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言い方が悪い、それでは俺が帝都の奴らと同じ様に聞こえる…。
そうだよな、ハイシェーラさんって心の中を読み解くスキルか何かを持っているんだよな?
その事に対して聞いた事は無いが、ここまで的確に当てられてしまったらもうそういう能力的なモノがあるのだろう…。
俺はそんな事を思いつつ、
「言い方が少し気になりますが、否定は出来ません。確かに俺は、ハイシェーラさんを含め竜人族の皆さんを家族として迎えたいと思っています。ですが、それは人族に生活圏を脅かされ、生きていくのが辛い者達に選択させようと思っています。俺は亜人族を人族に怯えない、落ち着いた環境を提供したいと思っています。しかし竜人族の皆様に、人族に怯えていない状態で保護を持ち掛けるなど、貴方達を愚弄している様な気がします。皆様には今落ち着いて生活していける環境があり、わざわざそこを放棄してまで俺達の住む場所に案内するはと考えると、少し躊躇ってしまいます」
竜人族に、家族にならないのかと聞かない理由を説明する。
すると、
「…なるほど、確かに私達は今は生活を脅かされてなどいないな。しかし今回の貴様達が、帝都に私達の嘘の報告をすると、危険な可能性も出てくるのだろう?」
ハイシェーラさんが俺の言葉に頷きつつ、今度はある可能性の話をしてくる。
俺…というかエルヴァンがギルドに嘘の報告をし、それを確認する為に竜人族の住むこの霊峰の遺跡に辿り着く者がいるかもしれないという可能性の話をしている。
俺はその言葉に、
「確認に来る者も、おそらく大した実力は無いと思いますけど…。ハイシェーラさんも含め、竜人族の皆様はそこらの人族に負ける要素はありませんし」
そう返すと、ハイシェーラさんは俺の言葉にふむ…と返してテーブルを見つめる。
俺がそんな彼女の様子を見ていると、
「ヴァルダ様、何故彼らを迎え入れる事にあまり前向きでは無いのですか?」
エルヴァンが俺にそう聞いてきた。
その言葉に、テーブルに視線を下げていたハイシェーラさんが俺達の方に視線を向けてくる。
その視線を気にしつつ、
「前向きで無い…事は無いのだが、正直俺は彼らが塔の生活を気に入るとは思えないんだ。彼らは戦う事が本質的に好きな者達なのだと思っている。昨日の戦っている者達を見てそう思った。そんな彼らに、争う必要が無く、モンスターを狩る必要も無く食料が手に入る環境は、退屈でしかない。勿論戦う事が好きな者もいるが、それでも塔での戦闘は大規模には出来ない。そんな彼らに、安全な塔に来る気はないかとは聞けないさ。戦う事が好きな彼らに、戦うなと言う様なものだからな」
俺がエルヴァンにそう伝えると、
「でしたら、私が相手を…」
彼らの戦いの相手は自分がやると言おうとしてくる。
その言葉に俺は、
「待てエルヴァン、落ち着け。大丈夫だ、俺もこのまま彼らを放置するつもりも無いし、この話も終わった訳では無い。…ハイシェーラさん、それと竜人族の皆さんに質問があります」
ハイシェーラさんと、その後ろにいる竜人族にそう言うと、
「今俺の元に来ても、おそらく皆さんは退屈した生活を送る事になってしまうでしょう。ですので、俺に時間を下さいませんか?出来るだけ早く俺の方で準備を進め、皆さんが退屈しない場所にする様に努力します」
更に続けてそう宣言する。
俺の言葉を聞いたハイシェーラさんは、後ろにいる竜人族の方を向く。
ハイシェーラさんに視線を向けられた竜人族達は、周りの仲間にどうするのかと聞く様に視線を彷徨わせる。
それぞれがどうするのかと聞く様に視線を彷徨わせていると、
「問題はない。皆の心に不安や心配はあるが、貴様の意見に反対している者はいなさそうだ」
ハイシェーラさんが振り向いてそう言ってくる。
どうやら今の間に、竜人族の皆の心の中を読んだ様だ。
その結果、俺の元に来るのを不安に思う事はあっても、反対するつもりが無い事に安堵する。
「それでは、出来るだけ早く俺の方で準備を始めます。ハイシェーラさん達の方でも荷物の準備などをお願いします。出来るだけ早く行動するつもりではありますが、それでも俺がこれから計画している事は結構な大規模な事になりますので、予定通りにいかない事もあると思います。もし、俺が迎えに再度ここへ来る前に人が来た場合、足止めかをお願いしてもいいですか?もう隠れてくれとは言いません、時間を稼ぐ事に協力してください」
俺は確認事項を述べつつ、もしもの時の事をお願いする。
それを聞いたハイシェーラさんは微かに笑い、
「ただの保護では無く、互いを尊重し協力し合う関係という事だな」
そう言ってくる。
俺はその言葉に頷き、
「はい。故に、帝都での行動は俺に任せてください。ハイシェーラさん達は基本的には移住の際の荷物の整理をお願いしますが、侵入者が来た際の対処はそちらにお任せします。帝都に戻ってくる事が無い様にしてくれれば、最悪殺さなくて捕縛するだけでも構いません」
俺が伝えたい事を言うと、ハイシェーラさんは俺の言葉に分かったと言ってきて、彼女の後ろの竜人族の皆も頷く。
これで、話し合いは終わった。
「では俺達は、すぐにここを発ちます」
俺はそう言って席を立つと、エルヴァンが続いて立ち上がり、
「んぐっ…にく…」
ファルシュが名残惜しそうに朝食が乗っていた石の皿を見た後に立ち上がる。
それと同時に、
「では、見送ろう。誰か」
ハイシェーラさんがそう言って椅子から立ち上がると、女性の竜人族の人が2人ハイシェーラさんの傍に駆け寄ると、彼女の体を支える。
「そんな状態で無理は…」
「対等な客人の見送りも出来ない族長など、竜人族の誇りに傷がつく。無理はしていない」
俺がハイシェーラさんに無理をしない様に伝えようとすると、俺の言葉を遮ってハイシェーラさんがそう言う。
その言葉に俺はこれ以上言い返すのは、彼女の誇りを傷つけると思い黙って俺達の横を通り過ぎ、ゆっくりと出口まで歩くハイシェーラさんの後を追う。
そうして遺跡の出入り口まで辿り着くと、
「お世話になりました。次に来る時は手土産を持って来ます」
俺はハイシェーラさんにそう言う。
俺の言葉を聞いたハイシェーラさんは、
「ならば、上手い肉が良いな。私達は肉が好物だからな」
ニヤリと笑ってそう言ってくる。
その言葉に、
「任せてください。良いモノを持って来ます」
俺はそう答えると、
「行くぞエルヴァン、ファルシュ」
エルヴァンとファルシュに声を掛けて歩き出す。
「はッ!」
「おぅッ!」
俺の言葉に返事をするエルヴァンとファルシュ。
そうして俺達は、霊峰の岩肌を戻り始めた。
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