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ブルクハルトさんの悲鳴にも近い雄たけびを聞いて、俺は何が起きたのか理解できなくて固まってしまう。
と、とりあえず馬車酔いは治ったのかな?
俺がそう思っていると、
「ビステル様!このポーションは何ですかッ!?」
ブルクハルトさんが俺に顔を近づけてそう質問してくる。
ちょ…つば飛ばさないで…。
「それはステータス異常を回復するポーションです。体調は大丈夫ですか?」
俺がブルクハルトさんの質問にそう答えると、
「大丈夫過ぎてむしろ心配になってしまうほどです!これは一体どこで手に入れたものですかッ!?」
更に質問をしてくるブルクハルトさん…。
そ、そんなに興奮するような事なのか?
俺からしたらただのポーションに過ぎないが…。
それに、手に入れた所がゲームの世界のアイテム屋とは言えない…。
一応俺も作る事が出来るが、成功率は80%あるかないかだ。
とりあえず、
「それは俺が作ったポーションです。と言っても、成功するのは数が限られますけどね」
そう答える。
すると、
「なんと!ビステル様がこれをお作りになれたと!」
ブルクハルトさんの興奮が更に上がってしまう…。
「と、とりあえず落ち着いて下さい。周りの人達が見てますから」
俺は周りの運ばれている奴隷達や御者、護衛として同行している第二級冒険者のパーティーの人達の視線が俺とブルクハルトさんの事をガン見している事に気づいて、ブルクハルトさんを落ち着かせようとする。
それから少ししてブルクハルトさんを落ち着かせる事に成功した俺は、御者さんに動かして下さいと言って再出発する。
すると、
「取り乱してしまい、お恥ずかしい所をお見せしました」
ブルクハルトさんが真面目な顔で俺に謝罪をしてくる。
先程とのテンションの違いに、情緒不安定なのかこの人?と失礼な事を考える。
「いえ、それより何故あそこまで興奮していたのでしょう?」
俺がそう質問をすると、
「あそこまで純度が良いポーションを手にし、飲んだのですよ。体の不調を全て無かった事にされたのかと言うくらい、体が軽いですなぁ。しかもそのポーションを作り出せる人が目の前に座っているのです。商人としての血が騒いで騒いで…」
ブルクハルトさんがそう言って、プルプルと震えだす…。
ここまで見事にリアクションする人も珍しいな。
俺がそう思っていると、
「ビステル様、私と共に商売の道を歩きませんか?」
ブルクハルトさんがそう言ってくる。
と、唐突だな。
気持ちは嬉しいが、俺はやりたい事がある。
「お気持ちは嬉しいですが、私にはやりたい事があります。ですのでブルクハルトさんと商売の道には進めません」
俺がそう謝罪をすると、
「いえいえ!謝罪などしないでください!元々無茶な事を言い出した私がいけないのですから!申し訳ありません!つい興奮してしまい、ビステル様の迷惑になってしまい…」
ブルクハルトさんが慌てた様子で謝罪をしてくる。
すると、
「なぁなぁ新人。ポーション作れるのに何で冒険者してるんだ?」
馬に跨って馬車と並走している冒険者の男性がそう聞いてきた。
「簡単な話ですよ。ポーションを作るのにも失敗している私が、ポーションを作る職には就かないでしょう」
俺が言うと、
「冒険者だって、必ず依頼を成功させられる事はないし、怪我をしちまったら療養…もしくは引退だ。そんな世界に身を置くくらいなら、安全なポーション作りに励む方が良いと思うけどな」
男性が苦笑しながらそう言ってくる。
男性の言いたい事は分かる。
だが、冒険者というのはある意味では自由なのだ。
場所に縛られない事が、俺には大きい。
この世界を見て回りたいと思っている俺には特に。
俺がそう思っていると、
「おい!失礼だろ!彼はブルクハルトさんが一目置いている人なんだぞ。俺達とは生きてる世界が違うんだ」
俺に質問をしてきた男性の後ろにいた男性が叱咤する。
すると、
「彼らは元々税金を払えなかった所為で奴隷に落ちてしまった人たちなんですよ。ただ根は良い人達だったので、知り合いの貴族様に買っていただいて今は冒険者をしているのです」
ブルクハルトさんがそう教えてくれる。
見ると俺に質問をしてきた男性は、後ろにいる男性に向かって何故か喧嘩腰で話し始めている。
「…この世界は…」
俺が男性達の言い合いを眺めていると、ブルクハルトさんが呟いた声が聞こえた。
「この世界は、良い人でも奴隷に落とされて物のように扱われる。奴隷になってしまえば、良い人でも悪い人でも、同じ奴隷。私はそれが嫌なのですよ」
ブルクハルトさんの言葉を聞いて、俺はこの人と同じ気持ちを持つと同時に彼のような善人にはなれないと思う。
…良い人を見ると、心が痛くなるね。
俺が心の中で苦笑しながらそう思い、
「亜人迫害、事の発端は魔王が討伐されてからですよね」
そう質問する。
「は、はい。それまでは亜人族は人族にも魔族にも進軍などしなかった中立の立場だったのですが、その立場が悪かったのでしょう、戦争が終わった後は戦争に協力しなかったと難癖をつけられて、亜人族は人族に従う事になりました。そう言えば噂で、魔王を打ち破った傭兵として参戦していた者は、自分は神に祝福されている者だとか言っていたらしいですよ」
すると、ブルクハルトさんが面白そうな事を言い出す。
「神…ですか?」
俺がそう聞くと、
「はい。神の名を安易に呼んだ男は皇帝陛下や重臣に咎められましたが、その男の力で黙ったらしいですよ。魔王を打ち破ったのです、それほどの力があったのでしょう」
ブルクハルトさんがそう言う。
「それで、その男は魔王を打ち破った後どうなったんですか?」
俺がそう質問すると、
「噂では皇帝陛下のお傍で護衛をしているというものや、放浪の旅に出たというものもあります。姿を現さなくなったのが、噂を助長させたのでしょう」
ブルクハルトさんがそう教えてくれる。
…その男は警戒しておかないといけないな。
生きている可能性は十分にあり得るし、せめて容姿の特徴とか分かれば良いのだが。
俺がそう考えている間も、ブルクハルトさんが様々なことを話す。
俺は馬車に揺られながら、彼の話に耳を傾けた。
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