷商会の…ブルクハルトさんじゃねえか。あんた何でこんな所で並んでるんだ?」
帝都に入るための検問所の方から、騎士風の装備を身に着けている2人組がブルクハルトさんに気づいてそう声を掛けてきた。
渋めの声をしている、結構年上なのだろうか?
それにこんなにわざわざ話しかけるあたり、知り合いなのかな?
俺がそう思っていると、
「今日は私と警護の者だけでは無いのですよ。壁の修繕をするための男性の奴隷が必要だと言われて、売買しに来たのです。ですので、いつもの様に通行証を提示するだけでは無いのですよ」
ブルクハルトさんが声を掛けてきた2人組にそう返す。
すると、
「…ブルクハルトさん、その隣にいる魔族は…奴隷っすか?」
2人組の声が若いもう1人が、俺の事をチラッと見た後にブルクハルトさんにそう聞く。
感じ悪いな。
俺がそう思っていると、
「そんなッ!!ビステル様は私の大事なお客人です!」
ブルクハルトさんが大きな声で俺の事を見てきた人にそう言い返す。
いきなり大きな声を出したブルクハルトさんに、質問した人がビクッとするのが分かる。
すると、
「すみませんブルクハルトさん。こいつ、件の魔族に家潰されて魔族嫌いが酷くなってるんです」
渋めの声の男性がそう言って若い声の騎士の兜部分を押さえると、同時に頭を下げてくる。
なるほど、だから魔族に見える俺を馬鹿にした様な態度をしたのか。
でも待てよ?
もし彼が言った事が本当なら、この若い声の男性は怒って喧嘩を売って来ていたんじゃないか?
俺がそう思っていると、
「ビステル様、よろしいですか?」
ブルクハルトさんが俺にそう聞いてくる。
それに俺は、
「良いだろう。ただし、次は無いと思え」
あえて上からの態度で、2人組の騎士にそう言う。
俺の言葉を聞いた2人はそれでは…と言って俺達一行の後ろに歩いて行ってしまった。
やはりおかしい。
俺はあえて自分が魔族ではないと言っていない。
つまり、声の若い男性からしたら偉そうな態度を取った憎い魔族という印象になっているはずだ。
八つ当たりを意識しているから、態度に出さない様にしている様な人では無いと思う。
「…ブルクハルトさん」
俺は考えながら隣にいるブルクハルトさんに声を掛けると、
「…ビステル様の言いたい事は分かります。何か…事態が急変しているかもしれません」
彼は俺の内情を察してそう言ってくる。
その言葉を互いに言ったきり、俺達は何も話さないで時間が経過する。
俺自身も色々と考えているが、おそらく今の状況を一番知っていてなおかつ、この帝都をより理解出来ているブルクハルトさんも、様々な状況を仮定しているのだろう。
そうしている間にも馬車少しずつ前に進み、俺達は帝都に無事入る事が出来た。
そして帝都に入って俺が見た景色は、
ワイワイガヤガヤキャッキャッ!?!?!?!?!?!?
と聞こえる喧噪を、不思議と感じさせない程の人の数と店。
そして、笑顔の人もいれば苦し気な人も、喧嘩を始めたおじさん達が見える。
建物も装飾などがされていて、絢爛さが分かる。
「これが、帝都…か」
俺はそう呟くが、そんな言葉など周りの声にあっという間に消されてしまう。
そんな華やかな景色に目を奪われて視線を移しまくっていると、建物と建物の間の細い道に人影が見える。
遠目でハッキリとは分からないが、頭に何やら耳が生えているのとボロボロになった肌着の様な物を身に纏っている人影が見えた。
俺がその光景をジッと見ていると、
「…私にも、彼らは救えないのです」
隣にいたブルクハルトさんの呟きが聞こえた。
辺りはまだ、うるさいままだ。
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