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「まずは、帝都のスラム街の人達を少しずつここへ迎えましょう。流石に嫌だと言う人には、他の案を考えないといけませんが…」
「そうだな。私の方でも説得をしてみるが、彼らに強制する事は私も望んではいない。その時にどうするかは、また考えるしかない。とにかく今は、帝都の者達が私がいなくなった事でスラム街の皆に危害を加える可能性が十分にある。そうなる前に皆を安全な場所へと移動はさせたい」
俺とレオノーラさんは、帝都の亜人族について話し合う。
と言っても、やる事は決まっておりどう行動するかや、最悪断られた時の代案を考えているのだが…。
「帝都周辺の国に連れて行っても、おそらくあまり変化は無いでしょう。ならば、亜人族が生活しているジーグへと連れて行くのはどうでしょう?」
塔に来る事を拒まれた際の行き先としてジーグの名前を出すと、
「あそこは今剣聖と剣聖が人選した精鋭が潜り込んでいる。下手に亜人族が出入りをするのは危険ではないか?」
レオノーラさんがそう反対意見を言ってくる。
彼女の意見に、
「精鋭騎士が何人いるか、分かりますか?ジーグにも、俺の家族を潜ませて隠密に行動して貰っているのですが」
俺がそう返すと、
「ジーグにまで手を伸ばしていたのか…。手が速いというかなんというか…」
呆れた様子で俺の事をジトッとした目で見てくる。
そんな彼女の視線と言葉に苦笑いで返事をすると、
「剣聖がどれだけの騎士を連れて行ったのかは分からないんだ。精鋭騎士は、基本的に私が指揮をしている騎士達とは指揮官が違う。騎士団団長とはいえ、私は亜人族。エメリッツ様や上層部は私が騎士団の全ての者達を従わせないように、私の指揮とは関係無い騎士達がいる。それが精鋭騎士達だ」
申し訳無さそうにそう言ってくるレオノーラさん。
彼女の言葉を聞いた俺は、数で詳細が分からない状態でジーグに連れて行くのは危険かもしれないと思いつつ、しかしアンリならばもしかしたら…。
可能性はある。
剣聖は駄目でも、結構な数の精鋭騎士がアンリの眷属になっているのならば、ジーグにやって来る人達の数を誤魔化す事くらい造作も無いだろう。
俺はそう思い、
「そう言えば、レオノーラさんは剣聖の姿を知っていますか?」
レオノーラさんにそう質問をする。
「ん?まぁ、知ってはいるぞ?しかし何故そんな事を聞く?」
俺の質問を聞いたレオノーラさんが、俺に逆に聞き返してくる。
彼女の質問を聞いた俺は、
「ジーグにいる精鋭騎士達は、剣聖の事をよく知らない様子なんです。可能性としては、剣聖が鎧を着ている故に素顔を知らないという状況だと俺は判断したんですけど…」
レオノーラさんにそう言うと、彼女は俺の言葉を聞いて頷き、
「そうだな。剣聖は普段、冑と関節を護る軽装の防具を身に着けている。聞いたところ、剣聖は本気で戦う時以外は冑を着けているらしい。つまり、彼の素顔を知っている者はそれ程の実力者だという事だ」
俺にそう教えてくれる。
剣聖の情報を教えてくれるレオノーラさんの言葉を聞き、
「では、レオノーラさんは素顔を知っているという事ですよね?」
そう聞くと、
「すまないが素顔は私も見た事は無い。だが、完全に知らない訳でもない。背は君と同じぐらいでほっそりとした体をしているが、装備から見える肌は傷跡が凄く、細いのに筋肉が隆起していた。髪の色は黒く短髪だったな。少しだけだが、見えた事がある。基本的に無口ではあるが、戦いの事になると饒舌になる。戦う事を楽しむタイプだ。それに相手は人族だろうが亜人族だろうが関係ない、ある意味では差別をしない者だ。しかし相手をいたぶる様な戦いをするのが、私は好きになれん」
剣聖の事を教えてくれるレオノーラさん。
彼女の言葉を聞き、
「ありがとうございます。近々ジーグに行く予定ですので、ジーグに残ってくれている家族に伝えておきます。ではまず、スラム街の方から回っていきましょうか。まだ日が高いですから、夜にまで待ってから行動を開始しましょう。それまでに、レオノーラさんの装備を選んでしまいましょう」
俺はレオノーラさんに感謝を伝え、行動を夜に決行する事を決めて、その前にレオノーラさんが外に出ても大丈夫な様に装備を選ぼうと提案する。
俺のそんな言葉を聞いたレオノーラさんは、
「私の?あぁ、そうか。私の装備はボロボロだし、まともに使う事は出来なそうだものな」
俺と戦った時の事を思い出して、自身の装備が損傷していた光景を思い出して少し苦笑している。
彼女の言葉に俺は、
「それもありますが、世間では帝都騎士団前団長は死んだ事になっています。そんな貴女が帝都の街を堂々と歩いていたら、騎士団とかエメリッツどころか、街の人達ですら驚きますよ。レオノーラさんがレオノーラさんだと気づかれない様に、装備と服装を変えて別人にならなければ」
今レオノーラさんが素顔で帝都の街を歩いてはいけない事を説明すると、
「そうだな。………少し、寂しい気持ちがあるものだ。確かに私達亜人族にとってあの場所は良い場所では無かったが、それでも悪い事だけでは無かった」
寂しそうな、微笑みを浮かべながらレオノーラさんはそう言ってくる。
俺は彼女のその言葉に、俺は介入するべきでは無いと考え、黙って彼女からの言葉を待つ事にする。
俺の考えを察したのか、レオノーラさんは微笑んでいた表情を変えて真面目な表情になると、
「では、場所を移動した方が良いのか?」
俺にそう聞いてくる。
彼女の言葉に俺は、
「いえ、流石にもう一度倉庫に下りるのは大変なので、ある程度俺が用意させてもらいます。レオノーラさんはそれを着て、体に合うかどうか、そして自分の好みに合っているか教えてください」
そう返すと、レオノーラさんが、
「好みに合わせるのか?」
俺の言葉の気になった部分の質問をしてくる。
「一時的にとはいえ、装備は自分の好みや体に合った物を着けた方が良いと俺は思っていますからね。流石に食堂で着替えをさせる訳にもいかないので、移動しましょう」
俺がそう言って席を立つと、レオノーラさんも俺に続いて席を立ち、俺とレオノーラさんは一緒に食堂を後にした。
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