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エルヴァン達が宿屋を出る際に、俺は透明の状態でエルヴァン達の背後にいて扉を抜け、2人に挨拶をする訳でも無く解散をした。
俺はそこから人がいない物陰に隠れるとアンジェの指輪を外して姿を現して、俺はブルクハルトさんの商館に向かって歩き出す。
ブルクハルトさんに先程の話し合いの内容を伝えた後に、レオノーラさんをまた探してみようかな。
俺がそう思って歩いていると、
「お、お許しくださ~い!」
どこかで謝罪をしている女性の声が聞こえてきた。
亜人族の人が何かされているのではないかと思い、俺は周囲を見回す。
しかし俺の見える範囲には謝っている亜人族の人はおらず、この喧噪で謝罪の声が聞こえるという事は、相当大きな声を発してるのではないかと、俺は冷静にそう判断して耳を澄ませる。
周りの人達はいつも通りの日常の所為か気にしている様子は見せず、ただ自分達の事を優先して動いている。
多少の心配すらしないのか?
俺はそう思いながら、謝罪の声に集中をしていると、声は表通りでは無く裏路地の方から聞こえてくるが分かる。
裏路地と言う事は、スラム街か?
俺はそう思うと、少し駆け足で声の発生源を探す為に動き出す。
聞こえる方向にただ単純に向かうだけでは、今の近くの裏路地へと向かう道は途中で行き止まりだったはずだ。
俺は冷静に奥まで続く道を頭の中で思い出しながら走り、声の主を助ける為にスラム街へと入る。
そうして辿り着いた場所は、古びた小屋の様な建物。
見ると、そこには民家の壁をブラシの様な物で擦っている女性が見える。
そして彼女は、掃除をしながらも小屋の中の様子を見ては謝罪の言葉を口にしている。
彼女のそんな謝罪の声を聞いていると、女性の声に凄く聞き覚えがある。
今は少し情けないと言うか、本気で謝罪の気持ちがある所為か少し違和感を感じるが…。
おそらく彼女は昨日襲ってきた襲撃者の、それも俺が捕まえた追跡者の女性だと気づく。
すると、
「勝手な事をした部下の事に気がつかなかった私も悪いのだ。どんなにお前が謝罪をしても、私はお前と共に罰を受ける」
小屋の中から声が聞こえて来て、外へと出てきたのは最近会いたくても中々会う事が出来なかったレオノーラさんだった。
いつも着けている装備は身に着けておらず、腰に下がっている剣と何故か手には布が、結構汚れている布を持っている。
俺はそんなレオノーラさんに声を掛けようとするが、俺は自分の装備が昨日の追跡者である女性に気づかれてしまうと思うと、緊急性はない事に安堵しつつ物陰に隠れると装備をとりあえずサブの装備に変更する。
フードがない分、これで表通りはあまり出る事はしたくないな…。
毎回魔族と勘違いされて喧嘩を売られるのは面倒だし…。
俺はそう思いつつ、これなら大丈夫だろうと自分の姿を確認してから、
「こんにちは、レオノーラさん」
物陰からゆっくりと出て女性と同じ様にブラシを握り始めたレオノーラさんに挨拶をする。
すると、
「おぉ!久しいなヴァルダ。…今更だが、呼び捨てで構わないか?」
俺に気がついたレオノーラさんが俺を見て少し笑いながらそう聞いてくる。
それを聞いた俺は、
「構いませんよ。それで、今は何をしていたんですか?」
彼女に呼び捨てで構わない事を伝えると、レオノーラさん達は何をしているのか小屋を見ながらそう質問をする。
俺の問いを聞いたレオノーラさんは、
「この者に罰を下していたんだ」
追跡者である女性の事を見ながら、俺の問いに答えてくれるレオノーラさん。
女性は突然現れた俺に警戒している様だが、
「手を動かせ。この人は大丈夫だ」
レオノーラさんがそう注意の言葉を言うと、女性は返事をして手を動かし始める。
「力不足の私に付いて来てくれる良い部下なのだが、少し暴走してしまってな。勝手に騎士団を辞めると書置きを残して、善良の者を襲ったのだ。…まったく、仕方がない奴だ」
そう言いながら女性を見る、微笑ましそうなレオノーラさんの様子に、
「状況は分かりました。それでレオノーラさんも団長として一緒に罰を受けていたのですか?」
俺がそう質問をする。
俺の問いを聞いたレオノーラさんは、
「そうだ。部下の勝手な行動を止められなかった私も、共犯と言っても良いだろう」
そう答える。
すると、
「本当は孤児院の子供達の相手をして貰いたかったのだが、ミアは子供が苦手らしくてな。流石にそれは酷だと思って、スラムの人達の家を掃除していたのだ」
レオノーラさんが俺にそう教えてくれる。
すると、小屋の中へ入っていった女性が外に出てくる事はなく、
「私が悪いのです!私の勝手な判断でレオノーラ様にまでこの様な事をさせてしまい、申し訳ありません!謝るので、許してください!」
小屋の中からそう謝罪をする。
女性の謝罪を聞いたレオノーラさんは、
「その謝罪、私に掃除を止めさせたい謝罪だろう?そうやって私の事で謝罪をしている間は、私は許してやるつもりは無い。すまないヴァルダ、私はまだ掃除などやる事がある」
小屋の中にいる女性にそう言って少しだけ笑うと、レオノーラさんが俺に謝罪をしてくる。
レオノーラさんの言葉で、小屋の中から再度謝罪の声が聞こえてくる。
俺はそんな様子に苦笑いをして、
「俺も出来る事はお手伝いしますよ。レオノーラさんに会いたいと思っていたので、すぐにお別れはしたくないです」
そう進言すると、レオノーラさんは少し困った様子で、
「しかし関係ない者に手伝って貰う訳には…」
そう言って考え込んでしまう。
レオノーラさんが注意をしている女性、元はと言えば俺やエルヴァンの所為で暴走してしまった様なものだ。
一応関係はある、しかしそれを言う訳にもいかないので、
「構いませんよ。少し時間に余裕がありますので、やらせてくれませんか?こういう事は、人手が必要なのでは?」
俺は時間に余裕がある事を伝え、掃除に必要な人手を求めているだろうと考えてそこを突く。
俺の言葉を聞いたレオノーラさんは、
「すまないな。では、お願いしようか」
そう言ってくれた。
彼女の言葉を聞き、追い返されなくて良かったと一安心をしつつ、俺は小屋の中へと入る。
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