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シェーファの言葉に、俺とセシリアが動きを止める。
すると、
「…そんな人はいない。管理している私が知らないのだから、そんな者はいない」
セシリアがシェーファにそう言う。
だが、
「でも、他にも目撃情報が出てきているのよ」
セシリアの反論にシェーファが言い返す。
「…他にも?」
セシリアがシェーファの言葉に喰いつく。
「えぇ。決まって自分達の事を私の子供と言っているらしいわ」
「…変な人」
シェーファとセシリアがそう言っているのを、俺は黙って聞いている。
このまま話が終わってしまえばいいのだが…。
俺がそう思っていると、
「ヴァルダ様は、そんな女を見ましたか?」
シェーファが俺にそう聞いてくる。
…正直に言えば見た事はある。
いや、正確には認識したと言った方が良いな。
「…彼女は普段姿を現さない。彼女を察知するのも、視認するのも不可能に近い事だ」
俺がそう2人にそう言うと、
「それは一体、どういう事でしょうか?」
シェーファがそう聞いてくる。
「…あの人はマイペースでな、その時その時で姿が違う。今は女性の姿をしていても、次は男の姿になっているかもしれない。もしくはモンスター以上にモンスターの姿になっているかもしれない。あの人はそういう人だ。まぁ、悪い事はしないと…思うから、警戒はしなくても大丈夫だ」
俺がそう言うと、
「信じられない、塔の管理をしている私が見つける事が出来ないなんて」
「同感、私も理解できない」
シェーファとセシリアがそう言う。
説明しにくいんだよな…。
あの人は契約しているのかもわからない状態だし…。
俺がそう思って考え込もうとすると、
「とりあえず、危害は無いのですよね?」
シェーファがそう聞いてきた。
「問題ない、いつも通りで大丈夫だ」
シェーファの質問に、俺は自信を持ってそう答えた。
その後、2人の頭を撫でる時間を少し取った後、2人は自室へと帰って行った。
それにしても、あの人がここにいるなんてな。
「UFO」の世界でも1回姿を視認しただけで、後は姿形も確認していない。
本の中の世界にも名前は登録されておらず、俺と契約している訳でも無い。
俺はそう思いながら、ベッドにダイブして体の力を抜く。
覚える事も多いし、何より今まで以上に体を使う。
それにどこまで俺の実力が足りるかもわからないため、緊張などをして心労が溜まっている…。
だが、
「…前の世界より、生きるって事が楽しく感じるな」
俺はそう呟いて瞳を閉じる。
どれくらい時間が経ったのか、いつの間にか目が覚めている。
そこで、俺の頭が撫でられている事に気づく。
俺がゆっくりと目を開けると、
「…あら、ごめんなさいヴァルダ。起こしちゃったかしら?」
とても美しい女性が微笑んで俺の事を見る。
…俺の頭を撫でている手は止まらず、今も俺の髪の感触を楽しんでいるのか撫でている。
人を超越した美貌、黒髪で黒目のその女性は、ただ微笑んで俺の事を見る。
何故だろう、この人に見られていると心が安心してまた…眠く…。
「良い子ねヴァルダ。よく頑張ってるわ。今はただゆっくりと休みなさい」
女性のその言葉を聞いて、俺はまた意識を深い闇の中に落とす。
翌朝、俺が目を覚ますとあの女性は消えていた。
その代わり、体も心も安心して寝たおかげか完全と言って良い程元気になっていた。
これなら、また今日からも頑張れそうだ。
俺はそう思い、自室を出て草原島へ向かう。
草原島へ向かう途中で、空を飛んでいたニーズヘッグのストラクスを見つける。
…ニーズヘッグのあいつが空を飛んでいるのは珍しいな。
俺はそう思い、今日は良い日になるかもしれないと期待を持つ。
そうして草原島に着いた俺が目にしたのは、作っている途中の家だ。
見ると、バルドゥが木材を運んだり支柱などを押さえる力仕事をしており、その周りに助けた女性達が慣れない手つきで釘を打っている。
…そうか、戦闘職しか極めていないバルドゥ達には家を建てる事は出来ないが、彼女達は実際に家を建てる人などを見てきたからその知識がある。
ふむ、出来は正直あまりよろしくはないが、努力するという気持ちがあるだけ良いと思う。
「朝から頑張っている様だな」
俺が近づいてそう声を掛けると、
「おはようございますヴァルダ様。こんな格好で申し訳ありません」
バルドゥが支柱を押さえながらそう挨拶をしてくる。
「「「「「お、おはようございますヴァルダ…様」」」」」
「…おはようございます」
女性達も挨拶をしてくるが、金髪の…エリー……あ、エリーゼが少し俺の事を警戒しながら挨拶をしてくる。
他の女性達も、俺の存在をどうすれば良いのか分かっていない状態だ。
「それぞれ作業に集中してくれ。そういう作業は気の緩みで事故になる」
俺がそう女性達に指示を出すと、彼女達はお礼や返事をして作業に戻る。
…ふむふむ、こういう自分達の事を自分達で行おうとする心があるという事は、少し頼みたい事が出来てしまったな。
交渉だけしたい。
とりあえず、上手く話しが出来た時の事を考えると倉庫の備蓄が気になる。
「セシリア」
「はいヴァルダ様」
俺が誰もいない空間にセシリアの名前を呼ぶと、彼女が現れる。
相変わらず、少しドキッとする。
「倉庫へ連れていって貰えないか?ここからだと少し遠くてな」
「お任せ下さい。失礼します」
俺の言葉にセシリアがそう答えて、俺に触れた瞬間周りの景色が一瞬で変わる。
…転移とはまた違うんだろうな…。
俺がそう思っていると、
「…どうしましたヴァルダ様?」
セシリアが俺の顔を覗き込んでそう聞いてくる。
「いや、少し考え事をな」
俺はそう言うと目の前の扉を開ける。
そこには、綺麗に加工された木材、石材。
鋳塊された銅、鉄、銀、金、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト。
その他にもまだ色々な素材が敷き詰められている。
「…ここもいい加減整理しないといけないかもな」
俺がそう呟いて、更に奥へと進むとそこに無造作に置かれている土が山になっている。
すると、
「ヴァルダ様、もしや島を作るのですか?」
後ろからセシリアにそう問われる。
「あぁ。これから更に契約する者が増えると仮定して、人族や亜人族が住みやすい環境を作っておかなければな」
俺はセシリアの言葉にそう返して、職業を錬金術師に変更した。
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