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馬車に揺られながらブルクハルトさんの話を聞いて移動している内に辺りは暗くなり、俺達は野宿をする事になって馬車を停めて夕食の準備をしている。
俺はお客様という立場の所為か何もさせてもらえず、暇になってしまう。
…それにしても、馬車での移動がここまで遅いモノだとは思わなかったな。
…いや、電車とかに比べたら馬に失礼だな。
ありがとう、お馬さん。
俺が馬に感謝していると、夜空の美しさに目を引かれる。
空気が澄んでいるからか、星の光が輝いて見える。
…残酷な世界でも、景色だけは綺麗なんだな。
俺はそう思って、本の中の世界を開いてアイテムの在庫を確認する。
この世界では、「UFO」のアイテムよりも品質が悪い。
ただし材料は存在しているから、材料を買って俺が作った方が良い物を作れるな。
失敗する事もあると思うが、まだ俺が作った方が俺の利益になる。
…シュリエルがいてくれたら、こんな苦労しなかったかもな。
でも、シュリエルは亜人族のキャラクターで遊んでいたから、こちらの世界に来てしまっていたら捕まってしまう可能性がある。
戦闘職を育てていなかったから、捕まえようとしてくる相手に抵抗する手段が無い。
おまけにステータスも低いから、逃げようとしても無理だろう。
…あいつがこの世界に来ていない事を祈るしかないな。
俺がそう思っていると、
「あの…」
突然声を掛けられる。
いや、正確には近くまで人が歩いてくる気配は分かっていたのだが、今は冒険者の人達も奴隷の人達も自由に行動しているから気にしていなかった。
俺は本の中の世界と閉じて、
「どうしましたか?」
相手の人にそう返しながら顔を上げると、そこには亜人の青年が俺の事を見ながら何かを差し出している。
俺がそれを見ていると、
「これ、ご主人様が貴方にと」
青年が俺にそう言って、差し出していた物を更に俺に近づける。
見ると、何かの穀物と芋の様なモノが入ったスープの様だ。
「あ、あぁ。ありがとうございます」
俺がお礼を言って青年からスープの入った器を受け取ると、
「いえ、それでは…」
青年はそう言って踵を返す。
…見た感じ彼は犯罪などしなさそうな顔をしている、おそらく税金が払えずに奴隷にされてしまったのだろう。
それにしても、男の奴隷達を帝都に集めて城壁の修繕を行うと言っていたが、それが終わったら彼らはどうなるのだろう?
俺は集まってスープを口に運んでいる奴隷の人達を見ながら、俺も渡されたスープに口を付ける。
穀物と芋の甘みが、少し塩が入っている汁に合っていて上手い。
素朴な味ではあるが、悪くないな。
そう言えば、こちらの世界に来て初めてこっちの世界の物を口にした気がするな。
今までは塔でいつも通りのご飯を食べていたから、気にしなかったが…。
食糧、俺も本格的にどうするか考えないとな。
俺がそう考えていると、
「お味はどうでしょうか?」
ブルクハルトさんが俺に近づいてきてそう聞いてくる。
「美味しいですよ。ご馳走様です」
俺がそう言うと、
「いえ、その様なモノしか出せずに申し訳ありません」
ブルクハルトさんが俺の隣に座ってスープを口に運ぶ。
「……彼らは城壁の修繕の仕事が終わったら、どうなるんですか?」
俺がそう聞くと、
「彼らを買った主人は帝都などに依頼される程の大きな職人なのです。そこまで酷い事は起きないとは思いますが、危険な仕事なので安全に幸せに暮らせるという訳ではありません。…ですが、彼らはそれでも牢屋で一生を過ごすなら、体を動かしたいと言った奴隷達です。覚悟は決めているでしょう」
ブルクハルトさんが俺の質問にそう答えてくれる。
…牢屋にいれば安全ではあるが、彼らは安全よりも体を動かす事にした。
安全よりも、本能的に動きたいという事なのだろう。
そうなると、俺の本の中の世界の皆もそう考えているのかもしれないな。
誰もが安全に、過ごしたい訳では無いのだろう。
時には戦ったりしたいと思う種族がいるはずだ。
それを俺は安全だからと言って我慢させているかもしれない。
今度、皆の意見も聞かないといけないな。
…ブルクハルトさんといると、主としての振る舞い方が勉強できるな。
俺はただ塔の皆に安心して過ごしてもらう事しか考えていなかった。
俺がそう思っていると、
「ビステル様、これからの事を話してもよろしいですか?」
ブルクハルトさんが俺にそう聞いてくる。
「えぇ。構いませんよ」
俺が快諾すると、
「これからと言っても、ただ今日と同じように馬車に揺られて移動をするだけなんですがね。その道中、馬の具合が悪かったり、食糧が無くなった時は近くの村や町に寄る事を考えています。そうなると、おそらく5日後には帝都に到着すると思います。
ブルクハルトさんがこれからの予定を教えてくれる。
それにしても、馬車で5日か…。
正直、退屈で仕方がないな。
いっそのこと、塔の誰かに頼んで運んでもらうか?
いや、ここで本の中の世界の貴重さを明かすのは色々と危険だ。
敵対する人物がいるなら、本の中の世界の事を知られたくない。
ただでさえ俺は、これから人に嫌われるような事もする予定だからな。
何人も敵が出来るだろう。
俺がそう思っていると、
「そうでしたビステル様、ビステル様はどのような亜人をお買いになる予定でしょうか?これからビステル様に紹介する際の参考にしますので、ぜひ教えて頂きたいです」
ブルクハルトさんが俺にそう言ってくる。
どのような亜人が好み…か。
「とりあえず大至急お願いしたいのは、茶色の髪色をしていて垂れ犬耳の女の子が奴隷にされていないか調べて欲しいんです。名前は…シュリエルと名乗っている可能性がありますが、もしかしたら違う可能性もあります」
俺がそうお願いすると、
「随分と細かいですね。…知り合いか何かですか?」
ブルクハルトさんが俺にそう聞いてくる。
俺は彼の質問に、
「そうですね。凄く大切な知り合いです」
はっきりとそう答えた。
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