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313頁

レオノーラさんの腹を裂く様に、俺の大剣が深々と突き刺さっている状態で、


「………」


レオノーラさんは口から血を流して、俺の後方を見つめている。

静寂。

辺りは彼女が放った猛火で燃えている所もあるし、砕けている地面も粉砕した土の塊が転がって、僅かな音を出しているのだろう。

しかし今の俺には、目の前で虚ろ気な彼女の視線を見て、徐々に弱まっていく彼女の胸の動きを確認している所為か、レオノーラさんが発している微かな音しか聞き取る事が出来ない。

大剣の剣先と、刀身から滴り鍔の所で地面に落ちるレオノーラさんの血。

既に瞳に力は無く、光沢も消えかけている。

死の一歩前。

そう思わせる彼女の姿を確認して、俺は静かにゆっくりと彼女の体から大剣を抜く。

もう意識も混濁しているのだろう、痛みによる苦痛の表情もせず、ただぼんやりと虚空を見つけているレオノーラさん。

大剣を引き抜いた彼女の腹部からは、どんどん血が流れて砕けた地面を紅く染める。

そしてゆっくりと瞳を閉じた後、彼女は事切れて地面に倒れた。

俺はそんな彼女を見つめた後立ち上がり、握っている大剣を背負い直す。


「………」


俺は何も言葉を発する事無く倒れた彼女を見下ろし、アイテム袋から布を取り出して彼女の体を覆い隠す。

彼女の死体を、観客席で傍観している者達に晒さない様に。

俺がそう思っていると、


「エルヴァン殿ッ!貴殿が何をしたのか分かっているのかッ!」


上から怒鳴り声が聞こえてくる。

この声はエメリッツか。

荒々しい声も出せたんだな。

俺は興奮している体とは反対に、冷たく冴えている頭でそう考えると視線を上に向ける。

そこには、


「………」

「……?………♪♪」


俺が受け流して飛ばした、レオノーラさんの猛火の影響を全く受けていない、豪華絢爛な衣装を身に着けてふんぞり返って俺達を見下している閃光と、そんな閃光にねっとりと纏わり付いて何かを言っている若い女性が見え、その傍らでエメリッツが俺に何かを言っている。

護衛の騎士達は突然の炎に対処したのか分からないが、それぞれが抜刀して閃光達の周りを囲っている。

エメリッツの様子と、閃光達の様子が違い過ぎる。

おそらく閃光達は、先程の行いを脅威とも思っていないのだろう。

俺がそう思っていると、


「聞いているのかエルヴァン殿!」


エメリッツのそんな声が聞こえてくる。

どうやら俺も、ようやく周りの音が聞こえる様になったのだろう。


「申し訳ない。戦いに集中していた所為で、周りに注意を払っていなかった」


俺はしれっと嘘を言うと、エメリッツは怒りに表情を歪めながらも、俺と倒れているレオノーラさんを見て、


「陛下にお怪我が無かった事が幸いだが、これからは陛下を護る騎士として周りが見える様にして貰わなければいけませんな!」


そう言ってきた。

すると、俺達を見下していた閃光が女性と一緒に立ち上がると、エメリッツに何かを言った後周りの騎士を連れてどこかへ行ってしまった。

それを頭を下げた状態で見送ったエメリッツは、閃光達がいなくなると客席の様な階段の様な闘技場の観客席を降りてきて、


「今日は陛下の御機嫌が良かったから良いものの、これからはこんな事が無い様にお願いします。それにしても、激しい戦いでしたな。客席から見ていた分には、何が起きているのか理解するのに時間が掛かり、理解した時には新しい状況になっている。頼もしい者が騎士団に入ってくれるのは、私としても嬉しい限り」


そう言いながら足場が悪い闘技場の地面を歩いて俺の元にやって来ると、倒れているレオノーラさんを見て、


「死体はこちらで処理…」

「待て」


彼女の死体の事を任せてと言おうとしている言葉を遮り、俺はレオノーラさんの死体を見ながら、


「私は彼女の騎士団団長としての権利を貰い受ける事を約束に、この戦いに応じ勝利した。つまり今から私が帝都の騎士団団長を名乗っても良いのだろう?」


そうエメリッツに聞くと、


「ま、まぁそれはそうですが…」


言葉を遮られた事に納得していない様な、不満そうな声で俺の問いに答えるエメリッツ。

そんな彼に俺は、


「つまり彼女の権利を私が貰い受けていると言う事は、騎士団に所属している彼女をどうにかする権利も有しているという事。この者の死体は、私が貰い受けよう」


エメリッツにそう言うと、エメリッツは少し難しそうな表情をして、


「そうは言いますが、こんなゴミ同然の物を拾って何になるというのですか?我々人族と同等の様に振舞っている騎士団の亜人族と、帝都に巣食うゴミ共にこの者の死した首を晒す以外に、使い道などありませんよ?」


そう言ってくる。

エメリッツの言葉を聞いた俺は怒りを感じながらも、表には出さない様にして、


「この者の首はその様に使えるのだろう。しかし他の部分はどうだ?単純な攻撃では傷つかない鱗などを、私達冒険者はモンスターのそんな鱗や甲殻、牙などを装備にして力を強めている」


そうエメリッツに言うと、彼は少し納得が出来ない様にしつつ、


「しかしゴミ共を帝都から追い出すのに、このモノの首は必要になります。首から下なら、私も必要はないのでエルヴァン殿に差し上げます」


そう言ってくる。

俺はその言葉を聞き、


「安心しろ、数日だ。数日で、この者の首を晒す必要もなく跡形も無く亜人族には帝都から消え去ってもらおう」


そう答えると、更に続けて、


「それが、私が騎士団団長としての初めての仕事という事だ」


そう啖呵を切る。

俺の発言を聞いたエメリッツは、少し思考する様に手で口元を隠す様な仕草をして考え込むと、


「その方が面倒も済むのも確か。…良いだろう、ではこの者の死体は貴殿に譲ろう。その代り、しっかりと仕事は果たしてもらおう」


俺に向かってそう言ってくる。

エメリッツの言葉を聞いた俺は冑の下で声も出さずニヤリと笑うと、


「了解した。ではこの死体は貰い受ける」


俺はエメリッツにそう言い、倒れているレオノーラさんの側に膝を付けて座ると、


「これから他にも話があるのなら、闘技場の外で待っていた方が良いだろう。解体の状況を、見ていたいなら別だが?」


エメリッツの事は見ずにそう言うと、


「では、外で待っていよう」


エメリッツは俺の言葉にそう返して、ボロボロになった闘技場の地面に転びそうになりながらも通路の奥へと去って行った。

それを確認した俺は、ファルシュの姿をしているスゥを手で呼ぶと、スゥが俺の元ま駆け寄ってくる。

俺はスゥがこちらに向かってくる間に、気配察知のスキルを発動して近くに人がいない事を確認すると、スゥが俺の元までやって来る。


「スゥ、わざわざ付き合ってくれてありがとう。とりあえず今日の仕事はこれで終わりだ。塔に戻っておいてくれ」


俺はそう言ってクラスチェンジを行い召喚士(サモナー)になると、スゥを塔へと帰還させた。

そして、倒れているレオノーラさんの死体を布でグルグル巻きにした後、アイテム袋に彼女の死体を入れてから俺はもう一度クラスチェンジをし、騎士(ナイト)に戻る。

そして足場が悪くなった闘技場の地面を歩きながら、俺はアイテム袋から取り出した回復薬を飲みつつ闘技場の外へと出た。


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