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レオノーラが部屋を出た後、エメリッツは表情を歪めて、
「薄汚い亜人族が…。城へ入る事すらおこがましい…」
そう呟くと、
「それではエルヴァン殿、明日まで待てば考えが纏まるかね?」
エルヴァンの方に視線を向けてそう聞いてくるエメリッツ。
その問いを聞いたエルヴァンは、
「あぁ。騎士団の団長になった際の私の権限、考えておこう。明日、もう一度こちらに来れば良いのか?」
そう言い、明日の事を聞いてみる。
それを聞いたエメリッツは、
「残念ながら、私は明日は大事な会議に参加しなければいけないのでね。秘書を冒険者ギルドに向かわせるとしよう」
少し笑みを浮かべながらそう言うと、エルヴァンは了解したと言ってからソファから立ち上がり、
「では明日までに、話を纏めておこう」
エルヴァンはそう言ってからエメリッツの部屋を後にした。
部屋を出たエルヴァンは近くで仕事をしていたメイドに話しかけて城の外まで案内をして貰うと感謝を言うとそのまま城の敷地外に出ると、エルヴァンはとりあえずファルシュの元へと向かった。
エルヴァンがファルシュと合流している頃、ヴァルダは宿屋で………。
「は、早いですね」
俺が宿屋に戻って少しして、俺が借りている部屋にブルクハルトさんの商館から来た女性がブルクハルトさんからの言伝を持って来てくれた。
どうやら聞いた所、俺がブルクハルトさんにお願いしていた人を知り合いの奴隷商人から貰い受けてくれた様だ。
俺は女性の言葉に従い、彼の商館へとやって来る。
商館に入ると、
「ビステル様、お待ちしておりました」
ブルクハルトさんが俺の事を出迎えてくれる。
「昨日の今日で俺が言った人を見つけられるなんて、流石はブルクハルトさんですね」
俺がそう言うと、ブルクハルトさんは少し難しそうな表情をして、
「その事で、少しビステル様にはお伝えしたい事があるのですが…」
言い辛そうにそう話し出す。
俺はそれを聞いて首を傾げつつ、
「大丈夫ですよ」
俺がそう返事をすると、ブルクハルトさんはいつも通り商館の奥の部屋へと案内をしてくれる。
部屋に辿り着くと、俺はブルクハルトさんに促されてソファに座る。
その対面にブルクハルトさんが座ると、
「ビステル様にお願いをされた後に思い出してすぐに思い当たる者に使いの者を向かわせたのですが、正直書類を読ませてもらってここまで酷い者をビステル様に紹介するのは…。と思いまして、しかしビステル様のお願いに、勝手に私が判断をして断りを入れるのもダメかと思いまして…」
まるで怒られた子供の様に、言い訳みたいに説明をしてくる…。
だ、大丈夫だろうか?
相当考えさせてしまった様で、申し訳なく感じるのだが…。
俺はそう思いながら、
「あまり気にしないで下さい。頼んだのは俺ですし、ブルクハルトさんのお気持ちは嬉しいですが、俺もある程度覚悟をしているつもりです」
ブルクハルトさんにそう伝えると、彼は感謝の言葉を伝えて来て、
「では説明をさせていただきます。まず男の名前はバーハルド、かつては冒険者として第二級までは実力があり、非公式ながらも第一級に近い実力があったと言われています。しかしパプを使用後、パプの依存に犯されて今では冷静にしている事が困難な程、体が異常になっています」
書類を見ながらそう言ってくる。
そんな説明を聞いた俺は、なるほど、パプの使用者という点がブルクハルトさんが俺に紹介するべきか悩んだ点だろう。
結構な依存者の様で、ブルクハルトさんの説明から察するにまともでは無いのかもしれない。
俺はブルクハルトさんの言葉を聞いてそう考えていると、
「あまり良い行いとは言えませんが、その者には継続的にパプを使用しています。その結果、薬が切れない限りは少し乱暴な者程度に治まっている様です」
更にブルクハルトさんがそう説明を続ける。
パプを与え続ける事で、薬が切れた時の症状を抑えているのだろうか?
「意思の疎通は可能なんですか?」
「はい。大丈夫です。しかし…」
俺の質問にブルクハルトさんが答えた後、少し表情を顰めて続きの言葉を言うべきか考えている。
そして、
「彼は、特別に亜人族を毛嫌いしています。おそらく実力もあったのでしょうけど、彼の経歴を見るとおそらく亜人を囮にした結果、依頼を達成している事が分かります。元は貴族の愛人との子供の様で、金回りに関しては苦労はしておらず、正直何故冒険者をしていたのか私には理解出来ませんね」
ブルクハルトさんがそう教えてくれ、その男の出生の事を説明してくれる。
………難しいな、そんな男を上手く扱えるかと聞かれれば、俺には自信が無い。
「どうしますかビステル様?正直、私は戦力が欲しいが故に、この様な男を買う事はお勧め出来ないのですが…」
ブルクハルトさんが、少し申し訳無さそうな表情でそう言ってくる。
その言葉に俺は、
「いえ、別に戦力としてその人が欲しい訳ではないので…」
そう答えると、
「その人を安定させるために、パプを使っていると聞きました。この際、俺は汚い手をいくらでも使いましょう。ブルクハルトさん、そのお知り合いの人からその男と、その男が当分の間安定する事が出来る量のパプを買ってきてもらえませんか?…本当であれば、ブルクハルトさんと一緒に行く事が良いのですが、今は俺も帝都を簡単に離れる事が出来ない事情がありまして…。申し訳ないです」
俺は覚悟を固めて、ブルクハルトさんにそうお願いをする。
俺の言葉を聞いたブルクハルトさんは、少し焦った様な心配している様な表情で俺の事を見てきた後、
「分かりました。私も覚悟を決めます。危ない橋を渡る事になりますが、ビステル様をお一人で渡らせるつもりはありません!」
キッと瞳を鋭くし、これから戦場に立つくらいの気迫でそう言ってくるブルクハルトさん。
彼にここまで無理をさせてしまったんだ、俺も半端な事は出来ない。
「ありがとうございますブルクハルトさん。よろしくお願いします」
俺はそう言って、ブルクハルトさんと硬く握手を結んだ。
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