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ルミルフルが俺の部屋から出て行った後、俺も彼女が出て行ってから少しして部屋から出ると、俺は塔の外に出て草原島に移ってバルドゥを探す。
草原島を歩いていると、
「あれ、ヴァルダ様じゃないですか?珍しいですね」
「本当だ!最近は忙しそうだって言ってたのに」
赤髪が目立つイルゼさんと、紫色の髪が目立つフリーデさんが俺の事を見て声を掛けてくる。
「久しいな。元気にやっているか?」
俺が彼女達に声を掛けると、
「最近はダグスさんの畑の手伝いしてますよ。前も畑の手伝いをしていたんですけど、田舎の畑と帝都の方に商品を卸している人の畑だと、色々と違いますよ~」
「そうそう!水は枯らさない程度の最低限の量で良いとか、土の盛り方の違いとか、植物に合った事とか沢山説明されましたよ!」
彼女達は大変だけど、成果が凄いんだよねと話をしている。
…元気そうにやっているのなら良かった。
俺はそう思いつつ、
「バルドゥは今いるか?」
2人にそう聞くと、
「いますけど、その…」
「今は何て言うか…こっそり見て貰った方が…」
2人は顔を見合わせてそう言い、説明し辛そうに俺の事を見た後、バルドゥの元へと案内をしてくれる事になった。
のだが、最初の内は普通に歩いていた2人がどんどんゆっくりとコソコソと歩みを変えていく…。
そうしてコソコソを3人で移動した先には、
「あ、あの…どうしましたか?」
「汗で汚れてしまっていますよ。それに土汚れも」
「あ、ありがとうございます。ですがあまりお気になさらないで下さい。ゴブリンとは元々薄汚れているのが普通なのですから」
「その様な事はありません。バルドゥさんはあんなモンスターとは違います」
剣を握っているバルドゥの元に、エリーゼさんが布を押し付けている光景が目に映る。
…おぉっと?
まさかの予想外の状況に、俺はイルゼさんとフリーデさんと同様に2人には見えない位置で様子を窺う。
俺が予想外の状況に混乱していると、
「やっぱりエリーゼ、そういう事だよね…」
「流石にあそこまで甲斐甲斐しいと、私等は分かっちゃうよ…」
2人がバルドゥとエリーゼさんの事を見ながらそう囁き合う。
俺は2人の会話を聞き、
「まぁ、塔での恋愛などは禁止している訳では無い。だが、君達がここに来た理由が理由だ。そう考えると…」
「そんなの愛の前には些細な事なんですよヴァルダ様!」
「そうですそうです!一度溢れた愛はもう全力で相手を振り向かせるしかないんです!」
俺が言葉を発していると、俺の言葉を2人で遮ってそんな事を言ってくる。
そんな2人の様子に圧倒され、
「そ、そうだな。確かに感情と言うのは、簡単に制御できるモノでは無いよな?」
俺はそう言うしかなかった。
恋愛を語る女性に、俺は勝てそうにない。
圧が違う、普通に話している時と様子が全然違う…。
俺がそう思っていると、
「ん?ヴァルダ様の気配を感じます………ね…」
バルドゥが俺の気配に気がついた様で、俺達のいる方向に視線を向けてくる。
そして俺と視線が合ってしまったバルドゥは、一旦動きを停止したのだが、
「出迎えもせずに申し訳ありません、ヴァルダ様!」
すぐに俺に謝罪をしながら駆け寄って来るバルドゥ。
それと同時に、エリーゼさんも俺達の元に駆け寄って来る。
「すまない、2人の邪魔をするつもりでは無かったんだが…」
俺が謝罪をすると、
「い、いえ。ヴァルダ様が謝罪をする事などありません!」
「わ、私が1人で舞い上がっていただけなんです!バルドゥさんは悪くないです!」
2人がそう言ってくる。
そんな2人に俺は複雑な感情を抱きつつ、
「バルドゥ、少し頼みたい事があるのだが」
俺は草原島に来た目的を果たす為にバルドゥに話を切り出す。
「頼みたい事…でしょうか?」
俺の言葉にバルドゥがそう聞き返してくる。
バルドゥの言葉に俺は頷いて返し、
「あぁ。近々、ルミルフルがレベルを上げる為に鍛練を始めると思う。その際に、エルヴァンも一度ここへ戻して彼女の相手を任せたいと思っているのだが、エルヴァンだけにそれを任せるのは大変だと思ってな。バルドゥにもそれに協力して欲しいと思ってな」
俺がバルドゥに頼みたい事を伝えると、
「お任せ下さい!エルヴァン様程とはいきませんが、私も全力でお相手をいたしましょう!」
バルドゥは悩む素振りも見せずに、すぐに了承の言葉を言ってくれる。
「ありがとう。この話をしたくてここへ来たんだ。見た所、バルドゥも鍛練に励んでいる様だし、邪魔するのは悪いからもう行く」
俺がそう言って歩き出すと、
「ヴァルダ様が邪魔になんてありえません!またいつでも来てください!」
後ろからバルドゥのそんな声が聞こえてくる。
すると、
「ルミルフルさんと鍛練するのですか?」
「はい!ヴァルダ様からのご指名での頼み事ですから!」
「………ふーん、そうですか…。そうなんですか…」
「エ、エリーゼさん?どうしたんですか?」
「何でもないですよ…。ふーん…」
そんな話し声が聞こえた後に、バルドゥが困った様子でエリーゼさんの名前を呼んでいたのを聞き、俺は更に複雑な感情になりつつ次の目的地に向かった。
エルヴァンとバルドゥ、大剣の対処にエルヴァンが、片手剣などの対処はバルドゥと戦いながら学んでもらおう。
次は魔法に関してだが、正直魔法は属性が多い故に人員もそれ相応の数が必要になってくる…。
それでも良いのだが、流石に戦う場としては狭い気がする。
出来るのなら1対1の環境がベストだよな。
俺はそう思い、一度塔に戻って塔の下層に移動すると、そこからもう一度外に出る。
塔の下層、そういえば全然最近は来ていなかったな。
俺はそう思いながら辺りを見回す。
先程までいた中層の浮島が目立っていた光景とは違い、下層の光景はいくつかの大地が存在している。
それも浮島というか、塔の近くに浮いている状態で固定してあるのだが…。
俺がそう思っていると、
「お、見つけた」
塔を出て見える位置に、目的の者を見つけて探さなくて良い事に安堵する。
何故ならそこは、
「久しぶりだな、アレンカ・ジェネフ・ダフネ」
「ヴァルダ様!貴方に会いたくて会いたくて苦悩していたわ!」
「苦しくて苦しくて、ヴァルダ様も一回この苦痛を味わって欲しいですわ!」
「ヴァルダ様、一緒に死の?」
3つの首を持つドラゴン、伝承では1000の魔法を操るアジ・ダハーカが、一斉に話しかけてきた…。
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