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騎士団の団員の女性から情報を得た俺は今日は歩き続けても意味が無いと思い、宿に戻って過ごそうと思って宿まで歩いていると、
「ん?」
背後から視線を感じて俺は違和感を感じる。
フードは被っているし、変な奴らに狙われる事は無いと思うのだが…。
俺はそう思いつつ、とりあえず宿屋まで気にしないで歩き続ける。
宿屋に着いて部屋に入ると、視線を感じる事も無くおそらく俺の行先を調べていたのだろうと思い、先程出会った騎士団の人達が追って来たのであろうと考え、特に気にしないで部屋の中で少しだけ気配察知スキルを発動する。
宿屋は人通りが激しい道の側に建っている所為で、気配察知スキルを発動すると沢山の人の反応がある。
だが俺は宿屋にいるのを知っている向こうは、おそらく立ち止まっているはずだ。
更に近くの店の周りの人を除外すると、
「やはり2人か。あの人達で間違いないだろう。向こうは騎士、俺から怪しい行動をしなければ向こうも手を出してはこないだろう」
俺は気配察知スキルを発動しながらそう呟き、とりあえず先程出会った人達が諦めてくれるのを待つ。
大丈夫だとは思うが、俺の様子を監視する事が出来るスキルか何かを持っている可能性がある故に、用心しておいて損は無いだろう。
それから少しして、宿屋の付近で立ち止まっていた2人組が去って行くのを確認すると、
「よし、大丈夫だな」
俺はそう独り言を呟き、本の中の世界を開いて、
「帰還」
塔に帰る為の言葉を呟き、俺は出現した黒い靄の中へと入った。
塔に戻って来た俺は、自室でふかふかのベッドに飛び込みたい欲求に駆られながら、
「セシリア」
セシリアの事を呼び出す。
「おかえりなさいませ、ヴァルダ様」
俺の呼びかけに即座に出迎えの挨拶をしてくるセシリア。
俺はそんなセシリアに、
「突然で悪いが、ルミルフルを呼んで来てくれ。その際に、子供達の相手を頼む。自室に行っているから、そちらに案内してくれ」
指示を出すと、彼女はかしこまりましたと返事をして消える。
さて、部屋に戻るか。
俺はそう思って塔に戻り始めると、塔の周りを浮いている浮島が見える。
最近増やした、エルフの不帰の森や荒廃島などが見え、
「…新しい人達には、安全に過ごせる様に何か付けた方が良いだろうか?」
アウレオンさんが話していた事を思い出してそう呟く。
そんな事を考えながら部屋へと辿り着くと、
「早いな」
俺の部屋の前で、ルミルフルが待っていた。
「近くにいたのよ」
俺の言葉にルミルフルがそう返す。
俺は部屋の扉を開けて、
「どうぞ」
ルミルフルを中へと促す。
そんな俺の言葉に従い、
「失礼するわ」
ルミルフルがそう言って部屋の中に入り、彼女に続いて俺も自室の中に入る。
「ソファにでも座ってくれ。少し装備を外すから、待ってほしい」
「それくらい構わない」
俺が少し待ってくれる様に頼むと、ルミルフルは特に気にした様子も無く返事をしてくれる。
ルミルフルがソファに座ったのと同時に、俺は装備を外して仕舞う。
ラフな格好になると、俺はルミルフルの座っている対面のソファに腰を下ろして、
「それで、契約について話したい事とは何だ?」
俺がそう話を切り出すと、ルミルフルは真剣な表情で、
「前に話していた戦争について考えたんだけれど、今の私では結局また最後まで成し遂げる前に力尽きると思う。だから、私はもっと強くなりたい。その為にヴァルダ・ビステル、貴方の力を貸して欲しい」
そう言って、俺に頭を下げてくるルミルフル。
「契約について、誰かから話は聞いたか?」
俺がそう聞くと、頭を下げていたルミルフルが頭を上げて、
「一応、セシリアから話は聞いたわ」
そう報告をしてくる。
俺はその言葉を聞いて、
「セシリアだから変に解釈などはして説明していないだろうから大丈夫だとは思うが、一応確認の為に話しておこう」
話を切り出すと、俺はしっかりとルミルフルの事を見て、
「本契約をしただけで、強くなる訳ではない。まずは、レベルを限界まで引き上げないと、本契約での恩恵は受けられないのだ。ルミルフルはこの世界では高レベルではあるが、それでも限界に達してはいない。まずは、今のレベルを限界に達する必要がある。本契約にレベルの事は関係ないが、おそらくルミルフルが求めているのはその先、レベルの限界を超える事だろう。その為には、今すぐに本契約をする必要は無いと思う。それに出来れば、今の俺の考えはもう少し待って欲しいという考えではある。今俺が外で企んでいる事が成功すれば、ルミルフルは効率的に強くなる事が出来るだろう」
そう説明をする。
俺の言葉を聞いたルミルフルは首を傾げて、
「外で企んでいる事?」
そう聞いてくる。
俺はルミルフルの様子に、
「色々とな」
そう言葉を濁して答える。
それに続いて、
「今は本契約をするメリットが、ルミルフル側には無いというのが俺の意見ではある。それでも、とりあえず本契約だけでもと言うのであれば、俺はそれに答えよう」
俺が契約の事に関してそう言うと、ルミルフルは少し考える素振りを見せて、
「分かった。そこは一番理解している貴方に任せるとするわ。今必要がないのであれば、私も無理にお願いはしないし」
そう答えてくれる。
彼女のその言葉に俺は頷き、
「そうだ。とりあえず、ルミルフルはこれから本契約をするまでに出来るだけ力を付けて貰う為に、良い装備をプレゼントしよう。ここでは基本的に装備など必要ないかと思うが、エルヴァンの様に自主的に鍛練するにはその方が良いだろう」
俺はそう言うとソファから立ち上がる。
俺の言葉を聞いたルミルフルは、
「ありがとう。受け取りたい気持ちはあるのだけれど、あの子達が触らないか心配だから…」
少し気まずそうにそう答える。
確かに、好奇心旺盛なあの子達ならルミルフルが持っている物を見たら気になってしまうだろうし、もしかしたら怪我をしてしまう可能性も考えられる。
俺はそう思い、
「じゃあ、セシリアとシェーファに話を通しておこう。倉庫に置かれている装備、気に入った物や気になった物を持って行って構わない。時間が出来たら、倉庫に取りに行ける様にしておこう」
ルミルフルにそう言うと、
「ありがとう。なら、お言葉に甘えて、あの子達が他の人に任せられる時に見に行くわ」
俺にお礼を言ってソファから立ち上がる。
そうしてルミルフルとの話が終わると、彼女は俺の部屋から出て行った。
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