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エルヴァンとファルシュとの話し合いを進めていると、ふと変な違和感を覚えた。

室内だから多少音が聞こえ辛いのは仕方が無いと思っていたが、外の音が全く聞こえない状態はどう考えてもおかしい。

微かに聞こえていた賑わいの声が聞こえず、聞こえるのは部屋の中にいる俺達の装備や衣擦れの音だけ。

俺がそう感じていると、


「ヴァルダ様」


エルヴァンも異常に気がついた様で、俺に確認の為に小さな声で名前を呼んでくる。

俺はそんなエルヴァンの言葉に頷いて返すと、ファルシュに静かにする様に合図を送って気配察知スキルを発動する。

スキルを発動した瞬間、壁一枚隔てた隣の部屋に数人の気配を感じ取り、更にこの宿屋を囲う様に配置されている人達の気配を感知する。

囲まれている…。

相手が誰だかは分からないが、あまり穏便には済まされないだろうなと考え、


「…囲まれている。丁度良い、エルヴァンとファルシュはこのまま部屋の中で待機、もし相手が部屋に流れ込んで来た場合は、殺さない様にしろ。情報を引き出すのに必要だ、誰がどれほどの情報を知っているかわからないからな」


俺が小さな声でそう指示を出すと、エルヴァンとファルシュが小さく返事をする。

作戦会議も基本的には終わっているし、俺はこのまま部屋を出て外にいる怪しい連中の気を引くか。

アンジェの指輪を予め出しておこう。

俺は準備を整えると、


「ではまた」


エルヴァンとファルシュにそう合図兼解散の言葉を言うと、2人のいる部屋から出て廊下を歩く。

誰もいない廊下を歩き、宿屋から外へと出る。

辺りに人はおらず、しかし周りの店は明かりも点いているし微かだが声も聞こえる。

俺は気配察知スキルを発動しながら、自分の宿屋に戻るために歩き始める。

すると、宿屋の周りに潜んでいた者達が二手に分かれて俺の事を追ってくる者達とエルヴァン達を見張っている者達で分かれた。

しかし僅かに違和感をまだ感じる。

動きが悪いというか、暗殺者やそういった類の者では無さそうな動きをしている者がほとんどだ。

逆にしっかりとした身のこなしで、建物の屋根を移動して俺の事を追って来る者もいる。

俺と同じ様にフードを被っているが、何者だろうか?

俺はそう思い、どうせこのまま宿屋に戻っても何を仕掛けてくるか分からないと判断し走り出す。

すると、普通に俺を追いかけて来ていた者達は慌てた様子で俺を追いかける為に走り出す。

やはり、動きが素人に近い。

それとも、あえて油断させる為に演技をしているのか?

俺はそう疑問に思いつつ、屋根の上を移動してくる追跡者に集中する。

軽やかな身のこなしに、そこそこの脚の速さはあるしあの人は素人では無さそうだ。

運任せではあるが、やってみるか。

俺はそう思うと、宿屋に向かっていたのだが裏路地へと移動して走り続ける。

あまり詳しい訳では無いが、それでもある程度なら俺も覚えている。

あの屋根の上の者もしっかりと付いて来ているし、大丈夫だろう。

俺はそう思うと、暗闇で分からなかった目的の道へギリギリの所で曲がる。

その先は行き止まりだが、壁が頑丈そうなのは覚えている。

俺がそう思っている内に目の前に壁が見え、俺は地面を蹴ってその壁に足を付けると、更にその壁を蹴り一気に屋根の上に移動する。

流石の相手も俺の動きを予測出来なかったのか、慌てて止ろうとするが足場が悪い屋根の上で動きが悪い。

その結果、俺は屋根の上に移動してそのまま追跡者を捕まえようとすると、追跡者は抵抗しようと短剣を抜こうとする。

しかし、俺相手に片手を腰の後ろに手を伸ばしてしまった時点で隙が出来てしまう。

俺は屋根を壊さない程度に脚に力を込めて一瞬で追跡者の背後を奪うと、短剣に伸ばしていた腕を掴み、


「動くな」


低い声で、僅かに威圧スキルを発動しながらそう言う。

威圧スキルのお陰で、追跡者は抵抗する事無く俺に捕まると、足場が悪い屋根の上から降りて後から追い付いてきた人達に、


「この者が痛い目に合う姿を見たくないのなら、どういうつもりで俺達を見張っていたのか答えて貰おうか」


静かに問う。

すると、


「…レオノーラ様との戦いを少しでも妨害するんだ。その為に、何をしに来たかなんて、聞くまでもないだろう?」


俺が捕まえていた人、声を聞いて女性がそう言う。

レオノーラ様…妨害…。


「なるほど、動きからして素人では無いと思っていたが、騎士団の者か」


俺がそう言うと、


「どうだか…。ここへ来る前に騎士団を抜ける事を記しているからね。今は団員かどうかも分からないよ」


捕まっている女性がそう言ってくる。

その諦めた様な声から察するに、おそらくエルヴァンと戦い死ぬ覚悟は出来ていたのかもしれない。

おそらく、彼女の独断であろう。

レオノーラさんが、こういう事をするとは思えない。

俺がそう思っていると、


「あの人が団長じゃなければいけないんだ。あの人じゃ無かったら、俺達は帝都の外でモンスターの餌になるしか…」

「俺達を助けてくれたあの人が勝てる様に、少しでも恩返しをするんだ…」


追い付いてきた人達から、そんな声が聞こえてくる。

まるで全てを捨てる覚悟をしているかの様な、決意と諦めた感情が混ざった声を出してくる。

おそらく、彼らはスラム街の者達だろう。

あまり服装も綺麗という訳でも無いし、体は細く痩せている。

持っているナイフや包丁を握っている手も、震えており戦い慣れしている訳でも無さそうだ。

レオノーラさんが騎士団団長じゃなくなると、彼女が今まで護っていたスラムの人達も安全な生活をする事が出来なくなる。

それを恐れての行動だろう。

俺が捕まえているこの人も、もしかしたら前に見た孤児院での騎士みたいにスラムの人達と交流があったのかもしれない。

俺は捕まえている女性の様子を見つつ、前に立っているおそらくスラムの人達を見ると、


「レオノーラさんが、これを知ったらどうするのか理解出来ないか?あの人は正々堂々と、戦う事を望むだろう。その彼女の気持ちを、蔑ろにする気があるのならそれで刺してみろ」


俺はそう言って捕まえていた追跡者から手を放して、彼らの元に行く様に少しだけ強く突き飛ばす。

俺に突き飛ばされた人はよろめきながらも体勢を整えると、スラムの人達と同じ様に俺の事を見た後、


「私達では、どうする事も出来ないのか…」


悔しそうな声で、そう呟いた声が聞こえた。


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