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どんな戦いにおいても、冷静に周りを見て状況を判断する人に油断はしてはいけない。
俺は、それを「UFO」の世界で得た考えだ。
冷静で状況を理解しようとする人は、プレイヤーと戦う時にこそ一番力を発揮する。
相手が使う魔法の種類や、その相手の何の魔法を何回使ったのかしっかりと覚えている。
そしてそれに合わせて、自分の動きを変えてくるのだ。
だからこそ、こういうタイプの人には出来る限り情報を与えない様に戦う事が良い。
レベル差がある、多少力押しで戦っても大丈夫だろう。
俺はそう判断すると、一気に踏み込んで青年との距離を縮める!
「ッ!?」
予想以上に俺の動きが速く、反応に遅れた青年の剣に剣を振り下ろすと、良い音で剣が折れる。
すると、
「…参った」
潔く、負けを認めて頭を垂れる。
俺はそんな彼を見て、手頃な剣をアイテム袋から取り出すと、
「剣が折れなければ戦い続けるのなら、俺はそれに付き合ってやる。剣が脆かったからと、言い訳をされても困るしな。それに、エルヴァンが他の者達の相手をしてくれる」
そう言いながら俺は青年にそれを渡す様に、鞘の先端の方を握って差し出す。
青年は少し驚いたような、口を少し開けたまま俺の事を見てきたが、俺が剣を再度彼の前に突き出すと、
「…感謝する」
俺から剣を受け取ってお礼の言い、剣を抜いてもう一度構える。
そんな彼と対峙すると、今度は俺の方から一気に足の踏み込んで距離を縮めると、剣を横に払うように薙ぐ。
それを青年は必死の形相で受け止めると、今度は青年が突きを繰り出してくる。
しかしあまり刺突はした事が無いのか、剣を振るっていた時よりも鋭さを感じさせない攻撃だった。
すると、青年の視線が僅かに俺の背後に移る。
それを確認した俺は、それが青年の狙っていた事だと察すると、少し強めに速く剣を横薙ぎに振るう!
「うわッ!?」
「ぐッ!」
俺の背後から静かに攻撃してきた人を威嚇するつもりで剣を振ったのだが、予想以上に風を起こしてしまった。
俺の背後に迫ってきた人を見ると少し頼り無さそうな、優しい顔つきをした青年が短剣を手に座り込んでいる。
…どういう作戦だったかは知らないが、この人はあまり戦闘に向かないのではないだろうか?
俺がそう思っていると、
「「「ダァァッ!?!?」」」
少し離れた所から聞こえてくる絶叫に、俺はそちらに視線を向ける。
そこには、エルヴァンの様に大剣を持っている男性5人が両手でエルヴァンに斬りかかっているのだが、それをエルヴァンは二振りの大剣を片手にそれぞれ持ち、男達の猛攻を片手ずつで往なしている。
それと同時に相手を切り裂かない様に、相手の持っている大剣に自身の大剣を衝突させると、相手の男性と握っている大剣ごと吹き飛ばしている。
力強い光景である。
俺がそう思っていると、優しそうな表情をしている青年が短剣を投げると、腕を前に突き出して腕を変化させ始める。
…前に見た、レオノーラさんよりも少し違うのだがそれでも彼の腕は、人の腕サイズでドラゴンになっている。
鋭い爪と、甲殻に鱗。
深緑色の姿に、俺はハイシェーラさんの言葉を思い出す。
竜人族は元はドラゴンの一族であり、ドラゴンの体から人の姿に長い年月を要したと。
そして、今では竜人族は元のドラゴンの姿になる事は出来ないと…。
目の前の青年の姿は、外見の見た目こそドラゴンではある。
しかし反対に、これ以上の変化は訪れないという事だろう。
完全なドラゴンには戻れなくなってしまったのだから。
俺がそう思っていると、
「ゴァァッ!!」
人型のドラゴンになった優しそうな青年が、先程とは様子が変わって雄叫びを発しながら俺に向かってくる。
短剣は握っていない、完全に肉弾戦か。
俺はそう思いつつ、また同じ様に鞘を握って応戦しようとする。
しかし、
「ハァッ!」
先程まで戦っていた青年が、先程投げられた短剣と俺の渡した剣を構えながら突撃してくる!
連携攻撃を仕掛けようとしてくる彼らに、俺は先に俺に攻撃してきたドラゴンの青年の腕に鞘を振り下ろして腕を無理矢理下げさせると、剣の柄の先で腹を攻撃し更に鞘で追加の横薙ぎでドラゴンの青年を吹き飛ばすと、今度は振り下ろされる剣を握っている剣で受け止め、そこから更に突き出される短剣をギリギリで躱して鞘を青年の脇腹に薙ぐ!
脇腹の痛みに苦悶の表情をする青年であるが、それでも俺から距離を取らずに俺の剣によって受け止められている剣に力を込めている。
今無理矢理にでも動きを止めない理由…なるほど、そういう事か。
俺は彼らが求めている状況に誘われている事を察すると、握っていた鞘を離して刺突の為に突き出された青年の腕を握ると、彼の体をそのまま俺の背後に投げる!
「ガッ!?」
「ぐッ!?」
俺に投げ飛ばされた青年と、人型のドラゴンの青年が激しく衝突した痛みで鈍い声を出す。
流石に結構ダメージを与えた、これ以上は生活に支障が出てしまうだろうと思い、俺は未だに動こうとしている彼らから少し離れて、別の竜人族の相手をする。
基本的に1人1人が己の力で戦うスタイルなのだろう竜人族の人達は、先程の青年達の連携攻撃に比べれば簡単に気絶くらいまで弱らせる事が出来る。
基本的には単調だ、さっきの青年達の方が強く感じる程に。
そうして戦いは続いて行き、やがて広場には俺とエルヴァン、それとハイシェーラさんが立っている状態で、後の竜人族の人達は広場の床に、もしくは仲間の上に倒れている状態になった。
気絶している人もいるが、疲労で息を荒げて地に伏している人もいる。
…おそらく数はエルヴァンの戦った人数は俺の倍の人数はいるだろう。
俺がそう思い、
「お疲れ様エルヴァン。すまなかったな、結構な人数を任せてしまった」
エルヴァンにそう言うと、
「構いません。むしろあれ程に一気に戦いを挑まれた事はありません。私の動きや、敵対している者達の動きを確認する事が出来、より一層の高みを目指す事が出来ます」
エルヴァンはむしろ、少し嬉しそうな声でそう言ってくる。
それを聞いて俺は、
「ハイシェーラさん、戦いは終わりで良いですよね?彼らを多少の力添えではありますが、回復させてあげたいんですけど…」
広場の出入り口に立って、戦いを見守っていたハイシェーラさんにそう言う。
それを聞いたハイシェーラさんは笑い、
「この戦いをするのを決めた時に言ったはずだ。私達と…。………それは、私も含まれている。彼らの長として、死を厭わない戦いをするつもりだ。…覚悟は出来たか?」
俺とエルヴァンにそう言いながら、ハイシェーラさんは自身の肌を鱗で覆い始めた…。
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