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シェーファとセシリアが仲良く2人でベッドに入っていく様子を見送った後、俺は1人で外の世界に戻ってきた。
宿屋の部屋で装備を、エルヴァンに似せた装備に着け直すと、
「さて、行くか」
まだ早くはあるが、宿屋を出てレオノーラさんから教えてもらった騎士団の詰所に向かい始める。
昨夜は普段よりも賑わっており、道のあちこちに飲み過ぎで倒れている人や寝ている人がいたが、もういなくなっている。
その賑わいのお陰か、珍しく朝早くに動いている人達の姿も確認できない。
どうやら今日は、全体的に遅めに動き始めるのだろう。
俺は街の景色を見つつそう感じていると、歩みを進めて騎士団の詰所に向かって歩みを早める。
そうして詰所まで辿り着くと、俺はふと嫌な気配を感じ取って詰所の前で立ち止まる。
気配察知のスキルを使用すると、詰所の中に何人もの人の気配があるのが分かり、更に俺を囲む様に建物の裏や屋根の上から俺の動きを探っている様子の気配も感じ取る事が出来た。
問題は、それが誰かという事なのだが…。
予想は出来ている、騎士団の人達だろう。
振る舞い方は人族を優先する感じで動いていたから、亜人族の彼らからしたら嫌な上官になるのだろうし、何かしらの行動を起こす事は考えられた。
最悪レオノーラさんを殺し、自分達を虐げる俺を殺した後に自害をする可能性だって考えられる。
今これから、俺と戦って負けたとしても自害をする可能性がある。
蘇生薬は使えないし、そうなってしまったらレオノーラさんに顔向けする事が出来ない。
彼らを刺激せず、どうやってこの場を治めるか…。
俺はそう思い、ふと彼らのレオノーラさんに対する敬愛の気持ちを利用する事を思い付いた。
そう考えると、俺は何も気がついていない様な態度をしながら詰所に近づき、詰所の扉まであと4歩くらいの距離になった瞬間、
「ピィ~~~ッッ!!」
指笛だろうか?
甲高い笛の音が鳴った瞬間、一気に扉が開いて剣を抜いた騎士団の団員が飛び出してくる!
それと同時に建物の裏に隠れていたり、屋根の上にいた者達も飛び出してくるのがスキルで感知されて分かる。
最悪の手段に手を出そうとしている!
俺はそう察すると背負っていた大剣の柄を掴み、そのまま引き抜くのと同時に少しだけある空間に向かって思いっきり振るう!
瞬間に発生する衝撃波で、少し離れた所に生えていた草木が勢いよく揺れ、道にも少し亀裂が入ってしまった…。
そして、俺に襲いかかろうとした騎士団の団員達も突然の事で驚いた様子で動きを止めている。
そんな彼らに俺は、
「貴様達の考えは分からなくもない。しかし、私は前騎士団団長と正面から戦い勝利した。私が貴様達が信頼している彼女を殺した事に変わりはない。だがそれでは、彼女の正面から戦った事すらも侮辱する事になる」
一応外という事もあって、エルヴァンの様な口調でそう声を発する。
それを聞いた周りの騎士団は、悔しそうな表情で抜いていた剣を鞘に仕舞うと、
「おはよう…ございます。エルヴァン…団長」
扉から飛び出してきた騎士の1人がそう言い、それに続いて周りの騎士達も挨拶をしてくる。
その声は辛そうで、レオノーラさんがどれだけ大切に彼らと接し、彼らもレオノーラさんの事を慕っていたのかが分かる。
「これからよろしく頼む。…聞いたところによると、早朝にここで今日の職務の説明をするらしいのだが、どうすれば良いのか分からん。すまないが、教えてくれ」
俺がそうお願いをすると、俺に挨拶をしてきた騎士が中へどうぞと案内をしてくれる。
案内されて入った詰所の中は、思った以上に物が置かれている。
広さも天井を見ればわかるのだが、置かれている本や書類であろう紙の束で部屋が狭く感じる。
机と椅子は三つずつ置かれ、1つだけが綺麗に整理整頓されているのを見て、レオノーラさんが使っていた事が分かる。
俺がそう思っていると、
「レオノーラ前騎士団長の職務は、多種多様にあります。私達の様な見回りや住人達の争い事を止める事。騎士団長にしか出来ないエメリッツ様への報告や、書類の整理など。様々な職務があります」
1人の女性騎士が、俺にそう説明を始めた。
と言うか、今言われた事以外にもやる事があるのか?
それをレオノーラさんは1人でやっていた事に、素直に驚き尊敬してしまう。
塔の事ですら、シェーファやセシリアに任せっぱなしでしっかりと出来ていない俺とは全然違うな…。
俺がそう思っていると、
「…まずは引継ぎを」
女性騎士がそう言うと、10人程の騎士達が俺の前にやってきて、
「東地区の問題はありません」
「西は…少し乱闘騒ぎがありましたがそれも落ち着き、怪我人も出ておりません」
「北地区、問題なしです」
「南地区も問題はなく、いつも通りでした」
「全ての検問所も誰も来ることはなく、不法に侵入した者はおりません。また、近くにモンスターもおらず、危険はないかと思います」
代表の5人が俺にそう報告をしてくる。
すると、
「では、これまでと同じ様にそれぞれの持ち場に移動を開始してください。夜に動いていたものはまた夕刻、それまで休んでいてください」
先程俺に仕事を説明してくれた女性騎士が、集まっている騎士達に指示を出す。
その言葉に騎士達が返事をすると、皆が動き出してそれぞれの持ち場へと移動しようとする光景が目に映る。
俺はここで言わなければいけないと思い、
「私から1つ頼みがある」
そう声を少し大きめに声を出すと、準備をしたり詰所から出て行こうとしていた騎士達が俺に注目する。
「すまないが夕刻に引き継ぎの際に詰所に集まる時に、レオノーラ前騎士団長の配下であった騎士達、中でも今日の仕事が終了した者達集めて欲しい。少し私が話しておきたい事があるのだ」
俺がそうお願いを口にすると、
「…了解しました」
1人の騎士がそう返事をしてくれて、周りの騎士達も仕方がなさそうではあるが頷いてくれた。
さて、夕刻にレオノーラさんの事を彼らに話すのに場所と人数を集められるのはこれで大丈夫だろう。
まだまだ今日はやる事が沢山ある、気を引き締めないと…。
俺がそう思っていると、
「ではまず、この書類からお願いします」
女性騎士が俺に数枚の書類を差し出して、そう言ってきた…。
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