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ブルクハルトさんとの商談?が済んだ後、ブルクハルトさんは急いで荷物を持って出掛けてしまった。
俺もブルクハルトさんの商館を出た後は特に外に用事は無く、少しゆっくりと宿屋に戻り部屋で待機をしていた。
いつでもエルヴァンが来ても良い様に、そうして時間は経過していき夕方から夜になる。
流石に夜中には来ないだろうし、今日はもう塔に戻るか。
俺はそう思うと、首に下げている本の中の世界を取り出そうする。
その瞬間、
コンコンコン
部屋の扉がノックされ、
「お客さん、子供が会いに来てるよ」
宿屋の店主が扉越しにそう言ってくる声が聞こえた…。
こ、子供?
俺に子供はいないのだが…。
俺はそう思いつつ部屋の扉を開けて、
「何ですか?何か預かっていますか?」
そう店主に聞いてみる。
もしかしたら、店主が部屋の主を間違えている可能性もある。
俺がそう考えていると、店主は頭を掻きながら、
「モンスターの毛皮を被った女の子が、店の前で待ってるとよ」
眠そうにそう言ってくる。
あぁ、ファルシュの事か。
モンスターの毛皮を被っているという特徴は中々いない、店主が寝ぼけていたり間違えたりしていない事を認識すると、
「ありがとうございます。では、少し外に出てきます」
俺はそう言って部屋から出ると、
「もう少しで店には入れない様にするから、それまでには帰って来るんだぞ」
宿屋の廊下を歩きだした俺の後ろから店主がそう言ってくる。
その言葉に俺は返事をしつつ、宿屋の外に出ると、
「………こっちだ」
宿屋の脇にある少し狭い道から、ファルシュの声が聞こえてくる。
俺はファルシュの言葉に従って宿屋の脇の道に潜り込むと、ファルシュが道に立っている。
「エルヴァンはいない様だな」
俺がそう声を発すると、
「…あの大きさの体じゃ目立ってるし、なんか今は余計に目立ってるんだ。昼間に一緒に外に出た時は、むさ苦しいおっさん達に囲まれたし…」
ファルシュがそう言い、その時の光景を思い出したのか表情を歪める。
どうやら、騎士団の団長の件が結構な噂になっている様だな。
「だから、オレが案内を任されたんだ。昼間にわざわざここに来るように教えて貰った」
ファルシュは少し面倒そうにしながら俺にそう言い、
「わざわざすまなかったな。ありがとう」
俺はそんなファルシュにお礼を言う。
俺のお礼を聞いたファルシュは、行くぞと言ってから俺の横を通り過ぎて道へと出る。
そんなファルシュの後を追う様に俺ももう一度道に出ると、ファルシュの後を追いかける。
走っている訳では無いが、夜だからか少し人の動きが遅い所為でファルシュを追いかけるのに苦労する。
酒を飲んでいるのであろう男達はゆっくりとした千鳥足でフラフラと道を歩き、客が欲しい娼婦がそんな男達を誘っている。
子供1人で歩かせるには、少し危ないな。
俺はそう思いつつ、なるべく何かあった際にすぐに行動出来る様にファルシュの近くを歩こうとする。
気が大きくなっている男達が、同じ様な男達に喧嘩を仕掛けている様子や、酔っているからなのか道の端で倒れている者や、胃の中の物を吐き出そうとしている者までいる。
そんな光景を見つつ、ファルシュの後を追い続けようやく2人が泊まっている宿屋に辿り着いた様だ。
宿屋に入ると、中は僅かな照明が点いているだけで宿屋の中は薄暗い。
「…静かにしろよ。前に騒いでいたら怒られたから」
ファルシュがそう言って廊下を歩く。
怒られた事があるのか…。
ファルシュの言葉に苦笑しつつファルシュの後を追いかける。
そしてとある部屋の前に来ると、
「戻ったぞ~」
ファルシュがそう言って部屋の中に入る。
俺もファルシュに続いて部屋の中に入ると、
「お待ちしておりましたヴァルダ様」
既に部屋の中でエルヴァンが膝を付いていた。
「ら、楽にしてくれ。それより、昼辺りの事を聞いてもいいか?帝都では結構噂になっていたぞ」
俺の言葉を聞いたエルヴァンが立ち上がると、
「分かりました。お話しします」
そう言ってくる。
そうして今日の昼間にあった事を説明され、エルヴァンはこれからどうすれば良いのかを聞いてくる。
俺はそう聞いてくるエルヴァンに、俺が少しだけ準備をしてきた事を説明し、
「エルヴァン、頼みたい事がある。今のエルヴァンにこれを言う事は、とても酷だと俺は理解している。だから、正直聞いて拒否しても構わない」
俺は改めてそう話を切り出す。
俺の言葉を聞いたエルヴァンは、
「分かりました」
そう言ってくる。
エルヴァンの言葉を聞いた俺は、
「レオノーラさん、騎士団団長との戦いを俺に任せてはくれないだろうか?」
エルヴァンの事をしっかりと見ながらそう言う。
しかし俺の言葉を聞いたエルヴァンは微動だにせず、
「構いません。それでヴァルダ様の計画が順調に進むのであれば」
そう言ってくれる。
「……ありがとう」
俺はエルヴァンが何を思っているのかは分からないが、おそらく中々会う事が出来ない相手との戦いを邪魔された事に、不満を感じているのではないかと考える。
しかしそれを言う訳でも無く、俺の言葉に従ってくれる。
感謝しかない。
俺がそう思っていると、
「良いのかよ?」
ファルシュがエルヴァンにそう質問をする。
それを聞いたエルヴァンは、
「あぁ。ヴァルダ様のお考えに間違いなど無い。確かに惜しい気持ちはある、だがヴァルダ様は私よりも視野を広くし、全てを見通している。おそらく今では無く、今我慢をする事でヴァルダ様は私にもっと良い状態で戦わせてくれると信じている。ファルシュ、お前の気持ちはありがたい。私の事を気遣い、文句を言わない私に確認をしてくる。ならばファルシュ、ヴァルダ様も信じてくれ。ヴァルダ様なら、私達をより楽しい場へと連れて行ってくれるだろう」
ファルシュにそう言った。
ファルシュのお陰でエルヴァンの気持ちを少しでも聞く事が出来、俺はエルヴァンの言葉に少しだけ笑う。
過大評価である、俺はエルヴァン程強くはないし視野も広くはない。
しかし、俺が大切に思っているエルヴァンにそこまで想われて言われてしまったのだ。
エルヴァンもファルシュも納得する、最高の状況を作ってみせる。
俺はそう思い、
「では、作戦会議を始めよう」
2人にそう言った。
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