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突然のハイシェーラさんの参戦の言葉と、ハイシェーラさんに体に起こっている様子の変化に、俺は今の彼女は幻影とかでは無く本体であるドラゴンのハイシェーラさんが、人型に変化している状態だと理解し、
「待って下さいハイシェーラさん!貴女の体はまだ完全に治っている状態とは言えません!」
俺は彼女の体の状態を心配し声を荒げるが、ハイシェーラさんは俺の言葉に耳を貸さずに、今まで見てきた竜人族の変身とは異なる、完全な人型のドラゴンになってしまった。
黄金色の鱗が肌を覆い、軽装の鎧の様に甲殻が体の表面に発生する。
その際に発生した甲殻がひび割れており、欠片がポロポロと地に落ちて行くのが見える。
…彼女のこんな姿が見たい訳では無い。
だが、彼女の覚悟を無駄にするのも俺がするべきでは無いと思う。
今俺が出来る事はおそらく彼女と戦い、彼女に大したダメージに負わせない様に戦うしかない。
俺はそう判断すると、
「すまないがエルヴァン、ここは俺に任せて貰って良いだろうか?出来る事なら、彼女と戦いのはエルヴァンの方が想いは強いだろうが、今はエルヴァンの気持ちを汲んであげる事が出来ない」
エルヴァンにまず謝罪をする。
すると、
「ヴァルダ様が謝る事などありません。…私ではおそらく、あの者が息を止めるまで戦い続けるでしょう。それが発端で、竜人族の者達との話し合いが出来なくなる可能性もあります。…よろしくお願いします」
エルヴァンは、冷静に状況を分析してそう言うと広場の隅の壁に寄りかかっているファルシュの元へ歩いて行く。
俺はそれを見送ると、
「すみませんハイシェーラさん。ここからは俺1人で相手させてもらいます」
俺は振り返ってハイシェーラさんにそう伝える。
俺の事を見ているハイシェーラさんは、まだ傷が癒えていない状態で無理をしている故に、あまり表情は穏やかでは無い。
真剣な表情の中に、僅かな痛みによる苦悶の表情が混ざっている。
あまり長い時間を掛けない様に、それでいて彼女に攻撃を当てない様に…。
俺がそう思っていると、ハイシェーラさんの体から何かが迸るのが見えた。
…黄金色だから、もしかしてと思っていたが…。
「雷…ですか」
「あぁ、私の持つ雷は全てを砕き貫く。さぁ、始めよう」
俺の推測にハイシェーラさんが少し誇らしそうに笑みを浮かべた瞬間、まさに雷撃の様に一瞬で俺の目の前まで移動をしてきた!
予想以上に速いな。
俺は冷静にそう分析しながらも、ハイシェーラさんが突き出した腕を回避すると、アイテム袋から回復薬を取り出して彼女に振り掛ける。
回復薬の霧を僅かに浴びたハイシェーラさんが、そんな行動をした俺に目を瞑っているのだが鋭い視線を向けてきたのが分かる。
俺は彼女の元から地面を蹴って後ずさりすると、
「何のつもりだ、戦いの最中に」
ハイシェーラさんは怒りを孕んだ声でそう言ってくる。
彼女の言葉に俺は、
「貴女はまだ体が完全には癒えていない。そんな貴女と本気で戦う訳にはいきません。もし今本気で戦うと言うのなら、貴女の体を完全に癒してからなら何回でも戦います」
そう答えると、今度は彼女の腕からライトニングに似た、一閃の雷撃が飛んでくる。
俺はそれを躱すと、今度は回復薬の瓶をハイシェーラさんに投げつける!
しかしそれをハイシェーラさんは掴み取ると、その瓶を割ってしまう。
だが瓶を握り潰す様に割った為、彼女の手や腕に滴る回復薬から体が癒えていくのを感じたのだろう。
ハイシェーラさんは腕に滴る回復薬を手を振って払う。
元々の体力がどれくらいかは知らないが、それでも結構な回復薬を使った。
そろそろ完全に体が癒えてもいいと思うのだが…。
俺がそう思っていると、今度は何度も雷撃が放たれる。
…今の装備、雷に対する耐性があまり高くなかったよな、当たったら痛いのだろうか?
俺がそう思っていると、
「シィッッ!!」
雷撃と共に、ハイシェーラさんが俺に特攻してくる!
俺は仕方なくそんな彼女の突撃を剣の鞘で受け止めると、
「私の敗北で、竜人族はお前達に従うだろう。何故、私を助けようとする」
ハイシェーラさんがそう聞いてくる。
その言葉に俺は、
「俺の心の中、読み取れるのなら分かるはずです。…俺は亜人族を傷つけるつもりはありません。貴女は何も悪い事をしていない。貴女と戦う理由は、俺には無いです」
そう言うと、ハイシェーラさんは鞘を握って俺から離れる。
その際に鞘が取られてしまい、俺の手には鞘から抜き放たれた剣がある。
すると、
「だが、私を倒さない限り竜人族の皆はお前には従わない」
ハイシェーラさんがそう言ってくる。
俺はそんな彼女の言葉に、
「俺は竜人族を従わせたい訳では無い。しっかりとした対話を用いて、お互いの納得できる線を見極めたいと思っています」
そう言うと、ハイシェーラさんは首を動かして僅かに視線を逸らした後、
「それで私達が納得すると思っているのか?」
鞘を俺に向けてそう聞いてきた。
俺は彼女の言葉に、
「納得させますよ。今も無理をして動いている、貴女を止めて」
俺はそう言うと、アイテム袋に剣をとてもゆっくりと仕舞う。
それを見たハイシェーラさんが、難しい表情を向けてくる。
おそらく、俺が剣を仕舞った事に異議があるのだろう。
そんな彼女に俺は、
「すみません、ハイシェーラさん。先に言っておきます、気分を悪くされます…と」
先に謝罪をした瞬間、俺は威圧スキルを発動する。
威圧スキルと発動させると、今まで倒れていた竜人族がいきなり飛び起きて広場の出入り口に逃げ込み始める。
俺の目の前で、恐怖に支配され始めているハイシェーラさんは、
「なるほど…、これがお前の考えか…」
そう呟くと、ハイシェーラさんは出入り口に殺到している竜人族に皆に向かって、
「静まれッ!」
大きい声で彼らを制する言葉を発する。
そんな彼女の言葉に、竜人族達は足を止めて首だけを俺とハイシェーラさんに向ける。
彼らのその姿を見たハイシェーラさんは、
「どんなに私達よりも高大な者が現れても、私達竜人族は立ち向かうッ!それが我ら竜人族の誇り!それを忘れるな!」
彼らにそう伝えると、ハイシェーラさんは俺の鞘を握って俺に突撃をしてくる!
その速さは先程の倍はあろうという速さ、僅かに威圧スキルで動きが鈍っていてこの速さは尋常では無い。
俺はそう思いながらも、一瞬で俺の懐に入ってきたハイシェーラさんの体を捕まえると、彼女の体を真横の床に押し倒した。
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